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第百八十二話
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アリア……いや、ママと一応の会話を終え数日。
どこかが崩壊したとの連絡もなく、色々心の整理などもあって協会へは足を運んでいなかったのだが、久しぶりに顔を出してみれば驚いたことに、寂れた協会に似つかわしくない大量の人。
合計十人くらいだろうか、老若男女問わず皆見たことない顔。
しかも何故か私の顔を見た瞬間押し寄せてきて、恐怖に変な声を上げて執務室へ引き籠ってしまった。
後からウニに話を聞いてみれば、どうやら以前私が載った新聞記事を見て興味を持った人たちらしく、要するに探索者を志願しに来たらしい。
ここ数日こういった人がどんどん来るようで、あっという間にこの支部における既存の登録者人数を上回ったとのこと。
そして探索者の人数が増えるということは必然、事務処理の量も圧倒的に増えるということ。
今まで園崎姉弟の二人で十分回せていた協会内部の仕事であったが、流石にここまで増えてしまえばキャパオーバー、急遽私までもが参加し夜まで処理する羽目に。
「なるべく早めに新しい子入れたいわ……二人位かしら」
「姉貴、ぼやいてないで早くソレ終わらせてくれよ」
園崎姉弟の会話が響く執務室。
人物の登録が終われば今度は本部へ送る、今日買い取った魔石の品質や数等の書類……やることが多い。
そしてこれが終わってもまだ帰れないのだ。
今のところ新しく入った人たちはそれぞれ、ペアやトリオなど気の合う人同士でチームを組み戦っているようで特に問題はない。
しかしきっと何かの壁に当たる時はあるだろうし、もしそれが私と同じようなものであったならきっと力に慣れるはずだと、色々思い出して書き出しパンフレットにする予定がある。
まあ私もまだ初めて一年経ってないし何様だと言われるかもしれないが、私の経験はなくとも筋肉から聞いたこまごまとした知識などは知っておいて損はないはずだ。
「おなかすいたなぁ……」
時計の針が指し示す時刻は午後の七時、おなかも減ってくる時間帯。
しかしここ二、三日、以前は毎日違うものを出してきてくれたママが、朝食も夕食も全く同じものを出してくるようになったのはちょっと困った。
調べたら海外では毎日似通ったものを食べるのは普通らしく、もしかして記憶が戻りつつあるのではと、小さな期待が芽生えたのも事実。
「フォリアちゃん、これ確認お願いね」
園崎さんがぱさっと机の上に紙束を突き出す。
「分かった……ん?」
紙を捲る音が部屋に響いた。
一行読んでの違和感。
二行読んでの既視感。
三行読んで疑惑は確信に変わる。
これは……
「――またおんなじの混じってる、昨日と一昨日も見た奴じゃんこれ」
「あ、あら……? 一応今日届いた書類のはずなんだけど……目を通してるならまあいいわ、ごめんなさいね」
「まあいいけど、気を付けてよ」
口も態度も性格も軽いが一応優秀なはずの園崎さんが、こうやって同じミスをするなんて結構珍しいかもしれない。
ウニは黙々と作業をしているが額にしわが寄っているし、皆口に出さないだけで疲れてるのかも。
「一端休憩にする? なんか注文しようか?」
「良いわね! 経費で落とすから良いもの食べましょ!」
「また勝手に経費で落として、剛力さんに怒られても知らねえぞ……」
顔を上に向け目元をぐりぐりと押しながら、ウニが呆れたようにつぶやいた。
まるで俺は違うと言わんばかり。
「じゃあウニは食べないの?」
「いや食う」
真面目ぶっておきながら、彼はしれっとこの前皆で行った焼肉屋の弁当、それも一番高い奴の名前を挙げた。
せこい奴だ。
今度筋肉が経費について言って来たら全部こいつのせいにしてやろう。
机の上に置かれていたスマホへ手を伸ばした瞬間、丁度電話が軽快な音楽と共にバイブレーションを上げた。
「お、筋肉からだ」
「あら? マスターがこんな時間に電話なんて珍しいわね、そもそも電話自体あんまり使わない人なのだけれど……」
そう、琉希や芽衣は割とバシバシSNSでメッセージを送ってきたり、或いは電話を掛けてきたりと騒がしいのだが、逆に筋肉はあまり電話を掛けてこない。
今まで電話をしたのは数回、それもほとんど私側から何か報告をする時くらいで、彼からの電話と言えば昨日ダンジョンの崩壊を止めた時にかかってきたものくらいだろう。
そういえばこの前、もう少しで掴めそうだなんて言っていた気がする。
もしかして何かすごいことを掴んだりとか……?
