『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
202 / 257

第二百二話

しおりを挟む
 沈黙の銀世界。

『――♪』

 微かだが静寂を破る様に流れ出したのは、流行りのポップな電子音。
 ありがちな歌詞、ありがちなメロディ。しかし陳腐だからこそ馴染みやすく、広い世代で人気が出るのだろうか。
 その下らない歌詞が三度繰り返された頃、遠方から音源に向かって立つ雪煙と共に巨影が姿を現した。

 雪狐だ。

 走ってはふと止まり、まるで人が何か疑問にでも思う時のように小首を傾げる。
 だが人が首を捻る事とは性質が異なり、雪狐のそれは疑問を表すのではなく特定の意。
 右と左、優れた聴力を十全に活用することで音の発生位置を特定し、狩るための技術だ。

 甲高い女性の声はたとえ雪の奥深くからでも広域に響く。

 一見すれば周囲と見た目も変わらないが、ほんのわずかにこんもりと盛り上がった場所があった。
 その一メートル、いや二メートルほど下から音が聞こえる。

 雪の中でもはっきり分かるほど、深紅の瞳がきゅうと狭められた。
 いつもの狩りだ。深い雪の下に穴を掘り、ここなら安全だと気を抜いた獲物に食いつくだけ。
 ただそれだけ。

 位置、深度、野生の勘は恐ろしいほどの精度で全てを察知してしまった・・・・・・狐が、雪を強く踏み込み……跳躍した。

 高い。
 不安定な足場もものともせず空を舞い、一本の槍と化した身体が雪へ深々と突き刺さる。
 獲物を狩る為の正確無比な一撃。

 遂に、人の指より太く、並みの剣先より鋭い牙が雪を抉り、雪の奥にいるはずの音源・・へ噛み付いた。


「行ってください」
「うい」


 その瞬間、上空から小さな影が純白の背中へ跳んだ。
 だが雪の奥に顔を突っ込み、何か硬いものを必死に噛み付いている雪狐が知る由もない。

 墜ちる。

 何かが風に煽られる音が大きくなり、漸くなにかが近づいてきていると察したのだろう、ゆっくりと雪の中から頭を引っこ抜いた雪狐。
 だがここらに己と敵となるようなものなど全くおらず、それ故逃げるつもりもなかった余裕が仇になった。


「『スカルクラッシュ』……っ、『アクセラレーション』!」


 耳奥に突き刺さる衝突音。

 剥き出しの後頭部にカリバーがめり込み、首の骨ごと何もかもをへし折っていく。
 獣が地面へ突っ伏すより速く振り抜かれた棒。
 軌道に沿って生まれた暴風が雪をえぐり取り、新たにクレーターを生み出す。

 ぐりんと目を剥き、モノクロに点滅する視界で雪狐が見たのは、己の毛皮に似た白いコートを羽織る、普段の獲物より断然小さな二本足の怪物であった。



『レベルが合計7028上昇しました』

「倒したよ」
「了解でーす」

 岩に乗り空から降りてきた琉希へ、ポイッと地面に転がっていたスマホを投げ渡す。
 彼女はそれを受け取ると、渋い顔をして纏わりついた涎をハンカチで拭い、ふぅ、と息を零した。

 弱点を狙わなくてはまともにダメージを与えられなかったのも過去の話、とはいえ時間にしてみれば僅か二時間ほど前だが。
 狐を狩る度跳ね上がるレベルとステータス、そして二種類のスキルによる連携は既にレベル二十万を超すモンスターであろうと、骨の上から叩き潰し容易く屠れる程度にまで成長した。

 琉希のスキルで破壊されなくなったスマホを雪に埋め、大音量で音楽を流す。
 その間私たちは岩に乗っかって上空に上がり、モンスターがやってくるまで息を潜めて待つ。
 最初聞いたときはまさかそう上手くいくのかと思ったが、上空は想像以上に風が強く、吐息などが紛れてしまうのは盲点だった。

 そしてホイホイ寄って来た狐を空から襲撃する。
 わざわざ広範囲を探索し動き回る狐を探さなくとも自分から寄ってくるのだから、こんなに簡単な狩もない。
 しいて言えば空は下よりも滅茶苦茶寒いのと、一度戦闘をする度大きな音が鳴ってしまうので近くの狐は逃げてしまうらしく、また別の場所で行わなければならないということだろう。


「『ステータス』」

―――――――――――――――――

結城 フォリア 15歳
LV 102834

HP 205670 MP 514175
物攻 205675 魔攻 0
耐久 617015 俊敏 719853

知力 29678 運 1


SP 180530

―――――――――――――――――

「大分レベルも上がってきましたね、あたし八万超えました」
「うん……でも上昇量も落ちて来た」

 二人厳しい顔で頷く。

 ニ十万レベルのモンスターだ、当然今でも一匹を倒すだけでの上昇量はすさまじいものがあるし、決して遅いなんて言えるものではない。
 私たち以外の人が聞けば耳を疑うだろう。たった一匹を倒すだけで一万だのとレベルが上がるなんて、それでも遅いなんて贅沢を言うなと。

 だが今の私たちには、それでももどかし・・・・かった。

 恐らくアリアはここに居る。
 しかしわざわざ中に入ったということは、目的を果たしいつかそこから離れるということでもある。
 勿論出来る限りダンジョンの入り口から距離を取らないようにしているし、人影が向かったかどうか見過ごさぬよう二人で監視してはいた。
 だがこうやってレベルを上げている間にもアリアは何かを進め、作業の終了に向かっているだろう。

 そろそろ、より高いレベルの敵を探す……?
 いや、もしこの狐が捕食者だとしたら、このダンジョンで最も強い雑魚はこいつらの可能性が高い。

「琉希、そろそろ……あれ? それ……」
「え? あっ、これは……」

 そろそろママを探そう、そう言おうと振り向いたときだった。

 彼女のベージュ色をしたコートが赤く染まっている。
 胸元から、ほんのわずかだがじんわりと、奥から何かが湧き出している。

 私が指を指したことで気付いたのだろう、ボタンを外し、ちらりと中へ視線を向けた彼女は不思議そうに小首を傾げた。

「あー、なにか怪我しちゃったみたいです」

 痛みなどはほとんどないのだろう、自分でもよく分かっていない様子だ。

「大丈夫?」
「ええ、もう黒い瘡蓋・・・・付いてるみたいですし、多分ちょっと剥がれちゃったんじゃないでしょうか! それにほら! 『ヒール』、ね?」

 相変わらず自信に溢れた顔で回復魔法を撃った彼女は、コートを再び着込むと、むん、と胸を張り、ふにゃっと笑った。

 きっと戦っている間にあらぬ方向へ飛んだ氷の欠片などがぶつかったのだろう。
 戦っているときは興奮が酷く、私自身多少の擦り傷などはあまり痛みを感じなくなる。

「そういうのなんだっけ、エンドウマメ?」
「エンドルフィンですか?」
「そう、それ」

 まあそういうので痛みを感じないだけだろう。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...