宇宙海賊カーチェス・ナイト

伊東 馨

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マダム・マリエールの遺産

第4章 やっと宇宙海賊らしくなってきたぞ! 4

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 ブリッジの席に腰掛けて、俺はメインスクリーンを見上げていた。
 暗黒の宇宙に、星々が漂う様はそれは美しいものだ。
 近く──と言っても、ゆうに二十パルガスは離れた距離だが──を、小惑星が通り過ぎていった。
「静かだな……」
 俺は小さく呟き、続いてタナトスに指示を出した。
『宇宙船の識別信号カットします。
 今から船を海賊専用航路へ転移し、姿を隠します。
 向こうのレーダーには何も映らなくなりますが、こちらからも目標船の位置を確認することができなくなります。
 予測計算航路のデータにのみ頼りますので、万が一ミスが生じたときには、両船とも爆発する危険がありますが』
「計算ミスをしなきゃいいんだろ? お前とソーニャの演算能力にかかってるんだぜ。しっかりやれよ!」
『……なんだか泣けてきますね……』
 タナトスは情けなさそうにそう言った。
『あ、目標が遠距離レーダーの視界に入りました。船を転移します』
 スクリーンの画像が揺らいだ。完全にブラックアウトする。
 同じ空間とはいえ、次元軸の異なる空間へ転移すると、視界は全くきかなくなる。
 我々が視認している星の瞬きは、本来存在している次元軸上にしか存在していないのだ。
 わかりやすく言うとだな。
 物理的な存在は、物質界にしか存在していないってことだ。一方、精神は精神界に属していて、物質界には存在していない。
 これが次元軸の基本的な考え方だ。
 だが両者とも密接に関わっている。
 普通、精神は物質に依存することで存在している。また物質は、精神とのつながりがないと存在できない、表裏一体の関係だ。
 理由は、両者とも存在する次元軸は違うのだが、同じ空間軸に属しているからである。
 空間軸とはこの場合──そのへんは、興味がある奴は自分で調べろ。
 ──とにかくだな。
 精神界(便宜上こう呼んでいるだけであって、本当は次元軸のひとつだ)からは、物質界に存在している物質を見ることが出来ないし、逆も同様だ。
 ただし、ここでいう次元軸とは、2次元とか3次元とかいう次元概念とは別のものだから、そこらへん間違えないように。宇宙理論はややこしいのだ。
 次元軸は無数にある。
 だから物質界で、次元軸の座標を横へ転移させれば、ぱっと見、見えなくなるとうわけだ。
 これが、宇宙船の亜光速航行の航路として使われる公道や、専用航路なわけだな。──あ、ここは前にも説明したか。
 ……って、全然理解できん? そんなことじゃ、宇宙海賊にはなれないぞ。
 こういう知識が無くたって、宇宙船を動かすことはできるが、いざというとき──船の電脳が故障したときとか、連邦のスペース・パトロールから逃げるときとか──に役に立つもんなんだから。
 原理を知ってると、応用がきくっていういい例だな。
 ということで、タナトスとソーニャが二人がかりで計算した、目標船の航路データの最終チェックをした。
「もうじき、軍艦が俺達の現在位置とちょうど同じ座標の、別の次元軸上を通過する。
 そこが狙い目だ。タイミングをうまく計って、元の次元軸へ船を復帰させろよ! 
 そうしたら俺とトーマとで、軍艦へ乗り込む」
『失敗したら、同軸次元接触事故でドカン! ですから、私も必死になってやります』
「船を出現させたら、軍艦に通信を入れる。
 回線を繋いでいる間に、タナトスは船内地図のデータとシュタイナーの現在位置を、割り出せ。時間はあまりないぞ!」
『重要任務ですねぇ』
「それが終わったら、俺達が向こうの船に乗り込んで、シュタイナーを迎えに行くから、その間は──」
 俺は首を巡らせ、ソーニャを見た。
「お前が船の操縦をしろ。
 タナトスは、当然軍艦からあるだろう攻撃を回避するのに、全力を傾けなきゃいけなくなるから、その間は、お前の腕だけが頼りだぜ」
 ソーニャのおとなしそうな顔が、さっと引き締まった。
「商船に乗ってる人形なら、補助脳として軌道計算くらいをやってればいいだろうが、俺の船に乗った以上は、それ以上の働きをしてもらう。
 俺達が船に戻るときには、船の座標を最低でも一分は固定しておかないといけない。
 だからお前は、船の座標軸を常時俺達に発信しながら、予定時間までは自由に逃げろ」
 少々頼りない気もするが、仕方ない。この船の人員はこれだけしかないのだ。
 キャプテンなら、仲間を信じて命を預けて見せろ。仲間を信頼できないような奴に、キャプテンを名乗る資格はない。
「わかりました」
 ソーニャが青い顔で頷いた。なかなかどうして。船の操縦なんて生まれて始めての経験のはずなのに、肝が据わった人形だ。 
『最後に船の位置を固定させておくっていうのが、一番難しいですね。集中放火を浴びてしまいます。狙って下さいって、言っているようなものですからねぇ』
「こればっかりは仕方無いな。トーマが空間転移の魔法を使うために、必要な時間だ」
「船に戻る予定時間はどのくらいにしますか?」
 ソーニャがそう言って、俺は腕を組んだ。
「そうだな……。こういうのは迅速な行動が肝心だからな。
 けど、トラブルがある可能性もあるし──。突入後十五分、かな」
『了解。電池が切れかけた時計は、使わないで下さいね』
「誰がだ! お前じゃあるまいし」
「襲撃目標の船が近づいて来ました」
 機関士席に座っていたトーマが振り向いて、知らせてきた。
『三十秒後にスライドアウト。第一次接触です』
「よし! 全員配置に付け。作戦開始だ!」
 そう言って俺は立ち上がり、ブリッジの扉の前に──丁度、メインスクリーンを正面から見る位置に──行った。
 トーマも立ち上がり、俺から少し離れた位置で待機する。
 タナトスがスライドアウトのカウントを始め、再び、メインスクリーンに画像が現れた。

