『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百五十九話

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「はぁ……勘弁してくれ、本当に」
「そう落ち込むことはない。相手はまだ君や私がこの事実に気付いているとは思っていないはずだ。しかし怪しまれる可能性を考慮して、今までとはまた行動を変えてくるだろう」
「不慣れな行動をすることでむしろそこに隙が生まれる。むしろクレストさんに話したのは、相手の出方を促す良い刺激になったかもしれないか」

 想像以上に大きい話になって来た。
 まさか自分の所属している組織のトップが、ダンジョンの崩壊について関わりを持っているとは。

 『人類未踏破ライン』の塔、スキルやステータスといった概念、これらは全て偶然並んだものが作り上げた自然現象と言うには無理がある。
 ダンジョンという存在そのものの裏に人間、或いはそれに準ずる知的生命体の影がちらついているのを、だれしもが気付きつつ口にすることはなかった。

 勿論彼が消滅について知っているのは確定だとして、けっして悪意を持って動いているだけとは限らない……が、剛力の報告した時にとぼけていたのは事実。
 良くも悪くも腹に一物抱えているだろう。

 語り終えた剣崎はガラ悪く机の上へ足を乗せると、段ボールの中からウルティマックスコーヒーを取り出し、だらけた態度で適当に飲み干し始めた。

「この部屋は防音仕様だし、カメラも全部切ってある……このことを知っているのは君と私だけ。どうする? これ以上の深入りは避けることも出来る」
「もし俺が見なかったことにしろと言ったら?」
「もし君が諦めるなら、この紙はシュレッダーにかけた後燃やして、他にもいろいろ纏めたこのデータが入ったUSBもデータを消した後物理的に破壊するわ」

 くるくるとホルダー付きのUSBを指先で弄びつつ、剛力へ軽い流し目。

 剣崎自身この話が相当まずい内容であることは理解していた。
 世界へ跨がる組織のトップがテロ組織的存在とかかわりがあるかもしれない、なんて冗談で言える話ではない。
 相手がどれだけの規模で動いていて、誰が信用できるのかすら分からず、なんなら今剛力に話すこと自体がかなりのリスクを背負っている。

 その上で話してきたことに喜ぶべきか、それとも巻き込まれたと憤慨するべきか。

「お前が開発したあのダンジョンが崩壊するか分かる奴あっただろ。あれはどこまで設置されてるんだ」
「世界各地の人類未踏破ラインには全て設置され、都市圏や人口の密集しているダンジョンの三割には既に供給が始まってるね」
「クレストさんの行動を追いつつ、未踏破ライン崩壊の兆候があったら電話してくれ。それまでに俺は用事を済ませておこう」

 彼女の細い指に絡まるホルダーを奪い取り、剛力はアイテムボックスへ放り込む。
 ため息とともに段ボールの中からウルティマックスコーヒーをひとつ取り出すと、苛立たし気に中身を一気に飲み干した。

「全く、お前は学生の頃からいつも俺に面倒事を持ってくる」
「まったくもって君という人間は、学生の頃からいつも私の悪巧みに乗ってくれるなぁ」



「フォリア、ここに座れ」
「は? ちょっ!? 筋肉!? 勝手に持ち上げないで! 蹴るよ!?」
「もう蹴ってるじゃねえか」

 筋肉との訓練があった翌日の朝、することもないのでふらふらっと協会へ訪れた私の脇を、突然掴み持ち上げた筋肉は、そのまま自分の部屋にある大きな椅子へと座らせてきた。

 部屋には園崎さん。朝早いだけはあり眠いようで、無言で目を瞑りお茶をすすっている。
 こそばゆさと妙な羞恥に苛立ち彼の足を蹴り続ける私へ、筋肉はいたって真面目な顔を向けた。

「お前に大切な話があります」
「きも、何で突然敬語なの?」
「……現在、いや、それどころか発足当時から探索者協会、特に日本支部は人材不足に喘いでいる。書類の扱いなんてものは後から覚えれば良い、それ故戦える奴なら誰でも引き入れたいわけだが」
「だから?」

 面倒事の匂いがする。
 具体的に言うなら昨日と同じ、仕事を押し付けられる匂いだ。

 ぴょいと腰を浮かび上がらせ逃げの体勢に入るも、うしろから座ってろとばかりに押さえつけられ、私の願いは儚く散っていった。
 つややかに磨かれた机の上へ、低い音を立てて積み重ねられていく紙の束。
 指を突っ込んだ隙間から溢れる小さな文字の羅列は、ちらりと見るだけでめまいがする。

 なんて恐ろしい量なんだ、こんなものを読んだら間違いなく頭がおかしくなって死んでしまうだろう。

 無数の絶望へ恐怖に総毛立つ私。
 しかし本当の絶望はまだ始まってすらいなかったのだと、続く筋肉の言葉に悟るまで大した時間は必要なかった。

「一か月でお前にはこれを覚えてもらう。本当はもう少しゆっくり出来たらいいんだが、今は時間がない」
「なにこれ?」
「支部長の職務内容や規定、ここらの協会関係者にその他色々だ。まあ関係者については覚えなくてもいいだろう」

 容量の少ない思考回路を埋め尽くすクエスチョンマークの群れ。

「なんで?」
「一週間後に大きな仕事が入ってな、暫くここを離れることになる。いつ帰ってこれるかも分からん、現状実力も間違いなくまあ人間性も……多分大丈夫なお前に任せることにした。大丈夫だ、大半の職務は美羽がやってくれる」
「――っ!? げほっ、ごほっ!? マスター!?」

 いきなり矛先の向いた園崎さんはお茶を撒きちらし、だんっ、と立ち上がる。
 汚い。

「美羽はこう見えても俺がいないとき雑務の大半を処理してるからな、押し付ければ渋々だが完璧にこなしてくれるはずだ」

 なぜか私たちが受ける前提で進んでいく話。
 あまりに唐突過ぎる。今までそんな話一回足りとてしたことなかったじゃないか、一体何が彼の心をここまで変えてしまったのだ。
 まさか脳みそが本気で筋肉に飲み込まれて、まともな思考能力すら奪われてしまったのだろうか。

 嫌だ、やめてくださいと吐き出された二人の抵抗を、彼は一ミリたりとて聞き入れず口を開き続けた。

「既にお前の顔はここらの関係者に周知されてるはずだ、今まで俺が連れまわしたしな。最初は完璧じゃなくていい、少しずつ慣れていくんだ。出来るか?」
「やだ」
「よし、出来そうだな」
「やだ!」
「そうですよマスター、横暴です! 突然こんなこと言われて出来る人間なんていませんよ、せめて本部から他の優秀な人を派遣してもらいましょう。私はそんな面倒な事したくありませんし」
「美羽。お前が帳簿を誤魔化してあれこれ甘味を買い込んでるの、身内みたいなもんだし見逃してやってる訳だが。もし本部からまじめな人が出貼ってきたら、お前どうなるんだろうな」
「マスター、後のことはすべて私にお任せください。完璧にこなして見せましょう」
「は!? 園崎さん!?」

 ほとんど逃げ道はなく、私のあれこれは決まってしまった。
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