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しおりを挟む『それでは今から会見を始めさせていただきます。』
今回は僕メインで話させて貰う
皆心配してくれたけど、もう大丈夫だから
僕の両隣には響さんと永倉さん、僕の後ろには志野さんと頼さん、司会は弁護士の大野さんが駆けつけてくれた
皆が僕を守ろうとしてくれている
だからこそ、自分の言葉で自分の気持ちを話したい
僕は立ち上がりマイクを手に取る
『本日はお忙しい中、お集まりいただき本当にありがとうございます。』
深々と一礼する
『本日は、細井容疑者逮捕の件について、僕の気持ちを、僕の言葉で皆様にお伝えしたく会見を開かせていただきました。
質疑応答は最後にさせていただきますので暫くお待ちください。』
一度席に座り、大野さんが進行してくれる
『ではまず、相田彼方からご挨拶したい方々がいらっしゃいます。本日この場にいらっしゃらない方もおられますが、テレビの向こうで聞いていただけることを願いましてご挨拶させていただきます』
大野さんの合図に頷き、もう一度立ち上がる
『………僕の不安を理解し、僕を陰ながら守り助けてくれた、有志の650名の皆さん、取材班の皆さん、有志の方々に全面協力をする決断をしてくださった東井社長、並びに東井新聞社、東井テレビの幹部の皆さん、この度は本当にありがとうございました。
放送を見て、僕は色んな事に気づかされました。
あの事件の後、僕は心から信じれる人がほとんどいませんでした。
事件の時、僕を保護してくれた方の家に居た時も、いつも支えてくれる社長や事務所のスタッフさんでさえ、心の中では僕を嫌ってるかもしれない、迷惑だと思っているかもしれないと不安で、細井容疑者に殺されかけた時の夢や、皆から責められる夢ばかり見て魘されていました。
当時は魘されていた事さえ覚えていなかったんですが、魘される僕と一緒に、叶さんが寝てくれるようになって、最初は夢を見ることもなくなって、次第にまた夢を見るようになりましたが、少しずつ魘される夢を忘れずに、目を覚ますようになりました。
きっと自分の中で少しずつ消化できていった為だと思います。
時間が経つにつれて悪夢自体を見ることは無くなりましたが、まだ人を信じるのが怖くて、人と話す時は内心ビクビクしてました。
仲良くなるにつれて、ビクつく事はなくなりましたが、どこか一歩退いてしまってました。
現場に行く度、背格好が細井容疑者に似ている人が居ると、心臓がバクバクして、呼吸が苦しくなる事もありました。
その度に、叶さんやマネージャーの志野さんが助けてくれました。
ゆっくりですが、そういった症状も減ってきてはいましたが、突然症状が出たりして、僕の専属マネージャーになってくれた頼さんにも心配をかけてしまいました。
社長からは病院にかかった方が良いと何度も言われたんですが、僕が病院へ通ってることがマスコミの皆さんにバレたら、またあの事件の事を蒸し返されてしまう、質問攻めにされたら怖いって、皆さんに攻撃されると思い込んで拒否し続けました。
そうやって自分の心とちゃんと向き合う事もなく、騙し騙し昨日まできました。
あの特別番組で、細井容疑者と警察に何かしらの関わりがあると思っているのに、それでも調査している理由を聞かれた有志の代表の方の言葉が胸に響いたんです。
彼らはテレビを通して僕を知っているけど、僕は彼らを知らない。
彼らは僕に感謝してほしいとか、認知してほしいとか、そんなもの望んでなくて、僕の不安を理解して、その不安を取り除く為だけに動いてくれてた。
それを聞いた時、凄く胸が苦しかった……
家族でもない、知り合いでもないのに、こんなにも僕の事を思ってくれる人が居る
血の繋がった親戚にさえ縁を切られた僕を、こんな沢山の人が心配し、理解し、助け、守ろうとしてくれてる。
彼の言葉でやっと気づいたんです。
確かに僕を嫌いな人は居る。
けど僕を好きでいてくれてる人も居る。
皆が皆敵じゃない。
いつも隣には叶さんや役者仲間が居てくれて、目の前には、道を示してくれる社長や志野さん、頼さんがいる。
背中には、立ち止まっても、また歩き出せるようにと背中を押してくれるスタッフさんやファンの人達がいてくれる。
祖母が死んでから、僕はずっと独りぼっちだと思ってました。
でも役者の世界に入って、僕は独りぼっちじゃなくなった。
その事を皆さんが教えてくれた。
本当に、ありがとうございました。』
深々と一礼し席に座る
響さんがそっと背中を撫でてくれた
会場からは鼻をすする音があちらこちらから聞こえたけど、まっすぐ前を向いていた
『では次に、細井容疑者に対しての気持ちを聞かせてください。』
