『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百六十一話

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 ぎんなんを洗って干すために広げた後、三人で向かったのは協会の地下室であった。

「備品の管理?」
「そうそう。ポーションやなんやら色々あるからね、数の確認に使った分の補充、それと新しく必要なものがあればそれも注文するのさ」

 秋も深まった今、日も差さず暖房もない地下室は中々冷える。
 もう少しあったかい服装をして来ればよかったと、鳥肌の立った腕を擦りつつ辺りを見回し、冷たい灰色のコンクリートを睨みつけた。

 一つ一つ戸棚を覗いては籠を下ろし、膝を突きながら一つ、二つとポーションの数を数えていく。
 ポーションが終われば非常食の賞味期限、それが終わればまた次と結構やることが多い。

 それにしてもこんなにポーションがあると壮観だ。
 一つ一つが高いものの上、高品質なものも結構な数が揃えられていて、穏やかに光っている姿はついつい見とれてしまう。

「仮とはいえ貴女も協会の職員の一員になってるから、必要とあらば持ち出して使っていいわよ」
「ほんと!?」

 一つくらい欲しいなと思っていた所で、思いがけない嬉しい話に声のトーンが上がる。

 なんて太っ腹なのだ、流石協会儲かっているだけはある。
 今まで高くて最低限の分しか買ったり使ったりしたことがなかったが、好きにしていいならがっつり持っていてわしわし使ってやろう。

「ただし持って行った分は必ずここに書いてね、品質でアルファベットが振られてるから」
「わかった」

 彼女が指さすのは壁へ引っかけられたクリップボードとペン。
 確かに言う通り、挟まれた紙には使用したものの数などが書けるようになっているようで、ここ最近書かれたであろう文字も見えた。

「高品質なのはあんまり使わないで、高いから」

 うきうきと手を伸ばした私へ突き刺さる忠告。

 世知辛い。
 いくら協会といえど最も高いものをバカスカ使われるのは厳しいらしい、なんでこんなことだけは現実的なんだ。

「うーん……結構ごっそり減ってるねぇ、何に使ったんだい?」

 一人黙々と数を数えていた古手川さんが、メガネを手の甲で押し上げ呟いた。

「え? そんなはずないですって、最近は特に崩壊も起こってませんし」

 先ほど数をメモしてくれと言っていたクリップボードを取り上げ、ちらりと眺める園崎さん。
 直ぐにはたと視線が止まり、なるほどと彼女の首が頷いた。 

「ああ、一昨日にマスターが持って行ったみたいですね」
「剛力さんがかい? あの人がポーションを持ち出すなんて珍しいねぇ、よほどのことがないと必要ないだろう」

 筋肉がポーションを……?

「ねえ園崎さん、筋肉って協会の人と協力して、アレ・・について色々調べてるんだよね……?」

 ふと湧き出した不安。

 妙だ。
 経験、そしてレベル、共に圧倒的なものを持つ彼が、一体どうしてそんな大量のポーションを必要とするのだろう。
 調査をするにしたって今はまだ記憶の保持が出来る人間を探すだけなはず、彼がそこまでの重傷を何度も負うようなことが起こるなんてありえない。

 ……本当に彼は唯、協会の人と協力して人を探してるだけなのか?

 何か私たちには知らされていないような気がして、いやなものがお腹の中でぐるぐるする感覚に酔う。
 確かにダンジョンの崩壊と消滅は大変な災害だ。
 でもそれよりもっとヤバいことに、私たちには話せないことに彼は足を突っ込んでいるのではないだろうか、そんな気がしてならない。

「……ダンジョンの調査をしてるだけよ。きっとレベルの高い所に挑むから、予備で多めに持って行ったんだわ」
「そっか……そうだよね」

 表面上はもっともらしい彼女の言葉に、一時的な安心感が欲しくて同意してしまう。
 ため息を吐きそうになったその瞬間、ポケットから振動音と共に曲が流れだした。

「はい、もしもし」

 着信を受けたのは筋肉から預けられた電話、協会の関係者などと連絡を取るためのものだ。
 これが鳴った理由の候補はさほど無数にあるわけではない。

 市内で探索者が問題を起こしただとか、何らかの理由で関係者が私と会いたいだとか、あるいは……

「――崩壊の兆候あり、だって」

 協会の力は必要になった時くらいだろう。

「ランクはD、場所は隣町。私一人でも対処できると思う、駅の出口に迎えも来るらしいし行ってくる」

 思ったより手短に伝えられた指令は協会の本部からだ。
 相手側も私の名前を既に筋肉から聞いていたようで、私が出たことに何も驚かず淡々と詳細を伝えられた。

 これが私の初仕事……になるんだよね? いまいち自覚ないけど。

 そもそも職員扱いになっているのもさっき聞いたばかりなので、結構不思議な感覚だ。
 勿論それらへ異議があるわけではないが、あれこれと大掛かりなものを書いたり、或いは偉そうな人に任命されたわけでもないので、正直なところまだ現実感がない。

 まあ出来ることはするだけだ。

「あ、ちょっと待って頂戴」

 立ち上がった私へ園崎さんが制止を掛ける。

 しばし戸棚をあれこれ引いた彼女が引っ張り出して来たのは、アイボリーの大きなコートであった。

「ダッフルコート、支部長は協会からこれが支給されるのよ。色々書類とかカードもあるけど、緊急時の視認性を上げるためにね。マスターは暑いからって着ないの、ほとんど新品のままここに仕舞ってたけど丁度いいわ」
「まあ筋肉の威圧感ならこんなのなくても分かるんじゃないかな……」

 あいつは顔もCMとかで売れてるし、昔の私みたいにあまりテレビを見ていない人間でもなければ、多分誰でも一目見たらうおっ、筋肉だってなるんじゃないだろうか。
 それぐらい存在感のある人間だ。

 広げてみたところ袖には細長いなんかの葉っぱの模様、背中には複雑でよく分からないが……鳥、だよね……? そう、鳥っぽい謎の模様が描かれていて、一目見たらこれは間違えないだろうと頷ける。

「マスターと一緒に何度か出向いたとはいえ、貴女は小さいし信じてもらえないこともあると思うわ。一応これ着て行きなさい、多分役に立つと思うの」
「ありがと、ポーションも貰っていく」

 私が着るとほとんどロングコート同然だが、寒かったしそれならばと着させてもらう。
 動き回れるように固定するためだろうか、ベルトをぐるりと回してしっかりと結ぶことでどうにか着ることはできた。

 しかし肩や、二度折りたたんだとはいえ、袖の大きさが流石に段違いすぎるので、戦いのときには脱ぐことになりそうだ。

 雑にケースからポーションを掴み取ってアイテムボックスへ放り込む。
 見た目からして品質はさほど高いものではないし、ダンジョン内に囚われけがをした探索者がいたらと思うと、結構多めに持って行っても怒られないだろう。
 余った分は貰っても許される、なんと素晴らしいシステムだろうか。

「ええ、気を付けて」

 二人へ頷き一足先に地上へと帰還し、一気に駆け出す。

 崩壊まで恐らく半日ほど余裕はあるが、ダンジョン内で助けを待っている人がいるかもしれない。
 そう思うとのんびりはしていられなかった。

「あ、ポーション何本持って行ったか書いてないわ……」
「じゃあ数え直しだねぇ」
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