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第十一話 婚約披露宴
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舞踏会から二週間後、王弟レナートとアンヌンツィアータ家養女フェデリカの婚約が正式に発表された。本来両親の立ち会いの下で婚約式を挙げるべきだが、アンヌンツィアータ家の当主夫妻は領地を離れられず、先代国王夫妻は既に亡くなっているため、神殿への提出という形で済ませた。婚姻は1年後、王位を引き継ぐのは3年後となる。王弟を慕っていた令嬢たちは落涙し、フェデリカに嫉妬を多分に含んだ眼差しを向けた。貴族当主たちは子爵家の血を引くフェデリカが王家に嫁入りすることに難色を示したが、王命の一言で封じられた。
たまたま海の王国から外遊で訪れていた貴族たちも招待し、婚約披露パーティーが開かれる運びとなった。
フェデリカは微笑みを張り付けたまま貴族たちとの挨拶に忙殺されていた。3日前に偶然鉢合わせた男のことは、敢えて考えないようにしていた。あちらはあちらで、科学技術が進んだ国、異国を感じさせる美貌ということで周囲に人の輪が出来ている。
「――アンヌンツィアータ様!」
「デアンジェリス令嬢」
人がある程度掃けたところで声をかけてきたのは、元妹であるジュリアマリアだ。傍らに立つ元王太子は、王弟に礼儀正しく声をかけている。
「あの、少しお話いいですか?」
「......分かりました」
王弟に目配せし、フェデリカはその場を離れた。人がいない庭園に降りて早々、ジュリアマリアは深々と頭を下げる。
「――ありがとう」
「は?」
「あなたのおかげで、ブルーノと婚約できた。ありがとう」
「何度も言うけれど、私は何もしていないわ」
「うん。でも、あたしあなたのおかげでいろいろ分かったことがあったから」
ジュリアマリアは締まりなく笑った。
「あたしが引き取られた時も嫌な顔しなかったし、貴族子女の心得を教えてくれた。考える癖をつけさせてくれた。だから、それも含めてありがとう」
「......そう」
「でも、よかったの? 研究者になりたいんでしょ? このまま王妃さまになったらやばいよね?」
「さあ。なんとかなるでしょう」
「そう......そう言うならいいんだけど」
戻ろう、と言われフェデリカが踵を返そうとした時、庭園の入り口に人影を認めた。ジュリアマリアが慌てて頭を下げる。
「王弟殿下に拝謁いたします」
「少しアンヌンツィアータ令嬢と話したいことがあるから、いいかな?」
「はい、失礼いたします」
ジュリアマリアが足早に去り、庭園に沈黙が落ちた。
「――どうか、されましたか」
「アンヌンツィアータ令嬢。これは、決して詰問ではないということを踏まえて答えてほしい」
ああ、今なのか、とフェデリカは思った。どうか口を滑らせないように、と信じてもいない神に祈った。
「婚約破棄騒動が起きるように仕向けたのは、君か?」
***
「王弟殿下に拝謁します」
「堅苦しいことはよしてくれ、ブルーノ。内輪の時はこれまで通り叔父上で構わないよ」
助かります、とブルーノは照れたように微笑んだ。レナートとブルーノは叔父と甥として仲良くしていた。国王とのことは、ブルーノが与り知らぬことである。
「こうして話すのは随分久しぶりだな。会っても私的な話ができる状況ではなかったし」
「はは......僕が起こした騒動で、叔父上には随分ご迷惑をおかけしました。改めてお詫びします」
「謝らないでくれ。お前なりに考えて動いたんだろう」
「はい......てっきり伯爵位くらいに落とされると思っていたのですが」
婚約破棄騒動は初めこそブルーノの暴走と見られていたが、調査を進めるにつれそればかりではないということが分かった。カヴァリエリ令嬢の取り巻きによるジュリアマリアへの加害、カヴァリエリ令嬢の不貞(流石に体の関係はないが)、更には宣誓書による証言集め。父王の反対を見越して、他国の賓客もいる建国祭の場を選んだことも考えると、暴走とはとても呼べない。感情のまま国外追放などと宣ったのは、阿呆の所業ではあるが。
ただ、修道院送りにされたカヴァリエリ令嬢や勘当されたティベリオに比べると、一代限りとはいえ公爵位を与えられたことは甘い措置である。
「ところで、宣誓書のことを考えたのはお前だというのは本当か?」
ブルーノはぽりぽりと頬を掻いた。やはり供述の記載は嘘だったらしい、とレナートは苦笑する。
「いや、実はジュリアの発案なんですよね。僕もびっくりしました。なんでも姉君が大学で神学と法学を学んでいると聞いて、神殿法を読んでたらしくて。えへ、意外にジュリアは勤勉なんですよ」
にまにましていたブルーノは、しかしすぐに表情を暗くした。
「アンヌンツィアータ令嬢にも申し訳ないです。研究熱心な姉を自由にしてくれ、とジュリアにも頼まれたのですが、結局何もできず......ふがいない。叔父上も、あれほど王位を嫌っておられたのに......」
「仕方ないさ」
仕方ない。ほんとうにその一言に尽きる。
「ブルーノ。私は少し疲れたから、アンヌンツィアータ令嬢を迎えに行きがてら、休憩してくる。この場を頼んでもいいか?」
