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「お見合いどうだった?」
「どうって…。」
僕はテーブルの上のアイスティーをストローでぐるぐるかき混ぜた。ミルクを入れたそれは紅茶色から榛色に変わった。
目の前に座っている可愛らしい男は僕の数少ない友人の一人で僕たちは二人ともオメガだ。
彼は僕の昨日のお見合いの結果を聞いてきた。
「良い人だった?」
「…分かんないよ。三十分くらいしか居なかったから。でも相手はあまり乗り気ではないのは分かった。」
「えー、何それ。」
僕たちオメガは高校を卒業する前に番いを見つける人がほとんどだ。
最近は抑制剤の進歩によってオメガも進学したり就職したりする人が増えて来ている。
でもオメガは一ヶ月~三ヶ月ごとに起こるヒートがあるためいろいろ制限がある。
ヒート中の一週間はどうしても休まなければならない。
番が居ないとフェロモンを撒き散らして自分自身も危険なためみんな早めに番いを見つけるのだ。
高校三年になった僕たちも例外ではなく番いを探している。
友人の真紘は四ヶ月前にお見合いをして番いを見つけた。政府公認の結婚相談所でお見合いをしたのだ。
何度かその相手を見た事がある。がっちりとした体躯の男らしい三つ年上のアルファだった。真紘の事が本当に好きらしくいつもベタベタして世話を焼いている。卒業したら頸を噛んで番う予定だと言っていた。
「まぁ、まだ五回目のお見合いでしょ?そんな簡単に上手くいかないよ。僕だって六回目にトシくんと出会ったんだから。」
「うん。やっぱり番いを見つけないとダメなんだよね…。」
「そりゃそうだよ。ヒートはどうするの?歳をとるごとに酷くなるんだよ?そのうち薬だって効かなくなる。」
「うん。」
昨日のお見合いを思い出して気持ちが沈む。オメガの相手はアルファと決まっている。昨日のお見合い相手ももちろんアルファだった。背が高く整った顔をしていた。どこかの企業の三代目だとプロフィールに書いてあった。
約束の時間きっかりに来た彼は僕の顔を見るなりがっかりしたようだった。特に可愛くもない平凡なオメガだ。いや、平凡以下かもしれない。
彼くらいのアルファならもっと良いオメガがいるだろう。僕だって好き好んで来たわけじゃない。血液検査やプロフィールを登録して国が勝手に相性が良いと選んだ相手だ。
今までお見合いであったアルファはみんな同じような反応だ。あからさまに嫌な顔をしたり、言葉ではっきり言われたこともある。親戚に紹介してもらった時もそうだった。そのアルファは『何でこんなオメガ‥‥』と口の中で呟いていた。
分かっているけど心は抉られる。
「来週も行くんだろ?ならあの薬はやめた方が良いよ。由紀からオメガの匂い、全くしないよ。」
「うん。でもあれを飲まないとヒートが辛くて…。」
真紘が言っているのはオメガのヒートを楽にする薬のことだ。僕はヒートが特に酷くてこの薬を常時飲んでいる。飲み続けないと効果がなくなる。でもヒートが楽になる代わりにフェロモンもあまり出なくなるのだ。
ヒートが軽いオメガが羨ましい。
そうこう言っていると真紘の彼氏が迎えに来た。僕たちは店を出て別れた。
「来週もちゃんと行きなよ?あと、トシくんに誰か良い人居ないか聞いとくから。」
「うん、ありがと。じゃあね。」
二人の後ろ姿を見つめていた。トシくんは真紘から荷物を取り上げて腰に手を回してべったりとくっついている。
僕にもあんな相手が見つかるのだろうか。
憂鬱な気持ちのまま家に帰った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ただいま。」
リビングのソファーに座ってテレビを見ていた母親に声をかけた。
「おかえり。早かったね。」
「うん。」
テレビの画面は母親がはまっている韓国ドラマだ。最近は飽きずにこればかり観ている。
「あ、由紀。病院から電話があったよ。何時でも良いからかけ直してくれって。」
二階の部屋に行こうとした僕に声をかけて来た。顔はテレビを観たままだ。
なんだろう。昨日行ったばかりなのに。
僕は薬をもらいに月一でバース医療センターに通院している。十三歳でオメガと診断されてからずっと同じ病院だ。高校生になってからは一人で受診している。
階段を昇りながら鞄からスマホを取り出して登録してあるそこの番号にかけてみた。
「はい、こちらバース医療センター総合受付です。」
三回目のコールで受付の人が電話に出た。
「あ、あの。そちらから連絡もらったみたいで。かけ直してくれって言われました。」
「お名前と診察券の番号をお願いします。」
「えっと、中原由紀です。番号は5008269です。」
「中原由紀様ですね?折り返しありがとうございます。今、オメガ科にお繋ぎいたします。」
グリーンスリーブスが流れた。しばらくそれを聞いていると電話が繋がった。
「もしもし、中原由紀さんですね?医師の芦沢です。」
「はい。お世話になってます。」
いつもの先生だ。もう三年近く診てもらっている。
「あのですね…。実は…」
