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第百五十七話
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アリアと出会ってから一か月と少し。
あの日を境に私たちの距離は自分でも驚くほど縮まり、買い物など日々行うことを二人ですることが多くなった。
一緒にいて心地が良い、それに服や食の好みがまるでぴったり気が合ってしまう。
ごはんも美味しいし、控えないと、と考えていてもついつい甘えてしまう、そんな不思議な人がアリアだった。
友達とも違う、なんと言い表せばいいのか分からない、今までに全く体験したことがない関係が心地いい。
いつか、いつの日かアリアが記憶を取り戻したら、私との生活も終わってしまうのだろうか……本当にちょっとだけ、寂しく感じる。
今は覚えていないだけでアリアにも大切な人がいて、もしかしたらその人は今も必死に彼女を探しているのかもしれない。
たまたま拾っただけの私なんて、まあ別れた後も会うくらいはしてくれるかもしれないが、今みたいな生活は決して送れないのだろう。
「気が抜けてるぞ」
「いだっ!?」
ちょっと考えた隙に後ろへ回ってた筋肉が、べしっと丸めた新聞紙を叩きつけてくる。
彼との練習試合はおおよそ一週間に一度だけ。
基本的に攻撃などのスキルは使わないし、ひたすら回避に徹底する筋肉へ一発でも入れられれば私の勝ち。
シンプルであるがそれゆえに欠点が浮き彫りになるし、それを指摘されては次の戦いで気を付けるの繰り返しが続いていた。
これは入っただろうという攻撃も、なぜかわかっていたかのようにしれっと避けられてしまう。
後ろに目でもついているのか?
「んあー勝てないー!」
「そうそう勝たれても困るわ」
ぽいっと投げ渡された真っ白なタオルに顔をうずめ、どうしようもない感情を吐き出す。
ついでに胸や頬へ伝った汗を拭い、どっと土の上へ転がり天を見上げた。
あ、服泥まみれになったらアリア困るかな……まあ許してくれるよね?
この戦い、何よりもくっきりと浮かび上がってくるのはレベル差による反応速度などだろう。
レベルが上がれば身体能力等が大幅に上がり、必然動体視力なども上がるわけだが、レベルも謎の彼は基本私の動きなんて蚊が飛んでるくらいにしか思えないはず。
要するに九割見切られている。
『アクセラレーション』さえ使ってしまえば、恐らく勝てる……が、それでは一方的すぎる戦いになる気もする。
あくまでこれは私の欠点を見つける訓練、それでは意味がない。
「まだなんか持ってるって顔だな」
突然差し込まれた、私の心中をぴったり当てる言葉にどきりと心臓が跳ねる。
エスパーか?
「っ、まあね」
「使っていいぞソレ」
適当に吐かれた言葉、これは流石の私もちょっとイラっとした。
こっちは今まで筋肉を気遣って使わないようにしてあげていたのに、その本人がこの言いようとは。
「ふぅん……速過ぎて後悔しても知らないけど?」
「あーうん、もう分かった。いいから使ってみろって」
片手をポケットに突っ込み棒立ちの舐めた態度に片眉が吊り上がる。
アイテムボックスから取り出したスマホを起動し、動画撮影のモードにしてから手に握りこむ。
額に着けた超高級ゴーグル、もとい狐のお面をしっかりと顔へ嵌め込み、本気で動き回る覚悟と準備は終わった。
クールだ私、超冷感で行こう、常に冷え冷えジェルシートの心を忘れてはいけない。
「まだか?」
「……っ、ぶっ飛ばす。『アクセラレーション』!」
地面がはじけ飛び、猛烈な勢いで宙を舞う砂粒が顔へ襲い掛かる。
しかしお面をしている私には一切効かず、全てを弾き飛ばしながら練習場をぐるりと驀進し、筋肉の背後へとぴったり張り付いた。
うーん……『アクセラレーション』状態で殴るのは互いに痛いだろうし、解除して脇腹でも突くか。
脇の木へ起動しておいたスマホを仕掛け、ばっちり漏れなく動画を撮れるように角度を合わせる。
驚愕にもんどりうつ筋肉を想像しついにやけた顔をしてしまう、今日は私の勝利記念日だ。
うまく撮れたら琉希とかウニとかにも動画を送りつけよう、これはいいネタになるぞ。
「『解除』、ちょあ! ふっ、これが私の真の実力ってワケ。まあ私を怒らせた筋肉がわる……い……」
何か、何かおかしい……?