「もしもし?」
『――ああ、フォリアか』
「!? あ、うん、そうだけど」
今まで結城とばかり呼ばれていたので、いきなり名前を呼ばれ目を丸くする。
しかし雑音がすごい。
風の音か……いや、波の音? 結構荒々しく叩きつけられる波の音が、スマホのすぴーからでもはっきり聞こえる。
そのせいか分からないが、普段結構音量大きめの彼の声が妙に小さい、ぼそぼそ喋っているような気すらした。
『どうだ……お母さんとは、仲直り出来たか……?』
「――うん、なんとか。まだ記憶は戻らないみたいだけど、もし戻ったら色々話そうって約束したんだ」
『そうか……そりゃよかった。親子ってのは、憎もうと死のうと……切れねえ縁があるからな……仲が良いに越したことはない』
「そうなんだけどさ、やっぱりママの記憶が戻らない方が良いかな、なんて思っちゃう時もあるよ」
今のアリアと前のママを重ねることはやめた。
彼女は彼女で何も知らず、しかし母親として私と暮らすことを選んでくれたのだから。
しかし記憶が戻ってしまった時、果たして彼女に拒絶されてしまってもさらに踏み込めるのか、それは正直分からない。
勿論踏み込むつもりではある。
踏み込むつもりではあるが大概にしてこういう時考えていたことを、いざという時実行できるかどうかは言い切ることが出来ない。
要するに覚悟は決めていても、消えない恐怖心はどうしようもなく存在するってだけなのだが。
人の手に負い切れるのか分からない災害、押し寄せる探索者志望の人たちへの、元と言えば自分の行動から彼らがこの道へ足を踏み入れたのだという責任感、行先の見えない自分自身の家庭事情。
最近色々積み重なって結構苦しさを感じてはいる。
ふとした瞬間叫びたくなるような閉塞感、でも見渡せば筋肉や園崎さん、必死に自分の出来ることを頑張っている人がいる……
「だからまあ、私は出来る限り頑張るよ」
「そうか……」
マイクの奥、筋肉がふっと笑ったのが聞こえる。
『――すまない、全部俺が悪かったんだ』
そして、耳を押し付けじっとこらしても、風で掠れ消え入るほど小さな声で彼が呟いた。
どこかが崩壊したとの連絡もなく、色々心の整理などもあって協会へは足を運んでいなかったのだが、久しぶりに顔を出してみれば驚いたことに、寂れた協会に似つかわしくない大量の人。
合計十人くらいだろうか、老若男女問わず皆見たことない顔。
しかも何故か私の顔を見た瞬間押し寄せてきて、恐怖に変な声を上げて執務室へ引き籠ってしまった。
後からウニに話を聞いてみれば、どうやら以前私が載った新聞記事を見て興味を持った人たちらしく、要するに探索者を志願しに来たらしい。
ここ数日こういった人がどんどん来るようで、あっという間にこの支部における既存の登録者人数を上回ったとのこと。
そして探索者の人数が増えるということは必然、事務処理の量も圧倒的に増えるということ。
今まで園崎姉弟の二人で十分回せていた協会内部の仕事であったが、流石にここまで増えてしまえばキャパオーバー、急遽私までもが参加し夜まで処理する羽目に。
「なるべく早めに新しい子入れたいわ……二人位かしら」
「姉貴、ぼやいてないで早くソレ終わらせてくれよ」
園崎姉弟の会話が響く執務室。
人物の登録が終われば今度は本部へ送る、今日買い取った魔石の品質や数等の書類……やることが多い。
そしてこれが終わってもまだ帰れないのだ。
今のところ新しく入った人たちはそれぞれ、ペアやトリオなど気の合う人同士でチームを組み戦っているようで特に問題はない。
しかしきっと何かの壁に当たる時はあるだろうし、もしそれが私と同じようなものであったならきっと力に慣れるはずだと、色々思い出して書き出しパンフレットにする予定がある。
まあ私もまだ初めて一年経ってないし何様だと言われるかもしれないが、私の経験はなくとも筋肉から聞いたこまごまとした知識などは知っておいて損はないはずだ。
「おなかすいたなぁ……」
時計の針が指し示す時刻は午後の七時、おなかも減ってくる時間帯。
しかしここ二、三日、以前は毎日違うものを出してきてくれたママが、朝食も夕食も全く同じものを出してくるようになったのはちょっと困った。
調べたら海外では毎日似通ったものを食べるのは普通らしく、もしかして記憶が戻りつつあるのではと、小さな期待が芽生えたのも事実。