 俺達の船の真横に、巨大な船影が現れた。

 だが軍艦の位置が予定よりも近すぎる!
 俺はぎょっとして叫んだ。
「近すぎる! 船外シールドに接触するぞ!」
『相手との距離二二パルガス! 回避しますっ!』
 タナトスが声を上げると同時に、船体が斜めに傾いた。
 お互いの船のシールドが接触して、青白い電気の火花を散らしながら、ゆっくりとすれ違う。
 すれ違うといっても、向こうの軍艦は、俺の船の三十倍以上の大きさだ。
 蚊でも噛んだくらいにしか感じないだろうが、こっちはたまったもんじゃない。
「誰が計算ミスをしたんだっ?
 ちくしょう、今はそんなことを言っている暇はない。
 今のでこちらの存在を向こうに気付かれたぞ。すぐに通信回線を繋げ!」
 亜光速航行時に船に張る防御壁は、船体から二十パルガスの位置に、張り巡らせる。
 俺達は本当に、ぎりぎりのところですれ違ったのだった。
『回線ジャックしました! スクリーンに映像が開きます!』
 タナトスが叫んだ。
 次の瞬間、メインスクリーンには、向こうの軍艦のブリッジの光景が、映し出された。
 画面の向こうの全員が唖然として、こちらを向いていた。
「俺は宇宙海賊のカーチェス・ナイトだ。
 この名前の宇宙海賊は、掃いて捨てる程いるが、連邦の軍艦を襲撃しようって奴は、そうはいないってことくらい、理解できるよな?
 その船の積荷は俺様がいただく。
 無駄な抵抗をしなければ、命まではとらないけど、抵抗するとどうなるかの、保証はしないぜ」
 画面の中の艦長が呆然とこちらを見上げながら、数秒間の沈黙があった。
 次に、彼は大きく息を吸い込み、顔を引き吊らせて口を開いた。
「何をとぼけたことを……。そんな小さな船でこの船を襲おうなど、自殺行為というほかあるまい。お前達など──」
『キャプテン・カーチェス。ハック終了です。端末にデータをダウンロードしました』
 タナトスが小声で言ってきた。
 俺は右手を軽く挙げて仲間に合図し、再び正面に向き直った。
「その言葉は、そっくりそのままお返しすることにしよう」
 そう手短に言って、一方的に通信を切る。
 どうせ、「お前達など──」の言葉の続きは分かっている。
 たぶん、お前達など、分子分解砲を一発あびれば、おしまいではないか……とこう言うつもりだったに違いない。
 確かに、あの砲撃を食らえば、一発でオダブツさ。
 けどそれは当たればの話だ。
 それにあの武器は、強力であるがゆえに、使用について法律で制限が加えられている。宇宙海賊に法律を守る義務はないが、連邦軍にはあるだろう。
 俺はサングラスをかけ、銃を持った。
 サングラスはこの間も使った、暗闇でも物が見える、あのスグレモノである。
 今回は、タナトスがこれに船内地図のデータを、ダウンロードしてくれたので、シュタイナーのいる位置まで、ナビゲートしてくれるようになっている。
 ホント。文明の利器って便利。
「カーチェス。船に乗り込みます」
 返事を返して、俺はトーマの側へ駆け寄った。
 トーマが創り出した、魔法円が輝いて俺達を包み込んでいく。
 そして──。