ばっちり合ってしまった互いの目線に、拭ったはずの汗がたらりと垂れた。
そうだ。何故後ろに回り込んだ私を、この速度についてこれないはずの彼が見ているんだ?
「……はぁ」
「ほげぇっ!?」
本日二度目の脳天へ突き刺さる新聞紙。
無事這いつくばる私。
「だから言ってるだろ、最後まで油断するなって。やるなら最後まで加速して殴り飛ばせ」
「な、な、なんで!? 何で分かったの!?」
「お前『ステップ』多用するだろ。昔の知り合いにお前と同じで『ステップ』持ってた奴がいてな、そろそろ『アクセラレーション』も獲得するかと思ってたんだよ。あと早過ぎて後悔とか何とか言ってるので確信した」
そ、それってつまり……
「は、はあぁ!? じゃあ最初から分かってて煽ったの!?」
「まあそういうことになるな。それにお前なら俺へ手心を加えるだろうし、その場合後ろに回って驚かせるくらいはしてくるだろうと思ってた」
「んんんんんん!」
完全に読まれてる!?
「ずるい! ズルじゃん! 知ってたならインチキじゃん!」
「ズルじゃない、知識も武器だ。大体今のはお前が無駄な手加減しなけりゃ一発入れられただろ」
「マスター、コーヒー淹れましたよー。今日のおやつはマリトッツォ……あら、これフォリアちゃんのスマホかしら?」
練習終わりの合図、園崎さんの能天気な声が練習場に響く。
渋々立ち上がると、私の移動するとき生まれた風で吹き飛ばされた机や椅子を元に戻し、三人顔を突き合わせて座る。
「ちょっと弛みすぎな気もするが、精神面では最近一気に改善したな。無理やり踏み込んだり、攻撃をねじ込んだりの無茶をしなくなった」
「そ、そう?」
「おう、本当本当。そうやって常に余裕をもって周りを見ろ、焦ってると大事なもの見逃すからな」
よく分からないが、今の私はちょっと前の私よりなんだか違うらしい。
原因は何だろう……最近会ったことといえばアリアと一緒に暮らすようになったことぐらいだ。
まあいい方向に変わったのならいいかと、いそいそ園崎さんが持って来たパンへ手を伸ばす。
ミルキーなホイップと甘酸っぱいイチゴのコントラスト。これはもう誰でも分かるほど間違いのないもので、ケーキが大の好物である私は一目見た時点で釘付けであった。
いただきます、口を大きく開けた瞬間……
「フォリアちゃん、この動画貰っていい? 皆に見せたいわ」
「んー? よく分かんないけど好きにしていいよ」
園崎さんの横やりが入り、早く食べたかった私は適当に返事をしてかぶりついた。
このよく分かんないパンみたいなの、生クリームとかイチゴがたっぷり入ってて美味しい。
名前なんだっけ、マトリックス?
