『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百六十四話

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「やめなって。何しに来たの? その人殴るため?」

 勿論みすみす殴らせるわけもなく、下から手を伸ばしはしっと止めさせてもらう。

 多分おじさんと呉島の間には相当のレベル差がある。
 折角怪我もほとんどなく助かった人だというのに、こいつに殴らせて怪我や、或いは死んでしまっては後味が悪い。

「離してくれ、あんたには関係ない」
「関係ある、私たちの使命はこの人たちを保護して、ボスを倒しダンジョンの崩壊を食い止めること。妹さん助けたいならなおさらこんなことしてる暇ない」

「……っ。センパイ、じゃあ俺行かせてもらうんで」
「違う。貴方の仕事はここでこの人たちを守ること、そのためについてきてもらったのは分かってるはず」

 必死に振りほどこうとしているが、ちょっとこれだけは離せない。

「うるせえ! こんなっ、こんな自分勝手のハゲより芽衣の方が何倍も大事なんだよッ! たった一人の肉親なんだっ、頼むから離してくれ!」

 目を剥き、歯を食いしばり、激情を吐き出しながら懇願する彼。

 気持ちは分かる……なんて言わない、私にはそこまで守りたい唯一の肉親だとか、大切な存在なんていないから。
 しかし彼の感情の奔流は圧倒されるものがある。

 それでも私は彼を行かせようとは思えない。

「呉島、さん。レベルは?」
「一万七千だ! これだけあれば十分勝てるッ!」
「無理」

 やっぱり無理だ。
 私の手を振りほどけない時点でなんとなく察していたが、あまりにレベルが足りない。

 ダンジョンのレベル上昇速度は、ちょっと上がったかなぁ? 何てなまっちょろいものじゃない。
 それこそモンスター同士の共食いが起これば数倍に跳ね上がるし、3000ほどしかなかったダチョウのレベルが一万を一瞬で超えたのを私は見た。
 普通の探索者の百倍程度の成長をする私ですら、侵入当時適正レベルであったとして、そのレベル上昇へ追いつくことは厳しいほどだ。

 さらに炎来のボス、巨大な炎狼はそんなレベルじゃなかった。
 五万超えの怪物……しかも私が倒したのは、本体が分裂したうちの一匹で、外へ溢れた複数の奴もいた。
 もしあれを筋肉が倒していなければ、とんでもない被害になっていたに違いない。

 一万七千、その口ぶりからしてきっと、彼の年齢でそのレベルはそこそこ高いのだろう。
 しかしそれでは足りない、たとえボスでなくとも、複数のモンスターと出会えば蹂躙されるのは目に見えている。

 私のスキルが特殊だから格上や複数を一気に倒す事が可能なだけで、『スキル累乗』や『アクセラレーション』の使えない他の探索者が格上に立ち向かったところで、隔絶した防御力や体力を削りきるのは難しい。
 だから皆同じくらいのレベルで固まってチームを組むし、自分のレベルより上のダンジョンには潜らないし、なんなら格下ばかりを倒すのだ。

 第一彼は冷静を欠いてる。引き際すらまともに判断できないし、妹さんが見つかるまで進み続けるだろう。
 そんなの死にに行くだけだ。

「俺の妹は俺が守るッ! 元々俺一人でやるつもりだったんだ、あんたの力はいらない!」
「――ねえ、このままいけばきっと、いや、必ずあなたは死ぬ、私にはわかる」



「それでも無理やり行くつもりなら腕を折る、それでも駄目なら足を折る。死なせるくらいならここから動かさせない」

 こっそり『アクセラレーション』を発動させ、加速した世界で地面を思いっきり踏みつける。

 ダンッ!

 超加速された私の踏み付けは、半径1メートルほどある巨大なクレーターを作り、周囲に立つ人すらもその衝撃に気付き驚愕に目を剥いた。

 ぶっちゃけはったりだ。
 実際の所三倍ほどしかない彼と隔絶したレベル差を演出できる、自分が行くよりいいと思わせることが出来る。

「私には大事な人から任せられた使命がある。あの人がいない間崩壊を食い止めるって、安心して行動できるように出来る限りのことをするって使命が。だから今だけは私を信じて欲しい、妹さんも私の出来る限りをもって探すから」
「……分かった、後は任せる。」
「ありがとう」

 きっと妹さんはもう……それでも、ダンジョンにすべてが吸収される前に、彼女の遺品だけでも私が回収しようと思う。
 それが彼に任せられた私の仕事だから。

「じゃあ行くね、この人たち守るのは任せるから」
「ちょっと待ってくれ、芽衣は絶対に生きてるし、必ず助かる……ここに来る前そう占いに出たんだ。俺の占いは必ず当たる、そういうスキルなんだよ。今から芽衣がいる方向を占う」

 あ、さっき言ってたの本当の話だったんだ。

 しかし占い、か。
 たった二文字から漂ううさん臭さは何なのだろう、私の偏見かもしれないが。

 随分と冷静を取り戻した彼。
 きっとこれが素の喋りなのだろう、先ほどまでの苛立たしさしか感じない五月蠅さは、呉島の焦りや苛立ちを隠すためか。

「あんた何か棒とかないか?」
「私の武器ならあるけど」

 占いに必要なんだ、手を突き出し言われたのでカリバーを手渡す。

「バット……専用武器って奴か、初めて見たぜ。じゃあいくぞ」

 二度ほど表面を撫で、地面へとそれを立たせる呉島。

 占いとはいえスキル、その効果に興味がわかないと言えば嘘になる。
 彼がここまで間違いないと信用を置いているのだ、完全に信じるとまではいわなくとも、進む方向の指針にはなるかもしれない。

 すぅ、と彼が深く息を吸い込み、カリバーを握った手を開いて天へと突き出し、力強く絶叫した。


「『運命の道標』よッ! 俺に芽衣の居場所を教えてくれェッ!!!!!!」


 特に光るだとか、何か魔法陣が展開することもなく、ぽてっと倒れるバット。
 当然である。先っぽが少し丸まっているのだ、めり込ませでもしない限り倒れるに決まっている。

 呉島は私へカリバーを返すと、先ほど倒れた方向へ自信満々に指を差し、力強く宣言した。

「あっちだ」
「馬鹿にしてんの?」

 こいつ真剣な話してるのに本当にしょうもないな。
 妹が死にそうってときなのに薄情すぎる、こんな冗談で時間を使うなんて、本気で助けたいと思っているのか?

「信じてくれ、本当なんだ……この通りっ! 芽衣はこのバットが指す先に絶対いるっ! 今だけは俺を信じてくれッ!」

 ちょっと、いや、大分怒りが湧いてきた私の足へ縋りつき、彼は何度も土下座を繰り返した。
 本気だ、本気でこいつ今ので妹さんの方向が分かったと思っている

 なんか占いに出たから違いないって、ちょっとあれな宗教に嵌まってるみたいで怖いな。

 しかし私がさっき言ったことを返されてしまえば、信じるしかあるまい。
 どうせそれで見つからなければそこからぐるっと回っていけば良いだけだし。

「……分かった。『アクセラレーション』」

 風除けの狐の面いなりんを被り、後ろも振り返らず歩みを進める。

 歩きは駆け足へ、駆け足は疾走へ、疾走は驀進へ。
 草を蹴り、幹をへし折り、一陣の風となって森を駆け抜ける。

 この先にいるんだよね? 信じるぞ呉島。




「は……なんだよその速度、本当自身失うぜ……俺も小さい子に守られてるようなもんじゃねえか」
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