 次の瞬間、俺達は連邦軍の船の中にいた。




 俺はサングラスに手をやって、ナビゲーションシステムのスイッチを入れた。
 シュタイナーのいる位置からは、そんなに離れていない。
 うまく行けば、予定通り十五分で、彼を連れていくことができそうだ。
「右だ」
 俺は先導するために、そちらを指差して駆け出した。
 船の中は広く、軍艦だから艦内での白兵戦を想定して、作りが複雑になっている。
 あらかじめ地図がなければ、シュタイナーを探し出すのは非常に困難だ。
 艦内に緊急警報が鳴り響き、レーザー砲の発射音がそれに続いた。
 タナトスへの攻撃が始まったらしい。
「うまく逃げてくれよ」
 俺は呟き、走り続けた。
 角を曲がろうとした途端、トーマが後ろから俺の腕を引いた。
 トーマの手に握られた、パワーソードのスイッチが入った。光が揺らぎ、オレンジライトの残像を残して薙ぎ上げられる。
 剣と剣が交差する音が鳴り響いた。
 俺のほうは、何が何だかさっぱりわからない。
 いや。分かった。
 曲がり角の向こうから、深緑のマントを身につけた男が、パワーソードを手に現れたのだった。
 この船にはグリーン・マジシャンが乗っていたのだ!
 グリーン・マジシャンが驚きの目でトーマを見つめた。
 何度も言うが、海賊のときは、トーマはマント姿じゃない。
 さすがに今はバトルスーツを着ているが、マジシャン規定のものではなかった。奴が驚くのも無理はない。
 だがさすがに相手もマジシャンだけあって、対応は素早かった。
 すぐに剣を振り上げ、打ち込んでくる。
「わっ、うわ!」
 と叫び声をあげて思わず避ける俺。
 トーマが俺を庇うようにして前に出て、グリーン─マジシャンと剣を交わした。
「先へ行ってくださいカーチェス。ここは私が押さえます」
 トーマの声にはじかれ、俺は駆け出した。
 言っておくが、決して仲間を見捨てるつもりがあるわけではない。
 マジシャン同士の戦いでは、俺がいたのでは、かえってトーマにとってハンデとなる。
 深緑のマントが閃いた。俺に向かって。
 再び、剣が重なり合う音が響いた。
「おのれ……!」
 グリーン・マジシャンが歯痒そうに言い、俺と奴との両者を分けるように間に立つトーマに、憎しみの目を向けた。
「あなたの相手は私です」
「こざかしい──」
 短いやりとり。
 船の中ではトーマも魔法が使えまい。
 マジシャン同士が、異なるランクのマジシャンと戦う場合、低いランクの者が上のランクの者に魔法で勝つことは、ほぼ不可能だという話を、以前トーマから聞いたことがある。魔法を扱う才能の差には、勝てないのだと。
 そんなとき、低いランクの者が勝つためには、剣による攻撃で相手に魔法を使わせる隙を与えず、倒してしまうしかないのだそうだ。
 いまが丁度その場面に当てはまった。
 もっとも、マント姿でないトーマが、どのランクのマジシャンであるのか、奴には分からないだろうが。
 俺は走り出した。
 後ろを振り返らず、サングラスに映し出されるナビゲートにしたがって、全力で。
 後ろで、再び彼らの戦いが始まった。
 幾つか角を曲がると、すぐに艦内の兵士と正面から、でくわしてしまった。
「貴様何者──」
 などとそいつが言っている間に、俺は銃を両手で持ってふりかぶり、思い切り相手を殴りつけた。
 短く呻いて、男が倒れる。
 緊急警報が鳴り響いた。艦内のセキュリティシステムの機械音声が、無機質な声でがなりたてる。
『艦内に侵入者あり。艦内に侵入者あり。現在値は第三層DブロックF-六地点。繰り返す──』
 俺は慌てて顔を上げた。
 まだ残りの兵士がいたのだ。俺の視界に、通信用端末機に向かって怒鳴っている兵士の姿がうつった。
 俺達の視線がぶつかる。兵士はぎょとしたように、腰の銃へ手を伸ばした。
 俺はそのままの体制で、そいつに向かって駆け出し、銃の台尻を使って、首筋に打ちつけた。
 兵士がドッと倒れ込む。
 ここで断っておくが、間違っても、回し蹴りなんかくらわしては、いけない。
 何しろ俺はどこも機械化していない、生体率100%の生身の体なのだ。
 一方、軍人に限らず大抵の奴は、大なり小なりサイボーグ化している。
 回し蹴りなんかして、そこが機械でできた部分だったら、痛ってー! と叫んで済ませられるモンではない。
 運が悪ければ骨が折れて、すごく情けない。
 俺が発砲しない理由は簡単だ。
 相手を殺してしまうと、殺人犯として、指命手配をくらうことになるからだ。
 窃盗犯だけで済ませたほうが、やっぱりいいよな。
 気の小さい宇宙海賊だと言う奴もいるかもしれないが、軍の目が光ってるところでは、あまり目立つことは、しないに越したことはない。
 なにしろ俺の首には、既に相当の賞金がかかっている。
 これ以上金額が上がったらたまらん。
 そんなわけで俺は駆け出した。見つかった以上、すぐに追っ手がかかるはずだ。
 めざすはひたすら、シュタイナーのいる部屋へ!
「だーっ! 俺は宇宙海賊だから、宇宙船同士のカーチェイスは得意だけど、船内でこういう状況はお断りなんだよっ!」
 自分で自分に向かって叫びつつ走った。
    警報が鳴り響く中、とにかくひたすら走りまくって、いくつも角を曲がり、エレベーターを奪取した。ナビゲーションの通りなら、あと少しでシュタイナーの部屋だ。
 