未体験で魅惑のパンへ夢中になっていた私は、己の失敗がくっきりと記されていたその動画が彼女の手に渡ることを止めることもなく、そのたっぷり挟み込まれた生クリームを堪能していた。
これは美味しい、どこで売っているんだろう。
パンを食べ終え紅茶を飲んだ後、そういえばさっき園崎さん何の話してたんだっけと一瞬思うも、まあ忘れるってことはどうでもいいことだとすぐに興味を失った。
それよりあのパンを売っている店が知りたい、買って帰ればきっとアリアも喜ぶ。
この後世界一高速のいたずら攻防戦として、動画がいつの間にか結構な再生数になっているを知るのは少しだけ後の話。
あの日を境に私たちの距離は自分でも驚くほど縮まり、買い物など日々行うことを二人ですることが多くなった。
一緒にいて心地が良い、それに服や食の好みがまるでぴったり気が合ってしまう。
ごはんも美味しいし、控えないと、と考えていてもついつい甘えてしまう、そんな不思議な人がアリアだった。
友達とも違う、なんと言い表せばいいのか分からない、今までに全く体験したことがない関係が心地いい。
いつか、いつの日かアリアが記憶を取り戻したら、私との生活も終わってしまうのだろうか……本当にちょっとだけ、寂しく感じる。
今は覚えていないだけでアリアにも大切な人がいて、もしかしたらその人は今も必死に彼女を探しているのかもしれない。
たまたま拾っただけの私なんて、まあ別れた後も会うくらいはしてくれるかもしれないが、今みたいな生活は決して送れないのだろう。
「気が抜けてるぞ」
「いだっ!?」
ちょっと考えた隙に後ろへ回ってた筋肉が、べしっと丸めた新聞紙を叩きつけてくる。
彼との練習試合はおおよそ一週間に一度だけ。
基本的に攻撃などのスキルは使わないし、ひたすら回避に徹底する筋肉へ一発でも入れられれば私の勝ち。
シンプルであるがそれゆえに欠点が浮き彫りになるし、それを指摘されては次の戦いで気を付けるの繰り返しが続いていた。
これは入っただろうという攻撃も、なぜかわかっていたかのようにしれっと避けられてしまう。
後ろに目でもついているのか?
「んあー勝てないー!」
「そうそう勝たれても困るわ」
ぽいっと投げ渡された真っ白なタオルに顔をうずめ、どうしようもない感情を吐き出す。
ついでに胸や頬へ伝った汗を拭い、どっと土の上へ転がり天を見上げた。
あ、服泥まみれになったらアリア困るかな……まあ許してくれるよね?
この戦い、何よりもくっきりと浮かび上がってくるのはレベル差による反応速度などだろう。
レベルが上がれば身体能力等が大幅に上がり、必然動体視力なども上がるわけだが、レベルも謎の彼は基本私の動きなんて蚊が飛んでるくらいにしか思えないはず。
要するに九割見切られている。
『アクセラレーション』さえ使ってしまえば、恐らく勝てる……が、それでは一方的すぎる戦いになる気もする。
あくまでこれは私の欠点を見つける訓練、それでは意味がない。
「まだなんか持ってるって顔だな」
突然差し込まれた、私の心中をぴったり当てる言葉にどきりと心臓が跳ねる。
エスパーか?
「っ、まあね」
「使っていいぞソレ」
適当に吐かれた言葉、これは流石の私もちょっとイラっとした。
こっちは今まで筋肉を気遣って使わないようにしてあげていたのに、その本人がこの言いようとは。
「ふぅん……速過ぎて後悔しても知らないけど?」
「あーうん、もう分かった。いいから使ってみろって」
片手をポケットに突っ込み棒立ちの舐めた態度に片眉が吊り上がる。
アイテムボックスから取り出したスマホを起動し、動画撮影のモードにしてから手に握りこむ。
額に着けた超高級ゴーグル、もとい狐のお面をしっかりと顔へ嵌め込み、本気で動き回る覚悟と準備は終わった。
クールだ私、超冷感で行こう、常に冷え冷えジェルシートの心を忘れてはいけない。
「まだか?」
「……っ、ぶっ飛ばす。『アクセラレーション』!」
地面がはじけ飛び、猛烈な勢いで宙を舞う砂粒が顔へ襲い掛かる。
しかしお面をしている私には一切効かず、全てを弾き飛ばしながら練習場をぐるりと驀進し、筋肉の背後へとぴったり張り付いた。
うーん……『アクセラレーション』状態で殴るのは互いに痛いだろうし、解除して脇腹でも突くか。
脇の木へ起動しておいたスマホを仕掛け、ばっちり漏れなく動画を撮れるように角度を合わせる。
驚愕にもんどりうつ筋肉を想像しついにやけた顔をしてしまう、今日は私の勝利記念日だ。
うまく撮れたら琉希とかウニとかにも動画を送りつけよう、これはいいネタになるぞ。
「『解除』、ちょあ! ふっ、これが私の真の実力ってワケ。まあ私を怒らせた筋肉がわる……い……」
何か、何かおかしい……?
