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第二百七話
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「ああああああああああああッ!?」
琉希の肉、神経、骨格、両足が重さ数トンはある岩によって磨り潰される。
絶え間ない電気信号の瞬きは思考を赤のアラート一色に染め、もはや感じているのが痛みであるのかすら理解できないまま、ただ上半身だけが壊れた人形のように暴れ狂っていた。
普段は何気なく動かしまわっていた物体。
だが、たとえそれが落ちたところで本来、今の琉希にとっては多少の重量感は感じても、ここまで身動きすら取れないことがあるはずがない。
まるで一般人だ。
七万というレベルアップの恩恵が一切なかったことになり、ダンジョンで戦ったことのない人間のように、圧倒的質量の前に手も足も出すことが出来なかった。
「やっと静かになったか……」
うっとおしそうに琉希の叫びを聞き続けていた少女は、彼女が気絶したとみると岩を蹴り飛ばし、虚空から取り出した輝くポーションをジャバジャバと適当にぶっかけ背を向ける。
関心がない、とでもいえばいいのだろうか。
彼女にとって気を引いたのはその力の根源と代償であり、数瞬前に会話を交わした琉希自身への興味は存在しなかった。
◇
「さて、今度は貴様だな」
冷たい目をした金髪の少女が私の前に立つ。
逃げることは出来なかった。
まだ琉希が倒れている、それにママだって……そして何より『アクセラレーション』で背後に回ったにもかかわらず、平然と受け止められたあの反応速度。
上手く逃げ延びられる気がしなかった。
「お前……琉希になにを……っ」
彼女に会話を交わす気がない以上意味のないことだと分かっていても、疑問を投げかけてしまう。
ぼやける視界の中、私には琉希があの岩を操れていないように見えた。
あり得ない。ここまで来るのにあれだけ自由自在に扱っていたものだ、第一彼女のレベルならちょっと上から岩が落ちて来たからと言って、あんな叫び、遠目から見ても痛々しいほどに苦しむはずがない。
「私が何かを言った所で貴様は信じるのか? どうせ疑うだろう? 歩み寄る気のない相手と無駄に時間をかける必要なんてないと思わないか?」
やはり、望むような返答は返って来なかった。
今度は私なのだろう。
先ほど琉希へ何かをしたように、めんどくさそうにこちらへ手を伸ばしてくる少女。
地面を転がり少女の射線上から離れようと試みるも、あっさり魔法陣によって束縛され空間に貼り付けられる。
「顔だけかと思ったが……」
ピリピリとした小さく、しかしどこか神経を抉るような鋭い痛みに顔が歪む。
両目尻にある小さな瘡蓋を弄りながら、少女が小さくつぶやいた。
その顔には自分の興味を引くものを見つけ、何か熱中しているような感情さえ浮かんでいる。
「大きいな。複数箇所への顕在か……相当進行してるな」
「はっ、はな……せ……!」
「私は掴んでおらんよ、なんて言葉遊びがそんなに好きか? む、太ももにもか……いや、結晶の大きさからして腕から先に出たのかこれは……?」
コートを掴み上げ、捲り、身体のあちこちを弄られる不快感。
何より彼女が何を考えているのか分からない苛立ち、恐怖が綯い交ぜに襲ってくる。
しかし両手両足を固定されてしまえばそう大きく動き回ることも出来ず、最後には諦め、静かに彼女のそれを受け入れるしかなかった。
「本当は疲れるしあまりやりたくないんだが。まあ貴様には色々と迷惑をかけたようだからな、ほんの詫びだ。なに、礼はいらん」
「ふざ……っ」
何も説明されることすらなく、一方的に告げられる言葉。
遂にその時が来た。
両腕が操られ前へ突き出されると、彼女の両腕が輝き魔法陣が展開される。
一つ一つはそう大きくない、Mサイズのピザ程度だ。だがそれが円形や立体など様々な形で組み合わさり、最終的に描かれた魔法陣の大きさはもはや壮観というほかない。
そして同時に、私と目の前の少女の間にあるどうしようもない力の差というものを再度突き付けられた。
――まだ何も出来てないのに……!
