『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

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第二百二十四話

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「だからっ、目を覚ませよ! 結城フォリアあああああああああああああああああああああアァァァァアァッ!!!」

 それは、正しく迅雷の如き一撃であった。

 琉希自身では生み出すことの出来ない、そしてそれは怪物にとっても避け切れないほどの速度でもある。
 真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに空気を裂き、肉食獣の如く狭い額のど真ん中へ、鋭く突き刺さった。

 だが相手は巨大な怪物。
 数十センチしかない子供向けバット、人にしてみれば爪楊枝程度の先端がめり込んだところで、本来決して致命傷にはなり得ない。

 しかし……

「くふぅ……っ、はぁっ……はぁっ……!」

 ガラス玉のように無機質な爬虫類の瞳へ、一つの小さな光が灯る。
 焦点も合わず、ただ目の前の物を潰そうと睥睨していた瞳が、今はしっかりとした意思を持って蠢いていた。

『あ……』

 そしてその瞳は、鼻先で転がっていた少女へと吸い寄せられる。

『わたシ……は……』

 ひどくしわがれ、ともすれば雑音と勘違いしてしまうかもしれない、本来の少女のそれとはかけ離れた声が響く。

 物理的な衝撃によって意識が覚醒したのか、はたまた慣れ親しんだ相棒の衝撃がキーになったのか、琉希の叫びが届いたのか。
 真実の究明にはあまりに時間が足りない、しかし琉希にとってそれは然したる必要性も感じなかった。

 執念が届いた、それだけでいい。

 状況に戸惑ったまま、しかし顔の上にいる琉希へ掌を差し出し、地面へそっと降ろすフォリア。
 琉希の元へ寄って来たカナリアの顔には、唖然とした表情が張り付いたまま変わらない。

「嘘だろ……?」
「嘘な訳……ないじゃないですか……嘘な訳……!」

 のそりと、フォリアの巨大な顔が地面へ座り込んだ琉希の元へ近づく。
 確認するようにきょろきょろと縦に裂けた目が蠢き、やはり色々理解が及ばず首を捻る彼女。

 生暖かい息が前髪を撫でる、しかし生臭くはない。
 魔力を糧として生きる生物へ再構築された彼女の肉体は、細菌などがそもそも存在していないからだ。
 それは匂いに苦しまないと言えば素晴らしいことにも思えるが、地球上に存在する『生物』とかかけ離れてしまったという事実を、一層琉希へ伝えることにもなっていた。

『――リュうキ?』
「やっぱり……記憶が戻ったんですね……! ちゃんと名前や思い出全部覚えてますか!? トマトが実は食虫植物であるという事実はっ!?」



『エ、そうナの……? いやそれヨりこれ……腕ガ……皆ちっちャい……』

 偶然ではなかった。
 鳴き声が偶々そう聞こえたわけでもなく、彼女は間違いなく、彼女の意思によって言語を操っている。
 質問に対して困惑をしっかり表せる事実に、琉希の鼻の奥がツンと痛くなった。

 しかしありがちな少女よろしく感動に噎び泣き、喜びを空へ叫ぶような猶予はなかった。
 いつ彼女が自我を喪失するか分からず、再び失えばまた戻せるかなど誰にも分からない。
 迅速に予定をこなす必要がる。

 いそいそと一旦『アイテムボックス』へ仕舞い込んでいた腕輪を取り出す琉希へ、未だ状況の飲み込めていないフォリアは首を捻る。

「いきなりすぎて何を言っているのか分からないかもしれません! でも今から言うことをやってください! お願いします!」
『え……ア……うん』

 フォリアからすれば唐突も唐突。
 しかし周囲の破壊され尽くした様子、疲労困憊した琉希と、その後ろで驚愕したままなあの・・金髪の少女から、状況の異常さには気付いていた。

「この腕輪を触りながら叫ぶんです! リアライズって! さあ!」

 ずいずいと突き出された深紅の腕輪。

 目を細め、それが一体何なのかと確かめるフォリア。
 状況は恐ろしく理解できないが、切羽詰まった表情で渡されれば、持ち前の状況に流される性格が発揮され、おずおずと爪を伸ばした。

「これで……やっと……!」

 彼女が手にした瞬間、人並のサイズであった腕輪が大きく広がる。

 そんな機能があったのかと驚愕し振り向く琉希へ、カナリアが深々と頷く。
 どうやら多くの人へ対応するため、彼女が予め機能を付けておいたらしい。

 フォリアが腕輪へ腕を通すのを見ながら、雪の上へパサリと寝転がる琉希。
 その視界に映る肉食獣のような怪物は下手な木などよりも大きく、多様な姿の入り混じった恐ろしい姿をしていて、しかし大切な友人。

 手を伸ばせば撫でられるほどしかなかった背丈の少女が、今はこれだけ大きくなってしまった、主に物理的に。
 偶然の重なり、不幸の連続。フォリアの家へ訪れてから一週間に満たない旅であったが、恐ろしいほど長く感じる冬休みであった。
 しかしこの腕輪による魔法で、少女の身体は無事元に戻る。

 彼女の憂いは晴れた。
 アリアも悪意があったわけではなく、むしろどこぞのアホエルフの犠牲者でしかなかった。
 『魔蝕』は時間をかけて治す必要があるし、その治療過程で、以前感じたような恐ろしいほどの苦痛を伴うことは気が重くなる。

 それでもいつも通りの日常に戻れると、琉希は信じてやまなかった。

 何も考えず、普通の明日が来ると思える日常。
 友達とゲームをしたり、ショッピングモールでワイワイとウィンドウショッピングをしたり、電話で下らないことを話したり、夜更かしをして昼頃に目が覚めるような日々。

 退屈で、普通で、それが何よりも素晴らしい。
 恐怖に震えながら武器を取らなくていい。友人の変貌してしまった姿に嘆くこともない。理解しがたい異世界の事情や、どうしようもない現実にもだえ苦しむ必要もない。

 ありふれた日々へ戻れる。

『リアらいズ』


 そう、これでやっと……

 やっと……



 終わると思ったのに。


「なん……で……?」


 想像していた眩い輝きは欠片も起こらず、怪物は怪物のままだった。
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