「わかりました」
レナートはブルーノに対応を任せ、会場を出た。
——姉を自由にしてくれ、か。
殆ど喋ったことがない、と言う割には、ジュリアマリアはフェデリカを慕っているようだった。ようやく話せた、と言わんばかりにフェデリカを連れていき、フェデリカも疎んじている様子はなかった。
——宣誓書。噂。姉妹。
さて、どこまでがあの令嬢の企みなのだろう。紫の瞳の美しい令嬢は、何を思ってこの騒動を引き起こしたのだろう。
たまたま海の王国から外遊で訪れていた貴族たちも招待し、婚約披露パーティーが開かれる運びとなった。
フェデリカは微笑みを張り付けたまま貴族たちとの挨拶に忙殺されていた。3日前に偶然鉢合わせた男のことは、敢えて考えないようにしていた。あちらはあちらで、科学技術が進んだ国、異国を感じさせる美貌ということで周囲に人の輪が出来ている。
「――アンヌンツィアータ様!」
「デアンジェリス令嬢」
人がある程度掃けたところで声をかけてきたのは、元妹であるジュリアマリアだ。傍らに立つ元王太子は、王弟に礼儀正しく声をかけている。
「あの、少しお話いいですか?」
「......分かりました」
王弟に目配せし、フェデリカはその場を離れた。人がいない庭園に降りて早々、ジュリアマリアは深々と頭を下げる。
「――ありがとう」
「は?」
「あなたのおかげで、ブルーノと婚約できた。ありがとう」
「何度も言うけれど、私は何もしていないわ」
「うん。でも、あたしあなたのおかげでいろいろ分かったことがあったから」
ジュリアマリアは締まりなく笑った。
「あたしが引き取られた時も嫌な顔しなかったし、貴族子女の心得を教えてくれた。考える癖をつけさせてくれた。だから、それも含めてありがとう」
「......そう」
「でも、よかったの? 研究者になりたいんでしょ? このまま王妃さまになったらやばいよね?」
「さあ。なんとかなるでしょう」
「そう......そう言うならいいんだけど」
戻ろう、と言われフェデリカが踵を返そうとした時、庭園の入り口に人影を認めた。ジュリアマリアが慌てて頭を下げる。
「王弟殿下に拝謁いたします」
「少しアンヌンツィアータ令嬢と話したいことがあるから、いいかな?」
「はい、失礼いたします」
ジュリアマリアが足早に去り、庭園に沈黙が落ちた。
「――どうか、されましたか」
「アンヌンツィアータ令嬢。これは、決して詰問ではないということを踏まえて答えてほしい」
ああ、今なのか、とフェデリカは思った。どうか口を滑らせないように、と信じてもいない神に祈った。
「婚約破棄騒動が起きるように仕向けたのは、君か?」
***
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「堅苦しいことはよしてくれ、ブルーノ。内輪の時はこれまで通り叔父上で構わないよ」
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「謝らないでくれ。お前なりに考えて動いたんだろう」
「はい......てっきり伯爵位くらいに落とされると思っていたのですが」
婚約破棄騒動は初めこそブルーノの暴走と見られていたが、調査を進めるにつれそればかりではないということが分かった。カヴァリエリ令嬢の取り巻きによるジュリアマリアへの加害、カヴァリエリ令嬢の不貞(流石に体の関係はないが)、更には宣誓書による証言集め。父王の反対を見越して、他国の賓客もいる建国祭の場を選んだことも考えると、暴走とはとても呼べない。感情のまま国外追放などと宣ったのは、阿呆の所業ではあるが。
ただ、修道院送りにされたカヴァリエリ令嬢や勘当されたティベリオに比べると、一代限りとはいえ公爵位を与えられたことは甘い措置である。
「ところで、宣誓書のことを考えたのはお前だというのは本当か?」
ブルーノはぽりぽりと頬を掻いた。やはり供述の記載は嘘だったらしい、とレナートは苦笑する。
「いや、実はジュリアの発案なんですよね。僕もびっくりしました。なんでも姉君が大学で神学と法学を学んでいると聞いて、神殿法を読んでたらしくて。えへ、意外にジュリアは勤勉なんですよ」
にまにましていたブルーノは、しかしすぐに表情を暗くした。
「アンヌンツィアータ令嬢にも申し訳ないです。研究熱心な姉を自由にしてくれ、とジュリアにも頼まれたのですが、結局何もできず......ふがいない。叔父上も、あれほど王位を嫌っておられたのに......」
「仕方ないさ」
仕方ない。ほんとうにその一言に尽きる。
「ブルーノ。私は少し疲れたから、アンヌンツィアータ令嬢を迎えに行きがてら、休憩してくる。この場を頼んでもいいか?」
「わかりました」
レナートはブルーノに対応を任せ、会場を出た。
——姉を自由にしてくれ、か。
殆ど喋ったことがない、と言う割には、ジュリアマリアはフェデリカを慕っているようだった。ようやく話せた、と言わんばかりにフェデリカを連れていき、フェデリカも疎んじている様子はなかった。
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