言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

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成り立てほやほや王女殿下の初外交

23 ジュリア

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 森を移動すること二晩、三日目の昼に目的の場所に到着した。

 ぽっかりと拓けた場所に並ぶ簡素なお墓。

 盛り上がった土の上に、石を置いただけ。町や王都にあるような、石版に名前を彫ったりはしていない。

 でも、ジュリアはその一つ一つが誰の墓かわかっていた。声を掛けながら順に花を供えていく。私がわかるのは、ジュリアの両親だけ。

「もう少し、立派なものにしてあげたいけど……」

 毎年、お墓の周囲の草を抜きながら思う。

 でも現実は難しい。

 イシリス様やイシリス様の眷属の力を借りて三日で来れるけど、普通なら二週間は掛かるからね。職人を連れて、それも魔物を討伐しながら進むのは、まず無理よね。長期間の滞在となればなおさらだし。といって、不器用な私に石版を彫る芸当は不可能だわ。

「ミネリア、毎年言ってるけど、これでいい。私たちは目立つのを好まない」

 私の呟きが聞こえたのか、相変わらず感情が見えない表情で、ジュリアは淡々と答えた。

 まぁ……そうよね。

 こんな危険な場所に住んでいたんだから、それなりの過去があったなんて、誰でも想像できるわ。そんな人間が集まってできた集落だもの、死後でも、他人に名前を知られるのは嫌なのも理解できるわ。

「わかってるって。少し寂しいかなって思っただけよ」

「寂しくても、死者を思う気持ちは誰にも負けないから構わない」

 そうだね。

 気持ちがこもってるってわかるもの。なんか、お墓が輝いてる感じがする。

「後は、水とお酒を供えたら終わりかな」

 この日のために、今年一番のお酒を用意したわ。私はジュリアの両親は知らないけど、お父さんがお酒が大好物だったって、ジュリアがポツリと教えてくれたの。その翌年から、私はお酒を用意している。これは私の気持ち。

「いつもありがとう、ミネリア」

「どういたしまして」

 私はジュリアの両親の過去も、ジュリアの過去も知らない。お父様は調べて知っていると思う。私が傍に置くことを決めたから。だから、訊けば教えてくれると思う。

 でも、私は聞かなかった。

 聞く必要がなかったし、興味がなかったと言ったら嘘になるけど、ジュリアがそれを嫌がってるのがわかってたからね。

 そもそも、初めから、ジュリアが普通の子じゃないし。なんせ、魔物の生皮を被って魔物に擬態して森を移動していたんだよ。だから、初めて会った時、反射的に攻撃したからね。かすりもしなかったけど。そんなインパクトありありのジュリアだよ、過去なんて霞むでしょ。

 それに、この森の中で生き抜いて来たんだもの、ジュリアはめちゃくちゃ強いよ。ジュリアが本気になったら、ラリーお兄様と互角でしょうね。間違いなく、ベルケイド王国で三本の指に入るわね。知ってるのは、私たち家族だけだけど。

 私より小柄でとても可愛い容姿をしてるのに。無表情だから、陰で残念って思われてる娘がね……あっ、でも、その無表情が良いって、密かにファンがいるらしいわ。人の好みってわかんないよね。

 まぁ言えるのは、過去は関係ないってこと。

 ジュリアがジュリアであればいいわ。

 十年経って、ジュリアの過去をあれこれと詮索する者はまだ現れていない。密かに、お父様とラリーお兄様が色々してるかもしれないけど。これから先も現れないでと切に願う。そう願っても、未来はわかんないから、絶対現れないとは断言できない。

 もし現れたとしても、私はジュリアの親友を止めるつもりも、お墓参りを止めるつもりもないわ。

 まぁ必要になったら、私が持ってる力を最大限に使って阻止するだけだけどね。


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