こんなことをされるために来たわけじゃないのに。
なにしてももう駄目だって分かってても、最後にこれだけはって、やっとの思いでここまで来たのに……!
輝きが一層のこと強烈になり、視界の何もかもが白で塗りつぶされていく。
同時に何かが無理やり引き剥がされる、暴力的なまでの痛み、吐きそうなほどの脱力感、精神そのものが変異するかのような苦しみが全身を襲った。
苦しい、痛い。
でも、そんなことより……ッ!
前に突き出させられながらも硬く握りしめた拳の中で、ピキ、と小さく罅の入る音が鳴った。
それは目の前の少女に吹き飛ばされた時、地面を転がりながらも掴み取った魔石。
彼女があの極光を生み出すために使ったであろう残骸。
私より強い奴がわざわざ使っていた魔石なら、それは間違いなく相当の品質。
中に蓄えた魔力も膨大なものなはずで、必然、生まれる爆発は彼女の喉元に届くかもしれない……!
一旦罅が入ってしまえばあとは早かった。
大して力の入らない手でもあっという間にそれは広がっていって、小さな欠片がボロボロと指の隙間から零れていく。
「おい、何握ってるんだ。見せてみろ」
魔法陣の光が薄れ、何をしたかったのか分からないものの、彼女の緊張が緩んだのが分かった。
ゆっくりと近づく彼女に向って震える膝で走り、どうにもならない感情を叫ぶ。
破れかぶれだ。
どうせ効かない、それでも一撃を叩きこみたい、ただそれだけ。
「ばっ……!?」
私の握るものが何か気付き、初めて少女の表情が変わった。
「ァァァァァァァァァああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
そして、熱が指先から零れ……
◇
「くそっ、どうしてこうなるんだよ……!」
そこに、フォリアの姿はなく、吹き飛んだ雪とむき出しになった地面を染める、肉と血、そして彼女のコートや靴だけが転がる凄惨な光景だけが広がってきた。
琉希の肉、神経、骨格、両足が重さ数トンはある岩によって磨り潰される。
絶え間ない電気信号の瞬きは思考を赤のアラート一色に染め、もはや感じているのが痛みであるのかすら理解できないまま、ただ上半身だけが壊れた人形のように暴れ狂っていた。
普段は何気なく動かしまわっていた物体。
だが、たとえそれが落ちたところで本来、今の琉希にとっては多少の重量感は感じても、ここまで身動きすら取れないことがあるはずがない。
まるで一般人だ。
七万というレベルアップの恩恵が一切なかったことになり、ダンジョンで戦ったことのない人間のように、圧倒的質量の前に手も足も出すことが出来なかった。
「やっと静かになったか……」
うっとおしそうに琉希の叫びを聞き続けていた少女は、彼女が気絶したとみると岩を蹴り飛ばし、虚空から取り出した輝くポーションをジャバジャバと適当にぶっかけ背を向ける。
関心がない、とでもいえばいいのだろうか。
彼女にとって気を引いたのはその力の根源と代償であり、数瞬前に会話を交わした琉希自身への興味は存在しなかった。
◇
「さて、今度は貴様だな」
冷たい目をした金髪の少女が私の前に立つ。
逃げることは出来なかった。
まだ琉希が倒れている、それにママだって……そして何より『アクセラレーション』で背後に回ったにもかかわらず、平然と受け止められたあの反応速度。
上手く逃げ延びられる気がしなかった。
「お前……琉希になにを……っ」
彼女に会話を交わす気がない以上意味のないことだと分かっていても、疑問を投げかけてしまう。
ぼやける視界の中、私には琉希があの岩を操れていないように見えた。
あり得ない。ここまで来るのにあれだけ自由自在に扱っていたものだ、第一彼女のレベルならちょっと上から岩が落ちて来たからと言って、あんな叫び、遠目から見ても痛々しいほどに苦しむはずがない。
「私が何かを言った所で貴様は信じるのか? どうせ疑うだろう? 歩み寄る気のない相手と無駄に時間をかける必要なんてないと思わないか?」
