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幸せのセデル村
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ゴフじいさんがうきうきと協議に臨んでいる横で私たちはお茶を飲みながら雑談していた。
カイル兄様は柔らかく微笑んだ青年──ミハイル様を首を捻りながら見つめている。
失礼だからやめてほしい。
「ミハイル様、体調はすっかり良くなられたようですね」
「ええ、我が家では代々体の弱いものが生まれやすく、そのためにあの石が必要なのです」
「そのような重要なことを」
ミハイル様の発言にヘンリー父様が戸惑う。
「ええ、よく知られていることですので。ですが、私は神の恩恵を賜ったのです」
ミハイル様の頬が赤くなりやや高揚する。
「永遠の慈愛の聖環、セラフィック・サークレット・オブ・エターナルグレイスをご存知でしょうか」
もちろん知っておりますとも!とは言わずに、私たちは無言でこくりとうなずくに留める。
「私は生まれた時より病弱で、常に頭の中で何かが音を立てているような不快感にさいなまれていました。
ですが、王都の教会で神は私に慈悲をくださいました。
教会に着いた途端、体に稲妻にうたれたようにしびれ、それまで私を蝕んでいた不快さが一気に消し飛んだのです。
その瞬間に、神は私にひらめきをお与えになりました。慈愛の精神を持って、この国を導いていくようにと」
ミハイル様は舞台役者のように、大げさな身振り手振りを交えて、いかに神が素晴らしいかをご高説くださった。
導くとか言っちゃってるけど、それは王家に対して大丈夫だろうか?
そしてわがアルステッド家みんなの心はひとつだ。
ーーそれ、リナの魔法だから!
なんとびっくり、あの王都の教会で魔法をぶつけてしまった傲慢お貴族様がミハイル様だったとは!
私たちはぱちぱちと瞬きを繰り返した。
今はあの時の虚ろな表情も錯乱もすっかり影を潜め、どこか気品すら漂わせている。
私ったら、いいことしたね!
…ミハイル様が賜ったと言ってるひらめきは気のせいだと思うけどね。
「神のお導きのおかげで思考の霞が晴れ、物事を効率的に考えられるようになったのです」
なるほど、ミハイル様は脳のどこかに機能障害があって、それが私の魔法で治ったってことか。
性格がよくなる魔法じゃなかったのね。
ミハイル様の笑顔は、かつての混乱した青年ではなく新しい当主として期待できるものだった。
それからのセデル村の暮らしは、表向きはほとんど変わらない。
けれど、その裏側では――密やかな変化が生まれている。
ゴフじいさんが国中から壊れた道具を収集し、リナの魔法で直されて村の便利になりエルダ草はしっかり育っている。
そして、もうひとつ。
セデル村の外では誰も知らない、小さな秘密の扉が開き始めていた。
――それは、貴族令嬢や貴婦人たちのお忍び訪問。
「内緒でございますが……例の化粧水また分けていただけますか……?」
「最近お肌の調子が……あれを使うと本当に違うのでして……」
「王都の薬師より効くって、ある方がおっしゃってて……!」
そんな声とともに、馬車がコソコソと村外れに止まり、顔を隠した令嬢や婦人が訪れることもしばしば。
もちろんお目当てはマシマシスペシャルポーション!
製造方法――つまり私の魔法は家族以外には秘密のまま。
効果の理由については薬草も新鮮フレッシュな状態が最も効果的ってことにしている。
美肌を独り占めしたい彼女たちはセデル村の噂を外に漏らさないけれど,どこからかひっそりと広がっていくものだ。
外から見れば、セデル村は相変わらず“ぱっとしない貧乏村”に見える。
けれど――その実態は、壊れた魔道具が息を吹き返し、エルダ草が香り、ひそかに高貴な客が行き交う、不思議で豊かな村なのだ。
国の片隅にあるこの小さなセデル村が、実は国で一番幸せな場所だと、私は思う。
カイル兄様は柔らかく微笑んだ青年──ミハイル様を首を捻りながら見つめている。
失礼だからやめてほしい。
「ミハイル様、体調はすっかり良くなられたようですね」
「ええ、我が家では代々体の弱いものが生まれやすく、そのためにあの石が必要なのです」
「そのような重要なことを」
ミハイル様の発言にヘンリー父様が戸惑う。
「ええ、よく知られていることですので。ですが、私は神の恩恵を賜ったのです」
ミハイル様の頬が赤くなりやや高揚する。
「永遠の慈愛の聖環、セラフィック・サークレット・オブ・エターナルグレイスをご存知でしょうか」
もちろん知っておりますとも!とは言わずに、私たちは無言でこくりとうなずくに留める。
「私は生まれた時より病弱で、常に頭の中で何かが音を立てているような不快感にさいなまれていました。
ですが、王都の教会で神は私に慈悲をくださいました。
教会に着いた途端、体に稲妻にうたれたようにしびれ、それまで私を蝕んでいた不快さが一気に消し飛んだのです。
その瞬間に、神は私にひらめきをお与えになりました。慈愛の精神を持って、この国を導いていくようにと」
ミハイル様は舞台役者のように、大げさな身振り手振りを交えて、いかに神が素晴らしいかをご高説くださった。
導くとか言っちゃってるけど、それは王家に対して大丈夫だろうか?
そしてわがアルステッド家みんなの心はひとつだ。
ーーそれ、リナの魔法だから!
なんとびっくり、あの王都の教会で魔法をぶつけてしまった傲慢お貴族様がミハイル様だったとは!
私たちはぱちぱちと瞬きを繰り返した。
今はあの時の虚ろな表情も錯乱もすっかり影を潜め、どこか気品すら漂わせている。
私ったら、いいことしたね!
…ミハイル様が賜ったと言ってるひらめきは気のせいだと思うけどね。
「神のお導きのおかげで思考の霞が晴れ、物事を効率的に考えられるようになったのです」
なるほど、ミハイル様は脳のどこかに機能障害があって、それが私の魔法で治ったってことか。
性格がよくなる魔法じゃなかったのね。
ミハイル様の笑顔は、かつての混乱した青年ではなく新しい当主として期待できるものだった。
それからのセデル村の暮らしは、表向きはほとんど変わらない。
けれど、その裏側では――密やかな変化が生まれている。
ゴフじいさんが国中から壊れた道具を収集し、リナの魔法で直されて村の便利になりエルダ草はしっかり育っている。
そして、もうひとつ。
セデル村の外では誰も知らない、小さな秘密の扉が開き始めていた。
――それは、貴族令嬢や貴婦人たちのお忍び訪問。
「内緒でございますが……例の化粧水また分けていただけますか……?」
「最近お肌の調子が……あれを使うと本当に違うのでして……」
「王都の薬師より効くって、ある方がおっしゃってて……!」
そんな声とともに、馬車がコソコソと村外れに止まり、顔を隠した令嬢や婦人が訪れることもしばしば。
もちろんお目当てはマシマシスペシャルポーション!
製造方法――つまり私の魔法は家族以外には秘密のまま。
効果の理由については薬草も新鮮フレッシュな状態が最も効果的ってことにしている。
美肌を独り占めしたい彼女たちはセデル村の噂を外に漏らさないけれど,どこからかひっそりと広がっていくものだ。
外から見れば、セデル村は相変わらず“ぱっとしない貧乏村”に見える。
けれど――その実態は、壊れた魔道具が息を吹き返し、エルダ草が香り、ひそかに高貴な客が行き交う、不思議で豊かな村なのだ。
国の片隅にあるこの小さなセデル村が、実は国で一番幸せな場所だと、私は思う。
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