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第二百四十二話
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「ああ、真帆ちゃんは奏さん……貴女のパパの教え子なのよ」
「うぇ!?」
「髪色を見てまさかとは思ってたんだけれど……本当にアリアさんのお娘さんだったとは……!」
ちょっと待っててね。
その一言と共に部屋の奥へ消えた剣崎さんが持って来たのは、一枚の小さな写真。
「これが私でこっちはアリアさん……」
「本当だ……」
写真に映っているのは研究所の中なのかもしれない。
積み重なった書類や、奥に見える化学っぽい感じの機材がなんか、こう、そんな雰囲気を醸し出していた。
彼女が指差す二人の女性は確かに、加齢などの変化はあるものの間違いなくママと剣崎さん本人だ。
そしてその真ん中で白衣に手を突っ込み、ふんぞりかえっている人が……
「え、これパパなの?」
「先生はちょっと……変わっている人だったから」
「あっ、そうなんだ……」
え、私のパパ変わってる人だったの!?
六年越しに知った父の真実に驚愕する。
おぼろげながら残っている記憶には少なくとも、世間一般で言われる普通の父親だった気がするのだが……もしかしたら記憶違いだったのかもしれない。
まあ今となっては会って確認することも出来ないのだが、なんかほぼ初めて聞く他人からの評価が、ちょっと変わっている人だったなんてショッキングではあった。
パパに関して私が知っていることはほぼ無い。
冷血、無関心と言われるかもしれないが、今まで興味を抱いたことも、数えられるほどしかなかった。
だがこうやって話を聞いてみれば、不思議ともっと話を聞いてみたいと思ってしまう。
「なんか写真偏ってるね」
無意識にもっと話を聞き出そうとしたのかもしれない。
ふと気になったことをひとつ、剣崎さんへ投げかける。
普通写真と言ったら、皆が真ん中に集まって取るはずなのだが、剣崎さんが出したその写真は少しばかり違っていた。
妙に全員右へ偏っているのだ。
大体人が二人、よほど体の大きい男性なら一人でも足りるかもしれない程度の空き。
「あー……なんでだったかしら」
もしかしたらもう一人、誰かと一緒に撮る予定だったのかもしれないわね。
首を捻って話す彼女自身曖昧な記憶らしく、どうやらあまり詳しいことを聞くのは望めそうにない。
そして再び始まった他愛のない会話。
この六年、私のパパが消えてからの事、全てを話すことは出来ないものの、ママが病気に罹っていたことなど。
そして私が今は協会で支部長の代理をしている事を話すと、剣崎さんは目を丸くして驚いていた。
「それにしても、フォリアちゃんが真帆ちゃんと面識があることに驚いたわぁ」
「あ、うん……えーっと」
あー……やっぱり……きちゃったぁ……!