やはり、望むような返答は返って来なかった。
今度は私なのだろう。
先ほど琉希へ何かをしたように、めんどくさそうにこちらへ手を伸ばしてくる少女。
地面を転がり少女の射線上から離れようと試みるも、あっさり魔法陣によって束縛され空間に貼り付けられる。
「顔だけかと思ったが……」
ピリピリとした小さく、しかしどこか神経を抉るような鋭い痛みに顔が歪む。
両目尻にある小さな瘡蓋を弄りながら、少女が小さくつぶやいた。
その顔には自分の興味を引くものを見つけ、何か熱中しているような感情さえ浮かんでいる。
「大きいな。複数箇所への顕在か……相当進行してるな」
「はっ、はな……せ……!」
「私は掴んでおらんよ、なんて言葉遊びがそんなに好きか? む、太ももにもか……いや、結晶の大きさからして腕から先に出たのかこれは……?」
コートを掴み上げ、捲り、身体のあちこちを弄られる不快感。
何より彼女が何を考えているのか分からない苛立ち、恐怖が綯い交ぜに襲ってくる。
しかし両手両足を固定されてしまえばそう大きく動き回ることも出来ず、最後には諦め、静かに彼女のそれを受け入れるしかなかった。
「本当は疲れるしあまりやりたくないんだが。まあ貴様には色々と迷惑をかけたようだからな、ほんの詫びだ。なに、礼はいらん」
「ふざ……っ」
何も説明されることすらなく、一方的に告げられる言葉。
遂にその時が来た。
両腕が操られ前へ突き出されると、彼女の両腕が輝き魔法陣が展開される。
一つ一つはそう大きくない、Mサイズのピザ程度だ。だがそれが円形や立体など様々な形で組み合わさり、最終的に描かれた魔法陣の大きさはもはや壮観というほかない。
そして同時に、私と目の前の少女の間にあるどうしようもない力の差というものを再度突き付けられた。
――まだ何も出来てないのに……!
こんなことをされるために来たわけじゃないのに。
なにしてももう駄目だって分かってても、最後にこれだけはって、やっとの思いでここまで来たのに……!
輝きが一層のこと強烈になり、視界の何もかもが白で塗りつぶされていく。
同時に何かが無理やり引き剥がされる、暴力的なまでの痛み、吐きそうなほどの脱力感、精神そのものが変異するかのような苦しみが全身を襲った。
苦しい、痛い。
でも、そんなことより……ッ!
前に突き出させられながらも硬く握りしめた拳の中で、ピキ、と小さく罅の入る音が鳴った。
それは目の前の少女に吹き飛ばされた時、地面を転がりながらも掴み取った魔石。
彼女があの極光を生み出すために使ったであろう残骸。
私より強い奴がわざわざ使っていた魔石なら、それは間違いなく相当の品質。
中に蓄えた魔力も膨大なものなはずで、必然、生まれる爆発は彼女の喉元に届くかもしれない……!
一旦罅が入ってしまえばあとは早かった。
大して力の入らない手でもあっという間にそれは広がっていって、小さな欠片がボロボロと指の隙間から零れていく。
「おい、何握ってるんだ。見せてみろ」
魔法陣の光が薄れ、何をしたかったのか分からないものの、彼女の緊張が緩んだのが分かった。
ゆっくりと近づく彼女に向って震える膝で走り、どうにもならない感情を叫ぶ。
破れかぶれだ。
どうせ効かない、それでも一撃を叩きこみたい、ただそれだけ。
「ばっ……!?」
私の握るものが何か気付き、初めて少女の表情が変わった。
「ァァァァァァァァァああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
そして、熱が指先から零れ……
◇
「くそっ、どうしてこうなるんだよ……!」
そこに、フォリアの姿はなく、吹き飛んだ雪とむき出しになった地面を染める、肉と血、そして彼女のコートや靴だけが転がる凄惨な光景だけが広がってきた。
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