 エレベーターを飛び出すと、突き当りの廊下の影から機械が数体転がりでた。
 骨格の塊のようなそれが滑らかな動きで広がる。──コンバット・ユニットだ。
 コンバット・モードへの移行と同時に磁場フィールドを自身の周囲に展開。光学兵器の攻撃に備える。ただし、実弾は有効。
 俺はコンバット・ユニットに向かってまっすぐに突っ込んだ。
 フィールドを展開し武器を構えるごく僅かな間にオンにした小さなチップを投げる。高周波の音が耳に届く。
 走りながら銃の引き金を引いた。
 微かに青白く空間を歪ませる磁場フィールドが消失し、着弾。別の高周波の音が重なり、コンバット・ユニットが崩れるようにして起動停止する。
 爆発したり粉砕したりの派手さはないが、コンバット・ユニットには有効な特殊弾だ。特殊磁場で駆動系の動力やAIを破壊する。
 コンバット・ユニットの傍を走りすぎる時に、チップを拾い上げる。イッツ、エコライフ! リユース・リデュース・リサイクルだ。
「んげ!」
 レーザー光線が俺の脇を通り過ぎた。廊下の向こうに新手のコンバット・ユニットが現れた。
 宇宙船の中で光学兵器なんて使うのは厳禁って気がするが、出力を自在に調整できるって点で実弾より優れている。
 人間の皮膚なんて柔らかいもんだ。人間を貫通する程度の威力にしてもいいし、もっと出力を下げて、動きを止めるだけでもいい。
 連邦軍ったって、戦争じゃないんだから、船内で殺人は行わないはずだ……一応……たぶん。
 俺は慌てて曲がり角に身を隠した。
 応戦しようにも距離がある。もう少し奴らが近づくのを待ちたいところだが──AIの性能がなかなかいい。近づいてこないで掃射だけしてくる。これじゃあ、さっきと同じ手が使えない。
 サングラスの時間表示に目をやった。
 船内突入から7分経過。
 結構経ってる。予定時間まで残り8分だ。
 シュタイナーの部屋まで残り3分は走らなきゃならないし、トーマが魔法を使うのに1分、シュタイナーを目覚めさせるのに数分はかかるだろう。こんなところで足止めを食ってる時間はない。
「間に合うか……?」
 向こうの廊下に頭を出すと、コンバット・ユニット数体と兵士数人がこっちに走りこんでくるのが目に入った。連中が銃を構え、ユニットが銃を発砲する。
 コンバット・ユニットの射撃は正確無比だ。慌てて頭を引っ込めると、レーザー光が幾つも糸を引くように目前を通り過ぎた。
 頭の中でカウントをとって、磁場フィールド中和装置のチップを投げ込んだ。続く高周波音。
 俺は銃のグリップを握り直して廊下に飛び出した。
 続けざまに2発。
 上半身を落とし、そのまま駆け込む。振り上げた腕を水平に回し、銃のグリップで兵士の首を叩き上げ、続くもう一人の腹を蹴る。構えた銃が天上を打ち、体制を崩して倒れこんだ。
 さらに続く兵士の姿。こりゃ無理やりの突破は難しそうだ。……失敗したかな。
 冷や汗を流す俺の脇を、一陣の風が過ぎた。
 パワーソードが空を裂く音が聞こえて、分断されたコンバット・ユニットや兵士達が床に落ちる。
 きき足を軸に回転するように剣を振った姿勢のまま、ゆっくりと動きを止めたのはトーマだ。マジシャンの動きは寸分の無駄もなく、よって優雅だ。
「行きましょう。カーチェス」
 奴の顔はいつもどおり頬の筋肉一つ動かず、声は涼しげだが足元には累々たる……。 
 俺はどう答えたものが迷って苦笑した。
「どうしました?」
 トーマは平然とした顔で息もあがっていない。着衣も乱れはない。
「いや」
 こりゃ、さっきのグリーン・マジシャンも足元の残骸と同類項だな。お気の毒。
「行こう」言って、俺は走り出した。
「あと少しでシュタイナーの部屋だ」 