ここからは座ったまま話をする
『はい。細井容疑者の事は許せません。僕を殺そうとしたこと。あの時理由も分からず山に連れて行かれ、突き落とされた恐怖は、今でも忘れる事はできません。真っ暗な中、寒くて痛くて、本当に死ぬかもしれないと思った。
細井容疑者が刑に服し反省をしたとしても、僕の中からあの時の恐怖は消えないんです。
細井容疑者は、僕だけじゃなく、沢山の人の人生を狂わせました。
私欲の為に、努力して役者の道を歩んでいた人達に嫌がらせをし、彼らを脅して、役者の道を断たせる手伝いをした。
細井容疑者や先に逮捕された生田さん達が居なければ、皆舞台に立ったりドラマに出たりしていたかもしれない。
彼らが驕り高ぶらず、努力を重ねていれば、彼らだって違う未来があったはずです。
直接手を下さず、人の人生を狂わせた細井容疑者は、きっと努力とは無縁で生きてきたのだと思います。でなければ、必死に努力していた彼らを陥れるような事はできないはずです。
細井容疑者には罪を償う前に、死ぬほど努力をするという事が、どれだけ身を削り精神に負担があるのか、身をもって知ってほしい。
でなければ、自分がどれ程の罪を犯したか理解できないでしょうから。』
「その通りだー!」とあちこちから声が飛んできた
つい声をあげてしまったようで、「あ、すみません」と苦笑いする人に、笑顔を向けた
『では、今回井戸端智則警視正とその息子秋夜に対してはどう感じてらっしゃいますか?』
「そうですね………簡潔に言えば、クソ野郎ですね。
そもそも、警視正まで上りつめた人が何をやっているんだと。元々エリートコースの人だったのかもしれませんが、努力して今の地位についたでしょうに。
これは僕の憶測でしかないけど、息子の育て方を間違えたせいで、自分のキャリアに傷がつくと思って発覚を恐れ、揉み消しをしたのなら、父親としても警察官としても失格だと思います。
だって、息子の将来より、自分のキャリアの方が大切だったから、覚醒剤に手を出すことがどれ程ダメな事なのか教えず、彼の間違いを正すチャンスを握り潰したのだから。
息子に対しては、かわいそうな奴だなって思います。彼の罪を知る友達も、誰も彼を止めてくれなかったんですもん。止めとけよって声をかけてくれる人は居たかもしれないけど、全力で止めてくれる人が彼には居なかった。父親でさえも。そんな人間関係しか構築できなかった彼は憐れだと思います。」
『確かに、父親にも見捨てられて自分の間違いに気づかない、気づこうともしない、憐れですねぇ…私も仕事柄いろいろな方を見て来ましたが、親の影響って子供には大きいですよね。
親が正しくなければ、今回のように子供まで正しくない人間に育つ。
子育てをする前に、自分自身が人として正しく成長しなければならない。
会見をご覧の皆様も、自分が今正しく生きているか、自分がしていることは本当に正しいのか一度立ち止まって考えてみてください。
それでは質疑応答に移ります。質問は被害者側への質問とさせていただきます。
有志の方々が行われた捜査についてなどはこちらでは特別番組以上の事は存じ上げませんので、そういった類の質問はしないようお願いします。』
質疑応答に移り、質問がある人には手を挙げてもらい、マイクを渡した人が質問できる形式にした。今回は所属や名前を言わなくて良いことにしている
『私事なんですが一昨日子供が産まれまして、初めての子育てになるんですが、その矢先に細井容疑者が逮捕されました。本当に、親の育て方一つなんだなと思ったんですが、相田さんのように育つにはご両親から何か特別な教育など受けられたんですか?』
まさかそんなことを聞かれるとは思っておらず、僕は直ぐには言葉が出なかった
「子供様の誕生、おめでとうございます。僕の親は中学の時に亡くなったんですが、そうですね…特別な教育などは受けてはおりませんでしたよ。ただ、母は生前よく『彼方は小さい頃人見知りが酷くて、人が怖いのか、自分を守るために凄く狂暴だったのよ』と言っていました。
保育園では友達を叩いたりしたことも何度もあったそうです。
その度に母は、僕を同じように叩いたと言っていました。『叩かれたら痛い、痛いのは嫌だ、悲しい。彼方がそう思うなら、彼方が叩いた子だって痛いし、嫌だし、悲しいのよ』って、僕が理解するまで言い続けたそうです。
しばらくして、友達に手を出すことも無くなったとも言ってました。小学校高学年で反抗期に入った僕は、家族と口を利かなくなった時期がありました。そんな時に父から言われたのは『彼方がパパ達と喋りたくないのはどうして?パパ達が嫌い?鬱陶しく思ってる?親と仲が良いと友達にバカにされる?