ばっちり合ってしまった互いの目線に、拭ったはずの汗がたらりと垂れた。
そうだ。何故後ろに回り込んだ私を、この速度についてこれないはずの彼が見ているんだ?
「……はぁ」
「ほげぇっ!?」
本日二度目の脳天へ突き刺さる新聞紙。
無事這いつくばる私。
「だから言ってるだろ、最後まで油断するなって。やるなら最後まで加速して殴り飛ばせ」
「な、な、なんで!? 何で分かったの!?」
「お前『ステップ』多用するだろ。昔の知り合いにお前と同じで『ステップ』持ってた奴がいてな、そろそろ『アクセラレーション』も獲得するかと思ってたんだよ。あと早過ぎて後悔とか何とか言ってるので確信した」
そ、それってつまり……
「は、はあぁ!? じゃあ最初から分かってて煽ったの!?」
「まあそういうことになるな。それにお前なら俺へ手心を加えるだろうし、その場合後ろに回って驚かせるくらいはしてくるだろうと思ってた」
「んんんんんん!」
完全に読まれてる!?
「ずるい! ズルじゃん! 知ってたならインチキじゃん!」
「ズルじゃない、知識も武器だ。大体今のはお前が無駄な手加減しなけりゃ一発入れられただろ」
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練習終わりの合図、園崎さんの能天気な声が練習場に響く。
渋々立ち上がると、私の移動するとき生まれた風で吹き飛ばされた机や椅子を元に戻し、三人顔を突き合わせて座る。
「ちょっと弛みすぎな気もするが、精神面では最近一気に改善したな。無理やり踏み込んだり、攻撃をねじ込んだりの無茶をしなくなった」
「そ、そう?」
「おう、本当本当。そうやって常に余裕をもって周りを見ろ、焦ってると大事なもの見逃すからな」
よく分からないが、今の私はちょっと前の私よりなんだか違うらしい。
原因は何だろう……最近会ったことといえばアリアと一緒に暮らすようになったことぐらいだ。
まあいい方向に変わったのならいいかと、いそいそ園崎さんが持って来たパンへ手を伸ばす。
ミルキーなホイップと甘酸っぱいイチゴのコントラスト。これはもう誰でも分かるほど間違いのないもので、ケーキが大の好物である私は一目見た時点で釘付けであった。
いただきます、口を大きく開けた瞬間……
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「んー? よく分かんないけど好きにしていいよ」
園崎さんの横やりが入り、早く食べたかった私は適当に返事をしてかぶりついた。
このよく分かんないパンみたいなの、生クリームとかイチゴがたっぷり入ってて美味しい。
名前なんだっけ、マトリックス?
未体験で魅惑のパンへ夢中になっていた私は、己の失敗がくっきりと記されていたその動画が彼女の手に渡ることを止めることもなく、そのたっぷり挟み込まれた生クリームを堪能していた。
これは美味しい、どこで売っているんだろう。
パンを食べ終え紅茶を飲んだ後、そういえばさっき園崎さん何の話してたんだっけと一瞬思うも、まあ忘れるってことはどうでもいいことだとすぐに興味を失った。
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