なるべくその話を触れないようにしていたのだが、やはり飛んできたママの言葉に心臓が縮みあがった。
あの時私が探していた三人は、全員ダンジョンの崩壊によって私以外の記憶から消え去っている。
勿論私は覚えているが、忘れてしまっている人たちの記憶がどう変化するのかまでは、私にも知ることが出来ない。
つまり、下手に口を出すと齟齬が生まれる。
「人探しで少しありまして、残念ながら力にはなれなかったのですが……」
「まあ、忙しい中ごめんなさいね」
「いや、その後に見つけられたから大丈夫。あの時はありがとう」
剣崎さんがすぐに口を開いてくれたので、上手く便乗して話を区切らせる。
「でもなんでママとパパの家に剣崎さんが住んでたの?」
私が口にした瞬間、空気がピンと張ったのが分かった。
まさか剣崎さんが勝手に居座っているわけではない、それは流石に私にだってわかる。
ならば当然何か事情があるはず。
そう、口に出しにくく、しかし私たちがここに来た以上は話さざるを得ない事情が。
「実は……この家は売りに出されていたのです」
そして、彼女が苦々しい顔つきで語った話は、私にも無関係ではない事情があった。
六年前、私のパパはダンジョン内で死亡したとみなされ、その後近くのダンジョン崩壊と同時にママが失踪したため、二人は危難失踪……つまり災害で死んだのだろうと認定。
それならば本来、私がこの家の所有者になっているはずらしいのだが……
「多分親戚の方に上手く言いくるめられて、全部取られちゃったんでしょうねぇ。六年前って……フォリアちゃん小学三年生でしょ?」
というわけで、全ては私のせいであった。
「そっか……」
戦いの苦しみとはまた違う、自分への苦々しい苛立ちが昇って来た。
「ごめんなさい……」
「いいのよ、また一から集めていけば」
この家に執着をしているわけではない。
しかし、時々部屋を見回しては悲しそうな色を浮かべるママの目を見て、後少しでもあの時考えていれば、なにか対策をしていればこんな事にはならなかったのではないか。
こんなものを見なくて済んだのではないか。
そう思わざるを得なかった。
いきなり身体を乗っ取られ、ふと気が付いたら全てを失っていたママの、胸に抱える気持ち全てを理解することは私には出来ない。
でも何かは出来たはずなのだ。
にもかかわらず、一番怒るべきママに慰められている自分が苛立たしくて仕方ない。
「偶然見かけて大急ぎで私が落としたのですが、家財は既にほぼ全て売り払われてしまっていたようで……一階のグランドピアノだけは買い手がつかなかったようなのですが……アリアさん、申し訳ありません……!」
「真帆ちゃんは何も悪くないの、むしろ家だけでも残っていて嬉しいわ」
後悔に俯いた私と無言で籠に盛られた菓子を貪るカナリアを横に、二人の話は進んでいく。
「アリアさんがその気なら、今からでも手続きを……」
「そうなったら真帆ちゃんの住む場所無くなっちゃうでしょう?」
「いえ、私はその気ならば研究室に寝泊まりしても全く問題が」
このまま全てを置いて家を飛び出しそうな剣崎さんへ、ママの手が伸びる。
「いいのいいの、今は別の場所に住んでいるから。今日はただ何か使えるものがないか取りに来ただけだから……何もないなら仕方ないわ」
「うぇ!?」
「髪色を見てまさかとは思ってたんだけれど……本当にアリアさんのお娘さんだったとは……!」
ちょっと待っててね。
その一言と共に部屋の奥へ消えた剣崎さんが持って来たのは、一枚の小さな写真。
「これが私でこっちはアリアさん……」
「本当だ……」
写真に映っているのは研究所の中なのかもしれない。
積み重なった書類や、奥に見える化学っぽい感じの機材がなんか、こう、そんな雰囲気を醸し出していた。
彼女が指差す二人の女性は確かに、加齢などの変化はあるものの間違いなくママと剣崎さん本人だ。
そしてその真ん中で白衣に手を突っ込み、ふんぞりかえっている人が……
「え、これパパなの?」
「先生はちょっと……変わっている人だったから」
「あっ、そうなんだ……」
え、私のパパ変わってる人だったの!?
六年越しに知った父の真実に驚愕する。
おぼろげながら残っている記憶には少なくとも、世間一般で言われる普通の父親だった気がするのだが……もしかしたら記憶違いだったのかもしれない。
まあ今となっては会って確認することも出来ないのだが、なんかほぼ初めて聞く他人からの評価が、ちょっと変わっている人だったなんてショッキングではあった。
パパに関して私が知っていることはほぼ無い。
冷血、無関心と言われるかもしれないが、今まで興味を抱いたことも、数えられるほどしかなかった。
だがこうやって話を聞いてみれば、不思議ともっと話を聞いてみたいと思ってしまう。
「なんか写真偏ってるね」
無意識にもっと話を聞き出そうとしたのかもしれない。
ふと気になったことをひとつ、剣崎さんへ投げかける。
普通写真と言ったら、皆が真ん中に集まって取るはずなのだが、剣崎さんが出したその写真は少しばかり違っていた。
妙に全員右へ偏っているのだ。
大体人が二人、よほど体の大きい男性なら一人でも足りるかもしれない程度の空き。
「あー……なんでだったかしら」
もしかしたらもう一人、誰かと一緒に撮る予定だったのかもしれないわね。
首を捻って話す彼女自身曖昧な記憶らしく、どうやらあまり詳しいことを聞くのは望めそうにない。
そして再び始まった他愛のない会話。
この六年、私のパパが消えてからの事、全てを話すことは出来ないものの、ママが病気に罹っていたことなど。
そして私が今は協会で支部長の代理をしている事を話すと、剣崎さんは目を丸くして驚いていた。
「それにしても、フォリアちゃんが真帆ちゃんと面識があることに驚いたわぁ」
「あ、うん……えーっと」
あー……やっぱり……きちゃったぁ……!
