言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

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成り立てほやほや王女殿下の初仕事

05 一生、気付かないでしょうね

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「あらあら、王城の扉が閉まってるわね。これでは、民は中には入れないじゃない。王族の方々は、民を見殺しにするつもりなのね。……ほんと、屑は、どこまでいっても屑ってことか。王族でありながら、自分たちのことしか考えない。虫唾が走るわ。穢らわしい」

 思わず、内面の声が出てしまったわ。表情も険しくなる。完全に淑女の表情じゃない。言葉遣いも。それに、声も低いしね。あえて、取り繕うとは思わなかった。それほど、神経に障る不快極まりない映像だから。

 ダラキューロ様は言葉を失いながらも、映し出される映像を見続けている。

 その表情から、彼が何を思いながら見ているのかはわからない。でも、小刻みに震える肩から、早くに王族を見捨てなかった自分の甘さを痛感してるように、私には思えた。今更だけどね。

「王城の周囲だけ、結界が壊れずにあるってことは、創世神様はよほど怒ってるみたいだな」

 ポツリとお父様が感想を述べた。

 淡々とした口調だけど、かなり怒っているのがわかった。お父様の癖ね。娘だものわかるわ。

 お父様の台詞に反応して、ダラキューロ様がお父様に視線を向ける。

「……そうですわね。相当なお怒りですわ。苦しめるだけ苦しめて、残虐な方法で最後を迎えさそうとなさるのですもの。……王城の扉を開け、民を保護したなら、多少は変わったでしょうけどね。残念だわ」

 ダラキューロ様の視線が私に向けられる。

「……どういう意味ですか?」

 お父様と私の台詞に、ダラキューロ様は疑問に思ったのか私に問い掛けてきた。私は首を傾げる。

「どういう意味って、そのままの意味ですわ」

「そのままの意味とは……?」

 ダラキューロ様は本当にわからないのか、それとも考えたくないのか、私にはわからないけど、訊かれたならちゃんと答えるわよ。

「王城の扉を開け、民を助けたなら、まだ人の尊厳は護られたまま死ねたでしょうね。暴徒化した民に殺されるか魔物に殺されるか、そのどちらかでしょう。でも、屑たちはそうしなかった。ダラキューロ様もご存知でしょう。非業な死を遂げた者がどうなるかは?」

「……生きる屍になる」

 完全に顔色を失ったダラキューロ様は、小さな声で吐き出すように呟いた。私は頷く。

「ええ。本来、人は死ぬと魂は体から抜けます。そして、来世へと生まれ変わるための旅に出る。でも、非業な死を遂げた者は、体から魂が抜けない。……結果、呪われ、生きる屍となり、生ある者を求めむさぼり食う。そして食われた者も、生きる屍として生まれ変わる。見てごらんなさいな、あちこちで生きる屍が生まれ続けてますわ」

 魔物に襲われ食われた民たちが、体の一部を欠損させながら立ち上がって、生者のいる王城へと向かっている。中には、這って行こうとする民もいた。

 まさに、地獄絵図ね。

 それにしても、イシリス様の眷族は優秀だわ。高台に避難しながら、この状況を監視しているのだから。

「…………」

 ダラキューロ様は、もはや言葉一つ発することができなくなったみたい。まぁ、そうよね。

「結界が壊れていないから、今は大丈夫と思っているでしょうけど、いつ創世神様の気が変わるか……屑たちはビクビクしているでしょうね。頼みの綱である、聖騎士もおそらく力は使えないでしょうし、贅沢に慣れきった屑たちが、食料を備蓄しているとは思えない。まぁ、ダラキューロ様がいたから多少は備蓄していても、屑たちが野菜スープとパンの生活に我慢できるかしら?」

 まず、無理ね。

 贅沢に慣れきった者は、質素な生活はおくれない。これ常識。

 だから、ベルケイド王国では、王都の貴族たちのような、食べ切れないほどの料理は並ばない。残すって概念がないからね。まぁそこも、貴族らしくないって馬鹿にされてたところだけどね。

 私は一端言葉を区切ってから続けた。

「それに、他国に援助を求めようとしても、誰が助けるかしら? 創世神様と聖獣様に見限られた国を。常識的に考えて、下手に助けて、自分たちの国を危険に晒したくはないわよね」

 私もお父様も絶対に助けたりはしないわよ。だって、民が一番大事だもの。屑たちは自分たちが一番大事だったようだけど。

 それが命運をわけたことに、一生屑たちは気付かないでしょうね。だから、屑なんだけど。



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