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番外編 元王太子の最愛
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「その腕、どうしたんだ」
「え? あぁ、ぶつけちゃったんです。大した怪我じゃないですよ」
この頃から、ジュリアマリアは物を失くしたり怪我をしたりということが増えた。恐らくはカヴァリエリ令嬢の取り巻きによる仕業だろう。デアンジェリス家に関するあらぬ噂も立てられ、ブルーノは鎮火に奔走した。
「ブルーノ。近頃、子爵家の娘に現を抜かしていると聞くが」
「そのようなことはございません。私の婚約者はカヴァリエリ令嬢ただひとりです」
「そうか。弁えているならばよいのだ」
父王にまで目を付けられていると理解し、ブルーノはジュリアマリアから距離を置いた。父王が手段を選ばないことは、ここ数年で嫌というほど理解していた。ジュリアマリアと会わないまま1か月が過ぎ、2か月が過ぎた。元々昼休みの図書館で約束もせずに会っていただけだから、行かなくなれば会うこともなくなった。ジュリアマリアの笑い声を聞かなくなったから、どれほどその明るさに救われていたのかを理解した。
「御機嫌よう、王太子殿下!」
「うぇっ!?」
早朝の図書館である。早起きは苦手だと言っていた通り、今までジュリアマリアに会うことがなかった。しかしこの日、ジュリアマリアは満面の笑みを浮かべて本棚の陰に佇んでいたのである。
「お久しぶりですね、殿下」
「あ、あぁ......そうだな」
ブルーノは一歩後ずさった。するとジュリアマリアは二歩距離を詰めてくる。
「ここ2か月、ずっと早朝に来ていたんですね。不勉強になったのかと思いましたよ」
「昼休みは、忙しくてな」
「そうですか、そうですよね。心の不貞をされている婚約者さまと冷え切ったご飯を食べるのに大忙しですよね」
「......デアンジェリス令嬢!」
「あのですねえ!」
咎めるための声は苛立たし気なジュリアマリアの声にかき消された。
「別に噂とか気にしてませんし、嫌がらせなんてみみっちくてどーでもいいんですよ。教科書は破られても修復できますし、隠されたって図書室で借りて写しを作ればいい話です。制服を濡らされるのはちょっと困りますけど、別に乾くのを待てばいいですし」
「......私と関わらなければ、そういう被害にも遭わないだろう。だから今後も」
「馬鹿ですかあなた。それで大人しく引っ込んでるような女だったら、あたしは今ここにいないんですよ」
ブルーノは思わず目を見開いた。
「浮気は嫌いですよ。不倫とか嫌ですよ。だからどうしてこうなったんだろうなーって自分でも思ってます」
「べ、別に私と君の関係は浮気では」
「じゃあ片思いっていってもいいですけど。とにかく、婚約者がいるような人を好きになる予定はなかったんですよ」
ジュリアマリアが更に距離を詰める。
「これで幸せそうならこっちも大人しく身を引けるって言うのに、あなたの婚約者は他人様の婚約者と浮気してるし、周りの奴らはそれを呷ってて、とうのあなたは死にそうな顔してるんだもん。放っておけないじゃないですか」
「......死にそうな顔を、しているか?」
「言い方は悪いですけど、生きる屍みたいでしたよ、ここんとこ」
「......君に会えなかったから」
「は?」
「君と会わないようにしたから。何も楽しくなかった」
ジュリアマリアはぽかんと口を開けた。見る見るうちに眉間に皺が寄る。
「だったらなんで避けるんですか」
「目を付けられるのは君だ。申し訳なかった」
「だーかーら、そういう時はふたりで考えればいいんですよ」
「え?」
「ひとつ目! どうしたいんですか。今後、あたしとどうなりたいんですか」
「どうって......」
ブルーノは口ごもった。
「......恋人になりたい」
「それは嫌です」
「へ?」
今断られただろうか。一瞬ブルーノは固まった。
「ふたつ目! 婚約者さまについてどう思ってるんですか。ちなみに私は一番最初に申し上げた通りなんですけど」
多分、クソの話のことだろう。
「……もうとっととティベリオとくっつけばいいと思う」
「じゃあそうしましょうよ」
「いや、だがふたりとも婚約が」
「あたし知ってますよ。不貞って、立派な婚約無効の材料になるってこと」
ジュリアマリアは不敵に笑った。
「だから、もしあなたが婚約解消に漕ぎつけたら、その時は婚約者になって差し上げます」
どこまでも偉そうなジュリアマリアを見て、思わずブルーノは噴き出した。
「なるほど。この私に不祥事を起こせと」
「そうです。だってあたしは、ただの子爵家の娘ですから」
「そうだな」
真実ジュリアマリアと結ばれることを願うなら、この地位をすべて捨てなければならない。堂々たる貴賤結婚、己の名を地に落とし、父王の願いと呪いを捨て去ること。
——けれど、それも悪くないと思った。
「君こそ、いいのか。世紀の悪女と言われるかもしれないぞ」
「いいですよ。どんと来いです」
ブルーノは笑った。
「では、謀をしようか」
「あたしの頭にはあんまり期待しないでくださいね!」
かくて時は巡る。様々な証拠を揃え、ブルーノは婚約解消を突き付けたのであった。
ーーーーーーー
これにて「愛は契約範囲外」完結となります。
本編、番外編、お付き合いくださった皆さま、ありがとうございました。お気に入り登録、ハート、励みになりました。
