『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第百六十五話

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「これは……」

 何か大きなものが木を押し倒しながら進んだ破壊痕。
 それは呉島がカリバーを倒した方向、すなわち私の進行方向へまっすぐに伸びていた。

 おお……!

 感や偶然というにはあまりにぴったり、これには私も彼の占いがあながち完全な当てずっぽうではないと悟る。

 あのおじさんはモンスターの囮になったと言っていた。
 人の多く集まる入り口から離れている方向、確かにこれなら囮として完璧な行動だろう。
 そしてまず一つ目がぴったり一致した彼の占い曰く、彼の妹はまだ生きている、助かるらしい。

「んじゃ、占いを現実にしてみますか……!」

 絶対に当たる占いか……今度私の運勢とか占ってもらおうかな。



「でっか……!」

 破壊痕を追い続けた先、あまりに巨大な熊を見つけ驚愕する。

 四足歩行だというのに成人男性二人以上はある体高、全身を包む毛は一本一本が針のように鋭い。
 奴が追う先には……片足を根元近くから引きちぎられ、目を瞑りぐったりと木の根元で倒れる少女。

 本来は綺麗な黒髪であろうに、血と泥にまみれたその姿は悲惨その物。


「見つけた……!」

 あれはヤバイ、息があるとして瀕死も瀕死だ。
 というか本当に生きているのか、もう駄目じゃないか。

「『巨大化』! ほあああ」

 斜め横から熊のわき腹へ、『アクセラレーション』の勢いを纏ったまま、木の幹程巨大になったカリバーへ抱き着き全力の体当たりをぶちかます。

 速度だけでは足りない分を巨大化したカリバーで補う。
 咄嗟に行った作戦であったが幸い大成功、エネルギーは全て熊の身へと叩き込まれ、地面へ着地し『アクセラレーション』を解除した瞬間、熊の巨体はギャグマンガさながらの様相で木々を下敷きにしながらぶっ飛んでいった。

 これいいな、これから使お。

「おにい……ちゃん……?」
「違います」

 薄く開かれた眼は焦点が合わず、私の顔すら全く見えていない様子。
 しかし浅くながら胸は上下し、かすれ絞り出すようなものではあるが、確かに私に向かってしゃべった。

 深い安堵と歓喜。
 間に合わなかった……なんて後味の悪いものじゃない、ギリギリでも生きている。

「うち……がんばった……よ……みんな……まもって……」
「いや死なせないから。しっかりして、お兄さんが待ってるよ」

 言い切る前にゆっくり目を閉じる彼女。

 大慌てでアイテムボックスからポーション、それも最高品質のドラゴンブラッドを引っ張り出し、栓を歯で引っこ抜く。
 そしてなんか感動の死を遂げようとしている彼女の背中を支え、喉奥へ無理やりその赤黒くほのかに輝く薬を流しこんだ。


 どうだ……?


「……よしっ!」

 肉が盛り上がり、逆再生でもするように彼女の足が再生していく。

 死んだ人間にはポーションが効かない。
 逆に言えばポーションの効果が出るということはすなわち、なんとか生きているということ。

 全身のかすり傷も綺麗さっぱり無くなったところで彼女の睫毛が震えた。

「……小学生?」

 開口一番、きょとんとした顔で吐き出される言葉。
 私は大人なので決してこんなことで怒ったりはしないのだ。

「もう一度熊に食われる?」
「いやマジもうヤバかったんで勘弁してください」

 流石一番高いポーションなだけはある、もう普通の返答をできる程とは。

 全快した彼女はすくりと立ち上がると、ガチで助かりましたと頭を下げた。
 どうにかここまで木の裏に隠れたりと逃げてみたものの、鼻の良さ故かすぐにばれてしまい着実に距離を詰められたうえ、最後は足を爪で引っかかれてしまったらしい。

 それにしても身長高いな、頭二つ分くらい上だ。

「貴女が芽衣さん?」
「は、はい! ウチが芽衣です!」
「お兄さんの代わりに助けに来た、私は支部長代理の結城、結城フォリア」

 本人確認も済んだところで、一応怪我を負っていた彼女の体調を考慮して歩きながら元の道を進む。
 全力ならそこまででもないが今は長い道のりを歩くとやはり姉弟、彼女もしゃべるのが大好きなタイプらしく、最初こそ黙っていたもののそわそわとし出し、私へ話しかけてきた。

「小学生……って訳ではないんですよね。探索者って十五以上じゃないとなれないし……」
「そう、私はこう見えても結構な年齢」
「じゃ、じゃあ年齢とかって……きいても……?」
「十五」
「タメじゃん! 敬語使って損したわ! フォリアでいい? つかもうフォリでいいよね!」
「まだなんにも言ってない」

 こいつ、やっぱり人の話聞かないタイプか。
 兄妹でこんなところまで似るとは、話してて疲れるしなるべく関わりたくないタイプだ。

「ん? タメでそんな強いの!? やっば、フォリやっば!」
「まあ、私はいろいぶへぇっ!?」
「フォリィ!?」

 やられた。

 ぬっと後ろから現れた影は先ほどの熊。
 手の一つすらも下手な幹より太いそれが、まるでモグラたたきのように私を叩き潰して来たのだ。

『最後まで油断するな』

 以前言われた筋肉の言葉が刺さる。
 全てにおいて私は甘い。彼女をどうにか救えたという安心感から、モンスターへの警戒を怠っていた。

 今はたまたま手痛い一撃を与えた私へ攻撃してきたからいいものの、もし私ではなく芽衣の方に向かっていたら、きっと後悔してもしきれない。
 注意不足、本当に未熟だ。

 まだ筋肉のようには出来そうにないな。

「はぁ……『アクセラレーション』」

 反省のため息とともに加速し、叩き潰して来た足を押し返す。
 地面へめり込んだ足を引っこ抜き、手放してしまい地面へ転がったカリバーをしっかり握り締めると……

「『ストライク』! からの『スカルクラッシュ』!」

 かっ飛ばす。

 『スカルクラッシュ』の動きが終わる前に、『ステップ』で硬直を強引に誤魔化し後ろへ回り込み再度『ストライク』と『スカルクラッシュ』のお見舞い。
 『アクセラレーション』を解除した瞬間、熊は地面へ顔をめり込ませ、ゆっくりと光へ変わっていった。

『合計、レベルが2423上昇しました』

 おお、もしかしてこの熊結構レベル高かったんじゃないか。

 がっつりとレベルが上がったのは結構嬉しいことだが、つまりそれはダンジョン内のレベル上昇がかなり早まっているということ。
 まずは彼女を入口へと送り届けた後さっさとボスを倒さねば、下手したら雑魚モンスターに彼ら全員が殺されてしまうかもしれない。

「帰ろ、お兄さん待ってるよ……ねえ、聞いてる?」
「……超パない……クールガールじゃん……」

 しかし私は早く戻りたいというのに、肝心の本人の意識がどこか遠くへ向かっていた。
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