「どうって…。」
僕はテーブルの上のアイスティーをストローでぐるぐるかき混ぜた。ミルクを入れたそれは紅茶色から榛色に変わった。
目の前に座っている可愛らしい男は僕の数少ない友人の一人で僕たちは二人ともオメガだ。
彼は僕の昨日のお見合いの結果を聞いてきた。
「良い人だった?」
「…分かんないよ。三十分くらいしか居なかったから。でも相手はあまり乗り気ではないのは分かった。」
「えー、何それ。」
僕たちオメガは高校を卒業する前に番いを見つける人がほとんどだ。
最近は抑制剤の進歩によってオメガも進学したり就職したりする人が増えて来ている。
でもオメガは一ヶ月~三ヶ月ごとに起こるヒートがあるためいろいろ制限がある。
ヒート中の一週間はどうしても休まなければならない。
番が居ないとフェロモンを撒き散らして自分自身も危険なためみんな早めに番いを見つけるのだ。
高校三年になった僕たちも例外ではなく番いを探している。
友人の真紘は四ヶ月前にお見合いをして番いを見つけた。政府公認の結婚相談所でお見合いをしたのだ。
何度かその相手を見た事がある。がっちりとした体躯の男らしい三つ年上のアルファだった。真紘の事が本当に好きらしくいつもベタベタして世話を焼いている。卒業したら頸を噛んで番う予定だと言っていた。
「まぁ、まだ五回目のお見合いでしょ?そんな簡単に上手くいかないよ。僕だって六回目にトシくんと出会ったんだから。」
「うん。やっぱり番いを見つけないとダメなんだよね…。」
「そりゃそうだよ。ヒートはどうするの?歳をとるごとに酷くなるんだよ?そのうち薬だって効かなくなる。」
「うん。」
昨日のお見合いを思い出して気持ちが沈む。オメガの相手はアルファと決まっている。昨日のお見合い相手ももちろんアルファだった。背が高く整った顔をしていた。どこかの企業の三代目だとプロフィールに書いてあった。
約束の時間きっかりに来た彼は僕の顔を見るなりがっかりしたようだった。特に可愛くもない平凡なオメガだ。いや、平凡以下かもしれない。
彼くらいのアルファならもっと良いオメガがいるだろう。僕だって好き好んで来たわけじゃない。血液検査やプロフィールを登録して国が勝手に相性が良いと選んだ相手だ。
今までお見合いであったアルファはみんな同じような反応だ。あからさまに嫌な顔をしたり、言葉ではっきり言われたこともある。親戚に紹介してもらった時もそうだった。そのアルファは『何でこんなオメガ‥‥』と口の中で呟いていた。
分かっているけど心は抉られる。
「来週も行くんだろ?ならあの薬はやめた方が良いよ。由紀からオメガの匂い、全くしないよ。」
「うん。でもあれを飲まないとヒートが辛くて…。」
真紘が言っているのはオメガのヒートを楽にする薬のことだ。僕はヒートが特に酷くてこの薬を常時飲んでいる。飲み続けないと効果がなくなる。でもヒートが楽になる代わりにフェロモンもあまり出なくなるのだ。
ヒートが軽いオメガが羨ましい。
そうこう言っていると真紘の彼氏が迎えに来た。僕たちは店を出て別れた。
「来週もちゃんと行きなよ?あと、トシくんに誰か良い人居ないか聞いとくから。」
「うん、ありがと。じゃあね。」
二人の後ろ姿を見つめていた。トシくんは真紘から荷物を取り上げて腰に手を回してべったりとくっついている。
僕にもあんな相手が見つかるのだろうか。
憂鬱な気持ちのまま家に帰った。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「ただいま。」
リビングのソファーに座ってテレビを見ていた母親に声をかけた。
「おかえり。早かったね。」
「うん。」
テレビの画面は母親がはまっている韓国ドラマだ。最近は飽きずにこればかり観ている。
「あ、由紀。病院から電話があったよ。何時でも良いからかけ直してくれって。」
二階の部屋に行こうとした僕に声をかけて来た。顔はテレビを観たままだ。
なんだろう。昨日行ったばかりなのに。
僕は薬をもらいに月一でバース医療センターに通院している。十三歳でオメガと診断されてからずっと同じ病院だ。高校生になってからは一人で受診している。
階段を昇りながら鞄からスマホを取り出して登録してあるそこの番号にかけてみた。
「はい、こちらバース医療センター総合受付です。」
三回目のコールで受付の人が電話に出た。
「あ、あの。そちらから連絡もらったみたいで。かけ直してくれって言われました。」
「お名前と診察券の番号をお願いします。」
「えっと、中原由紀です。番号は5008269です。」
「中原由紀様ですね?折り返しありがとうございます。今、オメガ科にお繋ぎいたします。」
グリーンスリーブスが流れた。しばらくそれを聞いていると電話が繋がった。
「もしもし、中原由紀さんですね?医師の芦沢です。」
「はい。お世話になってます。」
いつもの先生だ。もう三年近く診てもらっている。
「あのですね…。実は…」
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