『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第二百十七話

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 笑みを浮かべた琉希に、胸をなでおろし安堵するカナリア。

「あ、一つ思いついたんですけど」

 そんな彼女へ投げかけられた質問。

「同じかそれ以上の魔力がなければ引っこ抜くことが出来ないなら、本人に抜かせるってのはどうなんでしょうか?」
「ふむ……」

 腕を組み黙り込むカナリア。

「成程、その考えはなかったな」

 ぽつりと呟く。

 素人ながら、いや、素人だからこその発想に目を剥く彼女。

 自然に快癒しない病気なのならば、外部から手を加えるしかない。
 そんな風に、カナリア自身いつの間にか凝り固まっていた観念を打ち崩す、全く新しいベクトルでの試み。

「自己で治療できるようにするか……今まで他者からの治療手段ばかり考えてきたからな、うむ、新たな着眼点じゃないか」
「それじゃあ……!」
「本人の意識がなければできない可能性は高いが、それなら可能性はあるかもしれん。一週間くれ、私も全力を尽くしてみよう」

 颯爽と立ち上がるカナリア。

 幸いにして、魔法陣の起動時に使わなかった魔石はまだ在庫があった。
 後は理論を組み立て、新たに作り出した魔法式を転写した物質を創り上げるだけ。
 最大効率を保つため適度な休息を挟む必要はあるものの、一週間、いや早ければそれよりいくばくか短い日数でも、十分に作ることが出来るだろう。

 フォリアの記憶が完全に塗りつぶされるまであとどれだけあるのか。
 のんびりしている暇はないものの、しかし時間には余裕があった。

 文字を浮かべることが出来るとはいえ、一から理論を構築するには膨大な式の連立が必要になる。
 広い場所を求め外を飛び出そうとしたカナリアであったが、ふと浮かんだ疑問に振り返り、琉希へ首を傾げた。

「だが何故そこまで助けようと必死になる? 友人とは言え、所詮は他人だろう」

 彼女には、かつて友と慕っていた幼馴染に裏切られたことがあった。

 生来の性格から、友と呼べる相手が皆無に近いカナリアにとって、その経験は唯一にして無二、絶対の記憶ともいえるもの。
 友人というものの間隔が歪んでしまうのも無理はない。

「あたしのせいなんです……戦いたくないって言ってたフォリアちゃんを焚きつけたの……やった方が良いって、大事なものを手放すなって……」

 深い後悔の吐露と共に、膝の上で服の裾を握りしめる琉希。

 どうすれば正解であったのか、それは未だに分からない。
 親に捨てられた彼女を、その内忘れるさと諭すだけでいるべきであったのか、こうやって追いに来るべきであったお、或いはまた別の選択肢があったのか。

 しかし、まあなんかうまいこと運ぶだろうと思っていた行為が、まさか友人の異形化という結果を招くとは予想だにしていなかったのは事実だ。
 そして同時に、結果的にではあるが彼女を、より辛い現実へ進む最後の一押しをしてしまった事も、やはり事実であった。

「結局それは発症を早めるだけで、もしあのまま放置していれば戦わずに済んで、そのまま魔力が吸収されてたかもしれないのに……!」
「……本人の性質上、ダンジョンと関与する限り永遠に発症のリスクはある。それにあそこまで進行していたなら、発症はそう遠くない未来だっただろう」

 いつか来る未来が今だったこと。

 カナリアなりの慰めであったが、琉希には届かない。

「あたし、フォリアちゃんにダンジョンで助けてもらったことあるんです。私だけじゃなくて色んな場所でいろんな人が、必死に戦うフォリアちゃんに助けてもらってると思います。絶対辛いのに、それでも頑張って……」

 SNSでのチャット、現実での会話。
 彼女は大概にして何かしらの問題を一人で抱え、解決しようとその身を削り続けていたことを、琉希は察していた。
 自分だって恵まれた立場なわけではない。むしろ大概の道行く人々より辛い日々を過ごしながら、それでも誰かに手を差し伸べる。

 並大抵の人間が出来ることではない。

「誰かを助けるためにずっと必死で戦ってきたのに、最期は母親に見捨てられて、こんな人も来ないところで化け物になって、記憶も失って……誰にも助けてもらえないで……そんなのあんまりすぎます」

 正直者が馬鹿を見る? 賢く立ち回った者が得をする?

 ありがちで、実際現実でもありふれた事実。
 確かに危険を上手く避けるのが正しいのかもしれない、誰かのために戦うなんて、正義なんて陳腐な言葉で武器を振るうなんて愚かなのかもしれない。

 しかし、それでも必死に歩いてきた彼女が、報われることもなく朽ち果てていくのなら、助けてもらった癖してこのまま見捨てるくらいなら、愚かでも、彼女に殺されてでも、最期まで彼女を助けたいと思ってしまった。

「え? アリアって自分の子超好きだろ? 見捨てたのか?」
「え?」

 そんな、カナリアの気の抜けた声を聴くまでは。

「いや、アリアとは二十四……ああー、いや、十八年ほどの付き合いがあるが、ことあるごとに自分の子供自慢するくらいだし、嫌うなんてあり得ないと思うが」

 くびをひねりながら語る彼女。
 その様子に嘘をついているような素振りはない。心の底から疑問に思っているようで、眉をぎゅっと寄せている。

 事情があるとは確かに思っていたが、こうもあっさり言われてしまうと気が抜けてしまう琉希。

 喜ばしいことであるはずにも拘らず、なぜか今度は琉希が、アリアの悪逆的な性格の可能性について後押しを始めてしまう始末であった。

「で、でも……フォリアちゃんは泣いてましたし、芽衣ちゃんもそういう感じのこと言ってましたよ。やっぱり……」
「そうか……以外だな……」

 しかし十八年とは驚くほど長い間柄だ。

 平然と語られたその年月に、やはり彼女はエルフなのだと再度驚く琉希。
 見た目の幼さからは想像できないが、その知識、そして節々から零れるそういった言葉に、隔絶した年齢差を感じてしまう。

 だがやはりカナリアの知るアリアも、琉希自身の知る彼女とさしたる差はなかったらしい。

 そう言えばカナリアはアリアと一緒に居た。
 もしかしたらその目的こそが、アリアが豹変した要因の一つなのではないのかと微かに引っかかった琉希。

「『貴様は私の子ではない!』なんて、ちょっとあまりにも酷い言い方ですよね。でも今まで話してて優しい人だと感じていたので、やっぱり事情があるんだと思ってここまで会いに来たんです」

 と、探りに話してみた所……

「ひょ?」

 甲高いその声に思わず首を上げる。

 そこにあったのは今日だけでも何度か見てきた彼女の驚く顔であったが、今回は一層のこと間抜けな面構えであった。
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