『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA

文字の大きさ
251 / 257

第二百五十一話

しおりを挟む
 地下室を出ると、剣崎さんとママはケーキをつついてお茶会をしていた。
 私たちも参加しないかと誘われたものの残念ながら今はその時ではない。用事があるからカナリアと協会へ向かうと告げ、忙しなく家を後にする。

 どこか座って話せる場所を。

 寒空の元、しばらく協会方面へと歩いている途中で見つけた公園、その端に拵えられたベンチに腰を掛ける。

「……貴様の話は……残念ながら嘘ではないようだ」

 ぎょろぎょろと、この数日の中でも初めて見る必死な形相でスマホを握りしめていた彼女であったが、脱力気味にぽいと私のスマホをこちらへ投げ渡して呟いた。

「特定個人の力に頼る作戦は、その一人が失われた途端に一切が瓦解する。分かっている、それは分かっていたが……信じられん……」

 ふらりと後ろへ倒れ込む体。
 放置されて勝手に繁殖しているのだろう。冬にしては毒々しい、真っ赤な花を咲かせたアロエの中へ寝っ転がった彼女は、苛立たし気にため息を漏らした。

 クレストにすら筋肉を殺すのはそうやすやすと出来ることではなかった。

 最初に世界へ現れた人類未踏破ラインのダンジョンは日本に存在する『碧空』、ここからでも見える巨大な青の塔だ。
 つまり、碧空の本体はクレストたち……アストロリア王国の築き上げた魔天楼。
 今までの組織のように、魔天楼を破壊して超広範囲の消滅を狙うことは不可能であった。それをしてしまえば、そもそもクレストたちの王国まで消し去ってしまうのだから。

 飛び道具の大半は効かない。
 実力の高さなどから直接暗殺、というのも非常に難しい。
 決戦の日まで剛力が死ぬことは、まず有り得ないと彼女は確信していた。

「奴は私よりはカスだが、そこそこ頭が回る。事実と情報さえ突き出してしまえば、そこに信頼がなくとも間違いなく力を貸してくれる」

 それゆえカナリアは、クレストの監視が付いているであろう剛力に敢えて接近せず、ただ一人で準備を終わらせた。
 最後の最後、全てはその時のために。

 だが……

「そうか……私は最初から全て失敗していたんだな。ああ……」

 頭を抱え、引っかかった髪すら気に留めず固く握り締められた拳。
 音を立て千切れる彼女の前髪。

 両手に覆われたカナリアの顔は、こちらからは伺えない。

「筋肉の死因は……」
「ダンジョンの崩壊だろう、ここまで存在一切が消えているとなればそれ以外には有り得ない」

 虚ろな瞳に、横に植えられた枝垂れ柳の枝と曇り空が映る。

「ああ……終わった、終わった……全ては無駄だった……ふふ、思えば私の行動はどれもこれも裏目に出てばかり、最初から無理だったのかもしれんな……」
「勝手に終わらせないで」

 なんか勝手に終わり感を出し始めたカナリアの頬をべちべちと何度も張り倒す。

「痛いからやめろ。貴様、自分のレベルを少しは自覚したらどうだ」
「貴女は諦めても私は諦めてない」

 思考停止したわけではない、努力を諦めたわけでもない。
 だが彼女の持つ知識は、努力だとか、試行錯誤だとかでは絶対に埋めきれないほどの価値がある……多分。

 勝手に諦められるのは非常に困るのだ。

「二十一年だ……音もなく、光すら失せた、気が狂いそうになる晦冥かいめいの中で、一人魔法陣と向き合った、ダンジョンシステムを作るためだけに! 何度も気が狂いそうになった。本当に意味があるのか、完成はするのか、完成しても遅いんじゃないか、人々に受け入れてもらえるのか! 一切の確証もないまま、少し気を抜けば霧散してしまう魔力の中で、どうにか創り出した果実で命を繋いで! 二十四年だ、何もかもを雑に剥ぎ取られた上で、その度に手札がごっそりと減る中、新たな可能性を四度も一から積み上げ直して! なあ、お前に何が分かるんだよ!」

 発狂。
 そう、正に彼女の様子は発狂という言葉がぴったりであった。

 限界だったのだろう。
 いくら精神が強靭な彼女と言えど、耐え切れないこともある。
 時として、他者から見れば案外あっさり、ぽっきりと折れてしまうことも当然。だがそれはあくまで他人の視点だからで、実際には度重なる苦悩の末に起こったことなのだろう。