「フォリアちゃん、これ確認お願いね」
園崎さんがぱさっと机の上に紙束を突き出す。
「分かった……ん?」
紙を捲る音が部屋に響いた。
一行読んでの違和感。
二行読んでの既視感。
三行読んで疑惑は確信に変わる。
これは……
「――またおんなじの混じってる、昨日と一昨日も見た奴じゃんこれ」
「あ、あら……? 一応今日届いた書類のはずなんだけど……目を通してるならまあいいわ、ごめんなさいね」
「まあいいけど、気を付けてよ」
口も態度も性格も軽いが一応優秀なはずの園崎さんが、こうやって同じミスをするなんて結構珍しいかもしれない。
ウニは黙々と作業をしているが額にしわが寄っているし、皆口に出さないだけで疲れてるのかも。
「一端休憩にする? なんか注文しようか?」
「良いわね! 経費で落とすから良いもの食べましょ!」
「また勝手に経費で落として、剛力さんに怒られても知らねえぞ……」
顔を上に向け目元をぐりぐりと押しながら、ウニが呆れたようにつぶやいた。
まるで俺は違うと言わんばかり。
「じゃあウニは食べないの?」
「いや食う」
真面目ぶっておきながら、彼はしれっとこの前皆で行った焼肉屋の弁当、それも一番高い奴の名前を挙げた。
せこい奴だ。
今度筋肉が経費について言って来たら全部こいつのせいにしてやろう。
机の上に置かれていたスマホへ手を伸ばした瞬間、丁度電話が軽快な音楽と共にバイブレーションを上げた。
「お、筋肉からだ」
「あら? マスターがこんな時間に電話なんて珍しいわね、そもそも電話自体あんまり使わない人なのだけれど……」
そう、琉希や芽衣は割とバシバシSNSでメッセージを送ってきたり、或いは電話を掛けてきたりと騒がしいのだが、逆に筋肉はあまり電話を掛けてこない。
今まで電話をしたのは数回、それもほとんど私側から何か報告をする時くらいで、彼からの電話と言えば昨日ダンジョンの崩壊を止めた時にかかってきたものくらいだろう。
そういえばこの前、もう少しで掴めそうだなんて言っていた気がする。
もしかして何かすごいことを掴んだりとか……?
「もしもし?」
『――ああ、フォリアか』
「!? あ、うん、そうだけど」
今まで結城とばかり呼ばれていたので、いきなり名前を呼ばれ目を丸くする。
しかし雑音がすごい。
風の音か……いや、波の音? 結構荒々しく叩きつけられる波の音が、スマホのすぴーからでもはっきり聞こえる。
そのせいか分からないが、普段結構音量大きめの彼の声が妙に小さい、ぼそぼそ喋っているような気すらした。
『どうだ……お母さんとは、仲直り出来たか……?』
「――うん、なんとか。まだ記憶は戻らないみたいだけど、もし戻ったら色々話そうって約束したんだ」
『そうか……そりゃよかった。親子ってのは、憎もうと死のうと……切れねえ縁があるからな……仲が良いに越したことはない』
「そうなんだけどさ、やっぱりママの記憶が戻らない方が良いかな、なんて思っちゃう時もあるよ」
今のアリアと前のママを重ねることはやめた。
彼女は彼女で何も知らず、しかし母親として私と暮らすことを選んでくれたのだから。
しかし記憶が戻ってしまった時、果たして彼女に拒絶されてしまってもさらに踏み込めるのか、それは正直分からない。
勿論踏み込むつもりではある。
踏み込むつもりではあるが大概にしてこういう時考えていたことを、いざという時実行できるかどうかは言い切ることが出来ない。
要するに覚悟は決めていても、消えない恐怖心はどうしようもなく存在するってだけなのだが。
人の手に負い切れるのか分からない災害、押し寄せる探索者志望の人たちへの、元と言えば自分の行動から彼らがこの道へ足を踏み入れたのだという責任感、行先の見えない自分自身の家庭事情。
最近色々積み重なって結構苦しさを感じてはいる。
ふとした瞬間叫びたくなるような閉塞感、でも見渡せば筋肉や園崎さん、必死に自分の出来ることを頑張っている人がいる……
「だからまあ、私は出来る限り頑張るよ」
「そうか……」
マイクの奥、筋肉がふっと笑ったのが聞こえる。
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