『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百十二話

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 ひんやりと冷たい板に足をつけ、彼の傷だらけな指先が宛がわれる。
 ニヨニヨとして緩んだ顔はどこへやら、真剣な面持ちであれこれと見たことのない機材を当て、頷いてはメモを連ねていく姿は職人そのものだ。

 感心している私へ彼の何気ない言葉が飛ぶ。

「君背も低ければ足も小さいね、本当に15?」
「手踏んでいい?」
「だめだめ……はい足の採寸終わり。服はどうする?」

 服、服か。

 協会に来る人たちの服装の多くは私服だ。
 最低レベルのGやEランクダンジョンならともかく、高レベルになれば現代の技術で作られた装備など、その上から切り裂かれたり叩き潰されたりしてしまう。
 運よくダンジョン内で装備を手に入れた人は装着しているのだが……今のところ私は何も手に入れてない。

「やっぱり服は変えた方が防御力とか上がるの?」
「いや? そこらの服と違って破れにくくはなるけど、どこまで行っても服は服だからね。ただダンジョン内でも他の人に裸を見られたくないだとか、女性には結構人気だよ」

 そりゃそうか。
 ひらひらした服一枚で車より大きなモンスターの攻撃を抑えきれるわけがない、スキルの付与されたダンジョン装備ならまた別なんだろうけど。

「んん……じゃあいい。私基本的に一人だし」
「そうかい。それじゃあデザインはどうする?」
「デザインも……あんまり、靴とかそんなに買ったことないから分からないし……あっ!」

 今まで履いてきたお古のスニーカー。
 ほつれ、ところどころ焦げ、何なら底のゴムだって擦り切れてボロボロになってみすぼらしい姿。
 でもずっと使ってきた相棒の一つだ、愛着の一つや二つはある。

 うん、やっぱり慣れてる見た目に近い方が良いかな。

 これと似たように出来ない?
 指さし彼へ見せれば、メガネを押し上げ意外そうな顔つきをする古手川さん。

「随分使い込んだねぇだねぇ……安物でデザインは簡素、丈夫さだけが取り柄って感じだけど本当にいいのかい?」
「ずっと履いてきたから、これがいい」
「そうかい、了解したよ。そうだな……一週間後に取りに来てくれ」



「あい、それじゃ」

 少女が去る。金髪と、その年齢に見合わぬ小さな容姿が特徴的な子だ。
 表情のあまり現れない顔なのだが、その声色や動きから不思議とどんな感情を抱いているのかが伝わってくるのは、きっと彼女の魅力なのだろう。

 しかし随分と顔つきが変わった。

 以前であった少女はもっと切羽詰まっていたように見える。
 だがその也は随分と息をひそめ、年頃の少女相応の雰囲気が多少ついたように僕には思えた。

「それにしても、なんだか先生を思い出すなぁ」

 かつて何度かダンジョン内のフィールドワークのため、友人と共に護衛した人物の顔がふと浮かぶ。

 先生とはこの近くにある大学でダンジョンの研究を行っていた人物だ。
 その分野ではトップクラスの座についていたらしいが、生まれつきの気質だったのだろう、気さくで感情のよく出る、それと苦いものが苦手で子供のような人物だった。
 一度彼の家に出向いたことがあったのだがその大きさと、海外の人・・・・で元探索者だという奥さんの美人っぷりに息を呑んだのは記憶に新しい。

 彼が結婚してからのフィールドワークには彼女が護衛となっていたようで、緋色の双剣を腰に下げた彼女と白衣の先生が街中をぶらついているのを目にしたこともある。
  嫌味もなく、出会う人々とあいさつを交わす程度には好かれている、町の有名人物。




 順風満帆の人生、誰もがそう思っていた先生が……突然失踪を遂げた。




 その日はフィールドワークの予定だったらしいのだが、ダンジョンから帰って来たのは彼の奥さん一人。
 夫婦揃って明るく仲のいい人たちでまさか痴情の縺れだとも思えず、しかし帰って来た奥さんも

『違う、違うんだ』

 の一点張り。てんで話にならず、ダンジョン内ゆえ証拠も何もないので、モンスターに襲われてしまったのだろうと結論付けられ事件は一端の決着がついたらしい。
 結局いつの間にか彼女も町から姿を消し、子供が一人保護されたなんて話も流れてきたけど、どこまで行っても他人のことを人々が長いこと意識するわけもなく、二人の記憶は次第に風化していった。

 ちなみに彼の行っていた研究は一人の女性によって引き継がれ、彼女もまた特異な才能にのある人物らしく次々と新たな発見や発明をしているそうだ。


 キュルリ

 さびた椅子の軋む音が工房に響く。
 既に忘れかけていた記憶だというのに、小さな引き金ですべてが色鮮やかに蘇っていく。

 僕も歳かな……思い出に浸るなんてさ。




「なんだったかなぁ……たしか先生の名前って……結城かなでだったっけ。あれ? ……まさかね」

 だって証拠がないだろう、それに彼女へ僕の思い出を重ねてしまうのは彼女に失礼だ。
 開かれた記憶の扉へ過去を押し込み、温くなったコーヒーへ手を伸ばす。

 さて、お仕事しますか。
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