「何も分からない!」

 だが、私に彼女の苦悩は分からない。
 私はカナリアじゃないし、カナリアは私じゃない。 

「……っ、な、ならば!」
「カナリアの苦悩は私は貴女じゃないから何も分からないけど、ここで諦めたら本当に全部無駄になる! あったこともないけど、いっぱいの国が必死に戦って、いっぱいの人が必死に繋いでここまで来たなら、たとえ私たちしかいなくても戦わないとダメでしょ!」

 きっと、もっといい言葉があるのだろう。
 弱っている彼女へ伝えるには、あまりに鋭い棘がある言葉かもしれない。

 もしかしたら私自身焦ってしまっているのかもしれない。あまりに壮大すぎる話、しかし見なかったことにするには、私と深く関わりがあるこの問題に。

「ああ……」

 空を仰ぐ。

「ああ……そんな事、分かっている……」

 言われずとも。

 奥歯を噛み締めたカナリアの頬は濡れていた。

「一つ気掛かりな点がある、剛力の死についてだ。奴は消滅についても知識があるはず、園崎美羽に話を聞いているからな」
「私も最初は園崎さんから聞いた」

 そこまでも知っているのか。

 私は若干の驚きに目を見開くも、しかし同時に彼女の言葉へ同意した。

「消滅が起こっていると気付いたら、即座にその場から離れるだろう。奴はまず自分が助からなければ救える人間も救えないと理解している、そんな人間がダンジョンの崩壊に巻き込まれて死ぬとは……やはり考えられん」

 その点は私たちも気になっていた。

 そもそも私は初めてダンジョンの崩壊と消滅が起こった時、筋肉の手によって助けられている。
 カナリアの言う通り、筋肉は消滅の察知をしたとき即座に撤退をしているのだ。

 それに死の前、筋肉は変な行動をしていた。
 協会からの仕事だと言っていたが、それにしては何処かこそこそ・・・・と姿を隠すような動き。
 今思えば妙な点だが、それ以上にいきなり任された協会の仕事や、自分の周りで起こっていたことに気が向いていてそこまで意識していなかった。

「分かった」

 いい加減、園崎さんとも話をしなくてはいけない。

 筋肉の死は耐え難いものだ。
 だがこのままでは前に進めない、そして進めないまま終わってしまう。

 充電マークの紅く点滅するスマホをタップし、見慣れた電話番号を開く。

『おう』
「あ、もしかしてウニ?」
『そんな海辺で見つけたみたいな言い方するんじゃねえよ!』

 

「今から協会に行くから、園崎さん執務室に呼んどいて」
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

悪役貴族に転生したから破滅しないように努力するけど上手くいかない!~努力が足りない?なら足りるまで努力する~

蜂谷
ファンタジー
社畜の俺は気が付いたら知らない男の子になっていた。 情報をまとめるとどうやら子供の頃に見たアニメ、ロイヤルヒーローの序盤で出てきた悪役、レオス・ヴィダールの幼少期に転生してしまったようだ。 アニメ自体は子供の頃だったのでよく覚えていないが、なぜかこいつのことはよく覚えている。 物語の序盤で悪魔を召喚させ、学園をめちゃくちゃにする。 それを主人公たちが倒し、レオスは学園を追放される。 その後領地で幽閉に近い謹慎を受けていたのだが、悪魔教に目を付けられ攫われる。 そしてその体を魔改造されて終盤のボスとして主人公に立ちふさがる。 それもヒロインの聖魔法によって倒され、彼の人生の幕は閉じる。 これが、悪役転生ってことか。 特に描写はなかったけど、こいつも怠惰で堕落した生活を送っていたに違いない。 あの肥満体だ、運動もろくにしていないだろう。 これは努力すれば眠れる才能が開花し、死亡フラグを回避できるのでは? そう考えた俺は執事のカモールに頼み込み訓練を開始する。 偏った考えで領地を無駄に統治してる親を説得し、健全で善人な人生を歩もう。 一つ一つ努力していけば、きっと開かれる未来は輝いているに違いない。 そう思っていたんだけど、俺、弱くない? 希少属性である闇魔法に目覚めたのはよかったけど、攻撃力に乏しい。 剣術もそこそこ程度、全然達人のようにうまくならない。 おまけに俺はなにもしてないのに悪魔が召喚がされている!? 俺の前途多難な転生人生が始まったのだった。 ※カクヨム、なろうでも掲載しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

処理中です...