また別の作品でお会いできたら幸いです。
伊沙羽 璃衣
「え? あぁ、ぶつけちゃったんです。大した怪我じゃないですよ」
この頃から、ジュリアマリアは物を失くしたり怪我をしたりということが増えた。恐らくはカヴァリエリ令嬢の取り巻きによる仕業だろう。デアンジェリス家に関するあらぬ噂も立てられ、ブルーノは鎮火に奔走した。
「ブルーノ。近頃、子爵家の娘に現を抜かしていると聞くが」
「そのようなことはございません。私の婚約者はカヴァリエリ令嬢ただひとりです」
「そうか。弁えているならばよいのだ」
父王にまで目を付けられていると理解し、ブルーノはジュリアマリアから距離を置いた。父王が手段を選ばないことは、ここ数年で嫌というほど理解していた。ジュリアマリアと会わないまま1か月が過ぎ、2か月が過ぎた。元々昼休みの図書館で約束もせずに会っていただけだから、行かなくなれば会うこともなくなった。ジュリアマリアの笑い声を聞かなくなったから、どれほどその明るさに救われていたのかを理解した。
「御機嫌よう、王太子殿下!」
「うぇっ!?」
早朝の図書館である。早起きは苦手だと言っていた通り、今までジュリアマリアに会うことがなかった。しかしこの日、ジュリアマリアは満面の笑みを浮かべて本棚の陰に佇んでいたのである。
「お久しぶりですね、殿下」
「あ、あぁ......そうだな」
ブルーノは一歩後ずさった。するとジュリアマリアは二歩距離を詰めてくる。
「ここ2か月、ずっと早朝に来ていたんですね。不勉強になったのかと思いましたよ」
「昼休みは、忙しくてな」
「そうですか、そうですよね。心の不貞をされている婚約者さまと冷え切ったご飯を食べるのに大忙しですよね」
「......デアンジェリス令嬢!」
「あのですねえ!」
咎めるための声は苛立たし気なジュリアマリアの声にかき消された。
「別に噂とか気にしてませんし、嫌がらせなんてみみっちくてどーでもいいんですよ。教科書は破られても修復できますし、隠されたって図書室で借りて写しを作ればいい話です。制服を濡らされるのはちょっと困りますけど、別に乾くのを待てばいいですし」
「......私と関わらなければ、そういう被害にも遭わないだろう。だから今後も」
「馬鹿ですかあなた。それで大人しく引っ込んでるような女だったら、あたしは今ここにいないんですよ」
ブルーノは思わず目を見開いた。
「浮気は嫌いですよ。不倫とか嫌ですよ。だからどうしてこうなったんだろうなーって自分でも思ってます」
「べ、別に私と君の関係は浮気では」
「じゃあ片思いっていってもいいですけど。とにかく、婚約者がいるような人を好きになる予定はなかったんですよ」
ジュリアマリアが更に距離を詰める。
「これで幸せそうならこっちも大人しく身を引けるって言うのに、あなたの婚約者は他人様の婚約者と浮気してるし、周りの奴らはそれを呷ってて、とうのあなたは死にそうな顔してるんだもん。放っておけないじゃないですか」
「......死にそうな顔を、しているか?」
「言い方は悪いですけど、生きる屍みたいでしたよ、ここんとこ」
「......君に会えなかったから」
「は?」
「君と会わないようにしたから。何も楽しくなかった」
ジュリアマリアはぽかんと口を開けた。見る見るうちに眉間に皺が寄る。
「だったらなんで避けるんですか」
「目を付けられるのは君だ。申し訳なかった」
「だーかーら、そういう時はふたりで考えればいいんですよ」
「え?」
「ひとつ目! どうしたいんですか。今後、あたしとどうなりたいんですか」
「どうって......」
ブルーノは口ごもった。
「......恋人になりたい」
「それは嫌です」
「へ?」
今断られただろうか。一瞬ブルーノは固まった。
「ふたつ目! 婚約者さまについてどう思ってるんですか。ちなみに私は一番最初に申し上げた通りなんですけど」
多分、クソの話のことだろう。
「……もうとっととティベリオとくっつけばいいと思う」
「じゃあそうしましょうよ」
「いや、だがふたりとも婚約が」
「あたし知ってますよ。不貞って、立派な婚約無効の材料になるってこと」
ジュリアマリアは不敵に笑った。
「だから、もしあなたが婚約解消に漕ぎつけたら、その時は婚約者になって差し上げます」
どこまでも偉そうなジュリアマリアを見て、思わずブルーノは噴き出した。
「なるほど。この私に不祥事を起こせと」
「そうです。だってあたしは、ただの子爵家の娘ですから」
「そうだな」
真実ジュリアマリアと結ばれることを願うなら、この地位をすべて捨てなければならない。堂々たる貴賤結婚、己の名を地に落とし、父王の願いと呪いを捨て去ること。
——けれど、それも悪くないと思った。
「君こそ、いいのか。世紀の悪女と言われるかもしれないぞ」
「いいですよ。どんと来いです」
ブルーノは笑った。
「では、謀をしようか」
「あたしの頭にはあんまり期待しないでくださいね!」
かくて時は巡る。様々な証拠を揃え、ブルーノは婚約解消を突き付けたのであった。
ーーーーーーー
これにて「愛は契約範囲外」完結となります。
本編、番外編、お付き合いくださった皆さま、ありがとうございました。お気に入り登録、ハート、励みになりました。
また別の作品でお会いできたら幸いです。
伊沙羽 璃衣
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