なるべくその話を触れないようにしていたのだが、やはり飛んできたママの言葉に心臓が縮みあがった。
あの時私が探していた三人は、全員ダンジョンの崩壊によって私以外の記憶から消え去っている。
勿論私は覚えているが、忘れてしまっている人たちの記憶がどう変化するのかまでは、私にも知ることが出来ない。
つまり、下手に口を出すと齟齬が生まれる。
「人探しで少しありまして、残念ながら力にはなれなかったのですが……」
「まあ、忙しい中ごめんなさいね」
「いや、その後に見つけられたから大丈夫。あの時はありがとう」
剣崎さんがすぐに口を開いてくれたので、上手く便乗して話を区切らせる。
「でもなんでママとパパの家に剣崎さんが住んでたの?」
私が口にした瞬間、空気がピンと張ったのが分かった。
まさか剣崎さんが勝手に居座っているわけではない、それは流石に私にだってわかる。
ならば当然何か事情があるはず。
そう、口に出しにくく、しかし私たちがここに来た以上は話さざるを得ない事情が。
「実は……この家は売りに出されていたのです」
そして、彼女が苦々しい顔つきで語った話は、私にも無関係ではない事情があった。
六年前、私のパパはダンジョン内で死亡したとみなされ、その後近くのダンジョン崩壊と同時にママが失踪したため、二人は危難失踪……つまり災害で死んだのだろうと認定。
それならば本来、私がこの家の所有者になっているはずらしいのだが……
「多分親戚の方に上手く言いくるめられて、全部取られちゃったんでしょうねぇ。六年前って……フォリアちゃん小学三年生でしょ?」
というわけで、全ては私のせいであった。
「そっか……」
戦いの苦しみとはまた違う、自分への苦々しい苛立ちが昇って来た。
「ごめんなさい……」
「いいのよ、また一から集めていけば」
この家に執着をしているわけではない。
しかし、時々部屋を見回しては悲しそうな色を浮かべるママの目を見て、後少しでもあの時考えていれば、なにか対策をしていればこんな事にはならなかったのではないか。
こんなものを見なくて済んだのではないか。
そう思わざるを得なかった。
いきなり身体を乗っ取られ、ふと気が付いたら全てを失っていたママの、胸に抱える気持ち全てを理解することは私には出来ない。
でも何かは出来たはずなのだ。
にもかかわらず、一番怒るべきママに慰められている自分が苛立たしくて仕方ない。
「偶然見かけて大急ぎで私が落としたのですが、家財は既にほぼ全て売り払われてしまっていたようで……一階のグランドピアノだけは買い手がつかなかったようなのですが……アリアさん、申し訳ありません……!」
「真帆ちゃんは何も悪くないの、むしろ家だけでも残っていて嬉しいわ」
後悔に俯いた私と無言で籠に盛られた菓子を貪るカナリアを横に、二人の話は進んでいく。
「アリアさんがその気なら、今からでも手続きを……」
「そうなったら真帆ちゃんの住む場所無くなっちゃうでしょう?」
「いえ、私はその気ならば研究室に寝泊まりしても全く問題が」
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