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第二十八話 思い
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真っ赤な顔から一転、フェデリカは眉を寄せた。
「......痛みますか?」
「いや。もう、痛みはない」
「切られた、というのはどこです?」
ここだ、と指差すとフェデリカは益々渋面になる。
「......随分と痛んだでしょう。6年前であれば解剖学の知識も外科手術も、今ほど正確ではなかったはずです」
お辛かったですよね、と言われ、レナートはぽかんとした。
「......笑わないのか?」
「なぜ笑うのです」
「私は......男の見た目をしながら男ではない生き物だ。片側だけ切り取られた異形だ。自分でも恥ずかしく思う」
「......レナート」
俯いていたレナートは、フェデリカが発したとは思えない低い声にぎょっとして顔を上げた。途端に頬を両手で挟まれる。
「あなたが恥じるべきことはありません。あなたは私の夫です。私にとってそれ以上大事なことはありません」
「だが......束の間のことに過ぎない。もしも本当の夫婦であれば、そうも言えないだろう」
「いいえ。だとしても私は同じことを申し上げます」
「......子ができぬのだぞ? 私のせいで」
「だからなんだというのです」
「夜の営みも、できないだろう」
「結構です。結婚とは二者を結び付けるものであり、子は出来たら尚良い、というものだと考えております。夜の営みには子を作るために必要なものであり、それ以上でもそれ以下でもありません」
「......だが」
「あなたの価値を決めるのはあなたです。勝手に落ちていかないでください」
「私は、己に価値を見出していない」
フェデリカは眉を顰めた。
「そんなに自分を信じられないなら、噂対策で考えていた惚気を言って差し上げます」
「え?」
口を挟む間もなく、怒涛の如く言葉は続く。
「陛下は私の研究についての話をよく聞いてくれます。早口で専門用語ばかりで分かりにくいでしょうに、理解しようとしてくれます。私の望みを叶えてくれようとしますし、誕生日にも素敵な贈り物をくださいました。とても優しい方です。私の寝相が悪くてよく陛下の方に近づいて行ってしまうのですが、いつも起こさず無視してくださいます。ダンスも上手です。前に足を踏んでしまったことがあるのですけれど、周囲に気づかせないでリードしてくださいました。それと料理がとっても上手です。サンドウィッチもタルトもすごくおいしかった。多分料理人になれます。えーと、あと顔面が国宝級?らしいです。背も高いです。私も女性の中では高い方ですけれど、10cmヒールを履いても負けます」
「フェデリカ」
「あなたがあなたの価値を信じないならそれでも構いません。ですが私はこう思っているということを覚えておいてください」
「......フェデリカ」
「なんですか、レナー......なぜ泣いているのですか!? あ、え、私、何か気の障ることを言いましたか?」
狼狽えたような声を聞きながら、レナートはただ首を横に振った。
「抱きしめても、いいか」
答えよりも早く温もりに包まれた。
「抱きしめるなんて、今更では? 私は毎朝、あなたのすぐ横で目覚めているのですから」
「......そうだな」
ふ、と小さく笑いが漏れた。こみ上げる熱を鎮めるのにどれだけ必死だったか、フェデリカは知らないだろう。
好きだ。君が好きだ。
口に出せない思いが波のように胸に広がり、息が苦しかった。
「......痛みますか?」
「いや。もう、痛みはない」
「切られた、というのはどこです?」
ここだ、と指差すとフェデリカは益々渋面になる。
「......随分と痛んだでしょう。6年前であれば解剖学の知識も外科手術も、今ほど正確ではなかったはずです」
お辛かったですよね、と言われ、レナートはぽかんとした。
「......笑わないのか?」
「なぜ笑うのです」
「私は......男の見た目をしながら男ではない生き物だ。片側だけ切り取られた異形だ。自分でも恥ずかしく思う」
「......レナート」
俯いていたレナートは、フェデリカが発したとは思えない低い声にぎょっとして顔を上げた。途端に頬を両手で挟まれる。
「あなたが恥じるべきことはありません。あなたは私の夫です。私にとってそれ以上大事なことはありません」
「だが......束の間のことに過ぎない。もしも本当の夫婦であれば、そうも言えないだろう」
「いいえ。だとしても私は同じことを申し上げます」
「......子ができぬのだぞ? 私のせいで」
「だからなんだというのです」
「夜の営みも、できないだろう」
「結構です。結婚とは二者を結び付けるものであり、子は出来たら尚良い、というものだと考えております。夜の営みには子を作るために必要なものであり、それ以上でもそれ以下でもありません」
「......だが」
「あなたの価値を決めるのはあなたです。勝手に落ちていかないでください」
「私は、己に価値を見出していない」
フェデリカは眉を顰めた。
「そんなに自分を信じられないなら、噂対策で考えていた惚気を言って差し上げます」
「え?」
口を挟む間もなく、怒涛の如く言葉は続く。
「陛下は私の研究についての話をよく聞いてくれます。早口で専門用語ばかりで分かりにくいでしょうに、理解しようとしてくれます。私の望みを叶えてくれようとしますし、誕生日にも素敵な贈り物をくださいました。とても優しい方です。私の寝相が悪くてよく陛下の方に近づいて行ってしまうのですが、いつも起こさず無視してくださいます。ダンスも上手です。前に足を踏んでしまったことがあるのですけれど、周囲に気づかせないでリードしてくださいました。それと料理がとっても上手です。サンドウィッチもタルトもすごくおいしかった。多分料理人になれます。えーと、あと顔面が国宝級?らしいです。背も高いです。私も女性の中では高い方ですけれど、10cmヒールを履いても負けます」
「フェデリカ」
「あなたがあなたの価値を信じないならそれでも構いません。ですが私はこう思っているということを覚えておいてください」
「......フェデリカ」
「なんですか、レナー......なぜ泣いているのですか!? あ、え、私、何か気の障ることを言いましたか?」
狼狽えたような声を聞きながら、レナートはただ首を横に振った。
「抱きしめても、いいか」
答えよりも早く温もりに包まれた。
「抱きしめるなんて、今更では? 私は毎朝、あなたのすぐ横で目覚めているのですから」
「......そうだな」
ふ、と小さく笑いが漏れた。こみ上げる熱を鎮めるのにどれだけ必死だったか、フェデリカは知らないだろう。
好きだ。君が好きだ。
口に出せない思いが波のように胸に広がり、息が苦しかった。
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