 目的の部屋の前で俺は銃を構え、ドアのロックパネルへ向けて発砲した。
 レーザーが命中し、ロックがはずれて扉が開く。
 ドアが開くと同時に、部屋の中へ飛び込む。
 そのほんの一瞬の間に、中にいる人間の数と位置を把握する。
 中には二人。志織と、あの添乗員だ。
 こいつのデータならある。機械化率七十%。胴体の殆どが機械製。
 俺は銃口を男に向けた。
 奴が驚きの声をあげ、部屋の中央に固定してある機械の箱に飛び付いた。
「げっ! そんなとこにひっつくなよ! 撃てないじゃないかっ!」
「お、お前はあの運び屋! この荷物を狙って来たのか!」
 男はいっそう強くしがみつき、悲鳴をあげた。
「これはそんな価値のあるものなんかじゃないぞ! お前のようなゴロツキが手にいれて使えるようなものじゃない!
 志織! 何をやっているんだっ。さっさとこいつを捕まえろっ」
 そういや彼女は、戦闘用として開発したと、トーマが言っていたっけ。
 志織はちらりと男に目をやり、ついで俺を正面から見据えた。
 愛らしい顔はそのままだったが、彼女の表情から、疑似的に植え付けられた人格が消えて、ハケで掃いたように無表情になった。ぞっとするほど不気味だ。
「さあ! 早くしろ!」
 男が叫んだ。志織は無感動な目で男を見、「分かりました」と答えた。
 げ、マジ?
 この間は協力するとか、言ってくれたじゃんか。
 俺に続いてトーマが入ってきた。全員の視線が、そちらへ集中する。
「トーマ。……さっきのマジシャンは?」
 気になってやっぱり聞いた。
「首を切り落とすだけにしておきました」
 げ。
 顔をしかめる俺に気付いて、トーマが言葉を付け足した。
「大丈夫です。ここは連邦軍の船の中ですから、すぐに発見されて治療して貰えます。一時間程度なら脳も生きていますし」
「船の中で治療できるとは限らないんじゃ……」
「脳だけ冷凍保存して、連邦領へ持って帰るんです」
 げげ。さいですか。
 思わず硬直する俺をトーマは無視して、志織に目をやった。
「やめなさい。殺してはいけません」
 トーマはそう言った。だが、彼女は既に動いていた。
 悲鳴が上がった。苦痛に満ちた声は、結構長く響いた。
「あら。痛みなんか感じないんですから、悲鳴なんてあげる必要はないでしょうに」
 彼女はいつもの通りに陽気で、可愛らしい声でそう言った。
「ほら、ね。ちゃんと殺しませんでしたよ。先生」
 志織は振り向いて、にっこりと微笑んだ。
 機械の手足をねじ曲げられて、床に転がりわめいているのは、シュタイナーの箱にしがみついてわめいていた男だった。
「どういうつもりだ、志織?」
 自分の理解できない状況に、男はパニックをおこしていた。
「人形が人間に逆らうなんてありえない!」
「あらあら。それは違いますわ」
 志織は両手を頬に添えて、あどけないほほ笑みを漏らした。
「人形は、ご主人様以外の方の命令に従う義務はありません。任意で行うだけですわ」
 男の顔が引き吊った。
 大きな機械の箱を、床に固定していた器具を俺が外すと、男は再び叫び出した。