でもね彼方、嫌いならどこが嫌いか、鬱陶しいのはどうしてか教えてくれないとパパ達には何もわからない。親だって間違う事はある。だからちゃんと伝えてほしい。それから、もし友達にバカにされるのなら、その友達は彼方が羨ましいだけだよ。自分が家族と上手くいってないのに、彼方が家族と仲良くしてたら羨ましいし、劣等感を感じるから、優位に立つ為に人を攻撃するんだ。』って。
それを聞いて僕の反抗期は終了しました。
僕の両親はいつも対等な立場で向き合い続けてくれました。僕が間違った事をすればちゃんと叱って、ダメな理由を、僕が理解するまで話してくれた。
よく子供を叱っている親を見ますが、『こら、やめなさい』とか『ダメでしょ』って言ってて、どうして止めないといけないのか、どうしてダメなのか理由を説明してる人はほとんど見たことがないんです。
どれだけ小さい子供でも、理解できないかもしれないけど、理由を教えてあげて欲しいです。子供が理解するまで、子供に寄り添ってあげてください。」
ありがとうございますと返事をもらい、次の人の質問に移る
『私が質問したいのは叶さんになんですが、よろしいでしょうか?』
女性の記者の方からの質問は、同席している叶さんにだった
どうぞと叶さんが言うと質問が始まった
『ありがとうございます。今回細井容疑者が捕まって安心されたと思うんですが、叶さんは相田さんが行方不明の時も、今までも、ずっと相田さんを事務所の方達と守っていらっしゃったと思います。
一番近くにいた叶さんは、今回の犯人達にどういった気持ちでいらっしゃいますか?』
「そうですね…彼方を迎えに行けた時、保護してくれたお爺さんから、彼方が夜になると魘され泣いている事を教えられました。自宅に連れて帰った日、それを目の当たりにしました。
魘されていても起きる事がなくて、ここまで彼方に傷をつけた細井を憎みました。
気丈に振る舞っていても、夜になると毎夜魘されて泣く彼方に、私ができる事は一緒に寝て抱き締めてやる事しかなかった。無力な自分にも苛立ちました。
捜査も進展しないので、自分で細井を探しに行きたいって何度も思いましたし、実際社長にも1・2カ月休みがほしいとも言いましたが、仕事の予定を変更する事はできなくて。
警察の捜査には疑問を抱いてはいましたが、まさか市民の味方であるはずの警察官が、捜査に圧力をかけているなんて思いもしませんでした。
昨日の特別番組を見て、真実を知って、彼方だけじゃない、事務所を辞めた子も、事務所の社長もどれ程傷つけられていたのか…本当に許せないです。
井戸端警視正は、彼方達だけじゃなく、彼が守り・正し・導かなければならなかった息子や警察官達を裏切った事をちゃんと理解してほしい。警察に対しても、数人の不祥事が、他の何万という警察官に影響し、市民からの信頼が無くなる事が、どういう事なのか理解し、信頼を取り戻すよう努力して欲しいと思います。」
本当にそうなんだ、警察は犯罪の抑止力なのに、その警察が犯罪を犯せば抑止力にならなくなる
そうなると犯罪が増えていくんだ
『あの、永倉社長にお尋ねします。細井容疑者達の犠牲により退社した人達の今後はどうなさるおつもりでしょうか?』
「私としましては、彼らがまだ役者をやりたいと思ってくれているなら、直ぐにでも戻って来てもらいたいと思っています。
私の力が足りないばかりに苦しい、辛い思いをさせてしまいました。
本来、守るべき者達に私は守られました。
あの頃は守ることができなかったけど、今は違います。私には、共に考え戦ってくれる、力強い仲間がいます。今後は必ず、何者からも守る。
こんな私の元で良ければ、また役者の道を歩いていって欲しいと思います。」
真摯な面持ちで永倉社長は答える
『戻って来てくれる子は、電話でも良いですし、直接事務所へ来ていただいても構いません。私も暫く事務所へ在中する事にしていますので、契約時不安な事等があれば相談に乗りますので、「役者がやりたい」その気持ちだけで十分です。一度辞めたからとか、また戻っても上手くできるかとか、そう言ったことは社長がどうにでもしてくれますので、何も気にせず戻って来てください。』
大野さんも援護射撃をしてくれた
記者の人達は、志野さんや頼さんにも質問を投げ掛け、約1時間半程の会見は終了した
会見の後、有志の代表から手紙が届いた
有志の皆も代表も会見を見てくれていたようで、自己満足の為の行動ではあったが、僕を救う一端になれた事が嬉しいと書かれていた
これからも陰ながら応援している事と、何があっても自分達は味方ですとも書かれていた
僕にとってこの手紙は宝物になった
そして、辞めていった子達は全員ではないが、また役者に復帰した
戻って来なかった子は、既に違う仕事をしていて、その仕事が楽しかったり、家庭を持っている為戻らない決断をした人もいた
永倉さんの人徳なのか、辞めた人全員から復帰するかしないか連絡が来た
直接事務所に来てくれた人もいて、その時永倉さんが号泣していた
事務所は人数も増え、ブランクがある彼らではあるが、やはり才能があって、メキメキと演技力が上がっている
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