「それはお前が思っているようなものじゃないって、言っているだろうっ!」
 俺は振り返った。
「俺がこれをどんなものだと思っていると、あんたは考えているんだ? たとえば魅惑の花だとか、最新型の、マニアが飛び付きそうなコンピュータだとか?」
 そう言って軽く笑い、
「俺にとっちゃ、そんなものは宝物とは言えないな。けど、この箱の中身は価値があるもんだ。俺はちゃんと正体も知ってるぜ。連邦一優秀な機械工学の博士が眠っている──違うかい?」
「なっ、なぜそれを? 志織が喋ったのか?」
 俺は首を振った。
「人形や機械が融通のきかない性格してるのは、あんたも知ってるはずだろ?」
「カーチェス」
 トーマが会話を遮り、俺は頷いた。
 向こうから足音が近づいてくる。
 目的も果たしたことだし、そろそろ潮時だった。
 時計に目をやると、ちょうど十五分経っていた。ソーニャから、船の現在位置を知らせる発信音は、今も出ている。
 座標のデータが、サングラスの画面に映し出されていく。
 刻一刻と変化し続けていたそれが、一定の座標軸に固定された。
 トーマに目配せすると、彼が頷いた。
「三十秒敵を押さえておいて下さい。その間にシュタイナー博士を目覚めさせます」
「そんなに急激に覚醒させたら、マスターの体が耐え切れません!」
「私を信じてください。志織」
 志織はしばし迷ったようだったが、すぐにしっかりと頷いた。
 連邦広しと言えども、これほど説得力のある言葉も少なかろう。
 俺はドアに向かい、壁に背中を押しつけて、外に向かって銃を撃ち始めた。
「三十秒だからな!」
「はい」
「私も手伝います!」
 俺の隣に志織がやってきて、この部屋の扉を境に、内と外とで、攻防戦が始まった。
 視界の隅に、トーマが機械の蓋を開け、シュタイナーを培養液から取り出そうとしている様子が伺えた。
 戦いは激しいものだったが、それもトーマのかけ声で終わった。
「準備ができましたカーチェス」
 声を合図に、俺は振り返り、機械の中で起きあがっているシュタイナーの元に、駆け寄った。
 冬眠状態から急激に覚醒したため、何が起こっているのか理解できずに、呆然としているシュタイナーに声をかける。
「俺が分かるか? シュタイナー!」
 シュタイナーは髪の先から保存液を滴らせながら──まさに水も滴る佳い男だ──、顔を上げ、俺を見た。
 しばし呆然と……次いで、驚きのまなざしで。
「カーチェス!」
「動けるか?」
「あ、ああ?」
 俺の言葉にはじかれるように、シュタイナーは体を動かそうとした。だが、あまりに無理な目覚めさせ方をした為、体がすぐに思うように動かせない。
「私がやります!」
 最後まで扉のところに残って、兵士と攻防を続けていた志織が飛び込んできて、シュタイナーを軽々と抱え上げた。
 トーマが魔法の呪文を唱え、魔法円を描き出した。
 兵士達が部屋の中に突入してきた。兵士達が銃を構え、次々に引き金を引く。
「トーマの側に寄れ!」
 俺は叫んで、魔法円に向かって飛び込んだ。
 光が俺達を押し包み、すべてが真っ白になった。

 そして──。

『ああ、良かった。なんとか間にあったんですね! もうこれ以上、防御壁が持ちこたえられないところでしたよ!』
 俺の耳にタナトスの甲高い声が届いた。

 空間転移は無事終了し、俺達は自分の船の中にいた。
『座標固定時間ジャスト一分! 本当に間にあって良かったです』
 船が動き始めた後に俺達が転移すると、宇宙空間の中に放り出されてしまうことになっていた。
『メインエンジン点火! 回避行動をとります』
 タナトスが叫ぶと、船が全速力で動き始めた。
 俺は急いで席について叫んだ。
「全員席についてシートベルトを締めろ! タナトス、俺に操縦システムをまわせ!」
『手動操縦ですか? 自動操縦で、ワープして逃げるのではないのですか?』
「馬鹿野郎!! ワープじゃすぐに開放座標を調べられて、追いつかれちまうだろ!
 いいから俺に、操縦システムをよこせ!」
 そう怒鳴り声を上げると、俺の席の目の前の操縦パネルに、グリーンランプがついた。「よし。素直が一番だぜ、タナトス!」
 俺は操作パネルを素早く叩きながら機械を調整し、エンジンを直接制御している電脳に向かって指示を出した。
「超高速粒子利用機関点火。三秒で70ユーゴまで加速しろ! 防御壁は今より三%強度を増やせ!」
『通常空間で亜光速航行? 無茶です!』
 タナトスはそう叫んだが、俺は一喝した。
 どうせ操縦システムは俺が握っているのだ。今更幾ら叫んでも無駄だ。

 一気に体に重力がかかった。

 メインスクリーンの中で、星々の瞬きが糸のように流れた。
 内蔵が押し出されるような、猛烈な吐き気が襲ってきた。
 だが生半可な逃げ方では、連邦軍の軍艦からの追撃を、かわすことなどできない。
 とはいえ、防御壁がない状態でこんなことしたら、生身の体は、もののみごとに潰れてしまうだろう。
 急激な加速重力に耐えながら、俺はさらに命令した。
「十秒後に、海賊航路へスライドインするぞ。ソーニャ、座標計算を急げ」
「亜光速航行をしながら、私道へ転移だって? 本気かっ?」
 いまやすっかり目を覚ましたらしい、シュタイナーが目を丸くしながら、椅子にしがみついている。
 目を覚ましたというか、目を回したというか。どちらが正解だろうか。
 このブリッジには椅子が三つしかないから、彼と志織は座るところがなくて、こうしているしかないのだった。
「本気も本気、大本気だぜ!」
 俺は明るい声でそう言って、操作パネルを叩き、機関システムを直接制御した。
『ひいいぃぃっ。もう気を失いそうですぅー!』
 船内で警告ブザーが鳴り、スクリーンが一気にブラックアウトする。
 そして、船は本来の亜光速航行状態に入った。


 しばし短い沈黙が船を覆い、俺は小さく息を吐き出した。

 だがまだやることが残っている。安心はできない。
「この次元軸は、俺が宇宙海賊用に独自に持ってるやつだから、連邦には登録されていないんで、連中には追ってきたくても無理だろうけど……念には念を入れた方がいいからな。
 タナトス! ほら、操縦システムはお前に返してやるから、こっからさらに別の次元軸へ転移してくれ。ソーニャは次のスライドアウトの座標軸を計算しろ」
『こっからさらに……って、普通は次元軸の移動は、通常空間に戻ってからでなければ──って、あなたにこれ以上何を言っても、無駄ですかね』
「よく分かってるじゃないか。お前の言いたいこともわかるさ。安全性の問題があるって言うんだろ?」
『そのとおりです。キャプテン・カーチェスの今の操縦はどれをとっても、連邦の宇宙船航行安全基準を、無視したものです』
「けどな、タナトス。連邦法をまともに守っているような宇宙船乗りじゃ、宇宙海賊なんてやってないさ。それにここまでやっても、この船壊れなかっただろう? そろそろこの船の優秀さを自覚しても、いいんじゃないか?」
 俺はそう言ってウインクした。
 トーマがいつもと変わらぬ鉄のごときクールさでさりげなく付け加えた。
「私がカーチェスのもとに来てから約百年ですが、その間に十台の宇宙船を買い替えています。ただし、そのうちの四船はこういうことをした途端、宇宙空間で空中分解しています」
 約十年に1台の割合で、宇宙船を使い潰している計算になる。
 普通、宇宙船の寿命は百年くらいある。
 タナトスは嫌味ったらしく、三十秒近くも絶句した挙げ句、
『私……私は……生まれて始めて、何て言ったらいいのか、もう──言う言葉も見つかりませんよ』
 と、言い、その上でキャプテン・カーチェス自らのお褒めにあずかり光栄ですぅ……と小さく付け足した。
「キャプテン・カーチェス。移動距離の計算を済ませました」
 ソーニャが可憐な声でそう言って、振り返った。
 俺はタナトスにもう一度、次元軸移動を行うように指示を出した後、ソーニャに向かって笑いかけた。
「お前も良くやったな! 俺達が軍艦に乗り込んでいる間、この船を無傷で守り通してくれたんだもんな」
 ソーニャが控えめに赤くなった。
『いいですねぇ。ソーニャは褒めて貰えて。私にはなしですか?』
「お前はさっき褒めただろ? なかなか優秀な船だって」
『きゃっ! 光栄ですぅ』
 ………。ブッてるんじゃねー。気持ち悪い。
 俺は振り返って、シュタイナーの側へ行った。
「気分はどうだ? 無理矢理起しちまったから、最高とは言えないかもしれないが」
 シュタイナーは、ブラウンがかったクリーム色の濡れた髪をかきあげ、微笑んだ。
「気分だって? 最高さ。最高に決まっているよ!」
 そう言って立ち上がると、俺をしっかりと抱きしめた。
「こんなにエキサイティングな経験は初めてだ! 船の中で、目を覚ましたばかりの私に、君が手を差し出したとき、私がどんなに凄いショックを受けたか分かるかい?」
「いいや。分からんね。ぜひとも説明して欲しい」
 俺はにやりと笑った。
「超高速粒子利用機関を開発したときの、何十倍も嬉しかったんだ! 私は本当に自由を手にいれたんだってね!」
「はっはー。けど、いちおうお前は、宇宙海賊に誘拐されたことになってるんだぜ。これからはビシバシ働いて、タナトスを連邦一速い船にしてくれよ」
「最高だ! 自分の趣味の為だけに船を作れるなんて!」
 シュタイナーは嬉しそうに目を輝かせた。
 彼の横で志織がにこやかに微笑んでいる。
「もちろん立派な宇宙海賊になるつもりだ」
 いや。立派な宇宙海賊っていう言葉は、少し変なんじゃ……。
「それでは、転職祝いにこれを博士にプレゼントいたしましょう」
 トーマがやってきて、シュタイナーの手に小さな金属製の箱を置いた。
「これは?」
 シュタイナーは、五センチ四方程度の、小さな立方体に目を落とした。
「あなたのオリジナルの冷凍保存細胞です」
「へ? なんでそんなもんをお前が持っているんだ?」
 俺の問いに、トーマは平然として答えを返してきた。
「連邦政府本部の医療保存塔へ行って、この間盗んできました」
 おうぃ?
 俺もしこたま驚いたが、シュタイナーはそれ以上に驚いたらしかった。
 目を丸くして、手の中の箱を凝視する。
「これ、冷凍保存になっているのかい?」
「そうですね。解凍後、空気中に一時間も放置していれば、腐ってしまいます。
 その箱の中に、あなたを含めた歴代のクローンの、研究データも入れておきました。もちろんオリジナルをね」
「それもあの研究所から、盗み出して来たのかい?」
 あろうことか、トーマが微笑んだ。
「そうです。研究所の方はバックアップデータも含めて、クローン研究に関するすべてのデータを抹消してきました。
 これをどうするかは、あなたの自由です。このまま握り潰してしまうもよし、連邦政府に返すもよし──」
 シュタイナーは箱とトーマの顔とを交互に見比べた後、こう言った。
「これは廃棄する。もう連邦はクローンの研究なんかする必要はない。そうしたら私は、もうクローンではなくなるだろ? 私は……」
 彼は箱を握りしめ、俺の顔を見て笑った。
「人間になるんだ」
『はいはい。それじゃあ、大団円を迎えたこのあたりで、記念写真を撮っておきましょうよ。皆さん、メインスクリーンの方を向いてください。私の姿が映らないのが残念ですが、記念には違いありませんからね……』
 どこからそういう発想が出てくるのかは分からないが、タナトスの声に促されて俺達はスクリーンに向かってポーズをとった。

 終  
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