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その夜の二人の話は平行線に終わった。
今までほとんどNOを言ったことのないヒューが頑なに瀧の望みを断り続け、しまいにはため息をこぼして「もうこの話はしたくない」とまで拒絶した。
先に部屋で休んでしまったヒューの後を追いかけ、眠るヒューの腕にしがみ付いたが朝になってもその腕に抱かれることはなく、ヒューは一人早々に起きて出社してしまった。瀧は今までにないヒューの態度にショックを受け、失意のままとぼとぼと大学へ行き、そのままバイト先へと向かった。
繁華街の大通りから少し外れた一角の雑居ビルの五階が瀧の働くヘアサロン「クアー」だ。
瀧はフロントスタッフで受付や会計、ちょっとした店内清掃などがおもな仕事である。
バイト先でも元気のない瀧に店のスタイリストで主婦でもある智麻が明るく話しかけてきた。
「瀧くーん、おはよお。どうしたの?元気ないねえ。体調悪い?」
智麻は30代前半だが仕事柄もあり外見には気を遣っていて20代半ばでも通りそうなくらい若く見える。
「いやー、それが‥」
恋人と喧嘩しちゃって、と話せばうんうんと聞いてくれる。
「瀧くんがバイト増やしてその指輪を送った人ね」
瀧は職場でも特にカミングアウトはしていなかったが、恋人であり婚約者であるヒューの話はよくしたし、働くスタッフたちは気を遣う職業だからか察しのよい人が多くそれとなく瀧の恋人が同性であることに気づいていた。
「ちょっと話を聞きたいなあ!この後飲み行こっ」
「あ~、嬉しい。智麻さんありがとうございます。でも、恋人が早く帰ってくるかもしれないから今日はやめときます」
「えらいっ。そうだねえ、喧嘩は長引くとろくなことないもんね」
「あー、やっぱ自分が折れてでも仲直りしたほうがいいんですかね?」
「うーん。ものによる」
「‥‥‥たとえば、」
やや声のトーンを落として少し瀧が話しづらそうにすると、さらに興味を持った智麻が顔を近づけて尋ねる。
「たとえば?」
「智麻さんの旦那さんが、智麻さんともしたことないようなプレイを元カノとしてたら、やっぱむかつきますよね?」
「たーきくぅーん。たとえー」
「例えですよ。たとえ」
瀧は少し照れて智麻を見る。智麻はそんな瀧を内心可愛いと思いながら知らん顔で向けられた質問に答えた。
「まあね、プレイ云々は置いておいて、でも気持ちはわかるけどこればっかりはなあ。出会った時を変えるわけにはいかないじゃない?いま自分と一緒にいる彼がいるのはそれまで出会った人や出来事のおかげでもあるわけだから」
それはあの不躾な物言いをしてきたセオドアや瀧も知らない過去の恋人たちを、そして彼らと過ごしてきたヒューを認めろと言うことだろうか。
智麻の言うことは正しいのかも知れないが、今の瀧にその余裕はなかった。
今までほとんどNOを言ったことのないヒューが頑なに瀧の望みを断り続け、しまいにはため息をこぼして「もうこの話はしたくない」とまで拒絶した。
先に部屋で休んでしまったヒューの後を追いかけ、眠るヒューの腕にしがみ付いたが朝になってもその腕に抱かれることはなく、ヒューは一人早々に起きて出社してしまった。瀧は今までにないヒューの態度にショックを受け、失意のままとぼとぼと大学へ行き、そのままバイト先へと向かった。
繁華街の大通りから少し外れた一角の雑居ビルの五階が瀧の働くヘアサロン「クアー」だ。
瀧はフロントスタッフで受付や会計、ちょっとした店内清掃などがおもな仕事である。
バイト先でも元気のない瀧に店のスタイリストで主婦でもある智麻が明るく話しかけてきた。
「瀧くーん、おはよお。どうしたの?元気ないねえ。体調悪い?」
智麻は30代前半だが仕事柄もあり外見には気を遣っていて20代半ばでも通りそうなくらい若く見える。
「いやー、それが‥」
恋人と喧嘩しちゃって、と話せばうんうんと聞いてくれる。
「瀧くんがバイト増やしてその指輪を送った人ね」
瀧は職場でも特にカミングアウトはしていなかったが、恋人であり婚約者であるヒューの話はよくしたし、働くスタッフたちは気を遣う職業だからか察しのよい人が多くそれとなく瀧の恋人が同性であることに気づいていた。
「ちょっと話を聞きたいなあ!この後飲み行こっ」
「あ~、嬉しい。智麻さんありがとうございます。でも、恋人が早く帰ってくるかもしれないから今日はやめときます」
「えらいっ。そうだねえ、喧嘩は長引くとろくなことないもんね」
「あー、やっぱ自分が折れてでも仲直りしたほうがいいんですかね?」
「うーん。ものによる」
「‥‥‥たとえば、」
やや声のトーンを落として少し瀧が話しづらそうにすると、さらに興味を持った智麻が顔を近づけて尋ねる。
「たとえば?」
「智麻さんの旦那さんが、智麻さんともしたことないようなプレイを元カノとしてたら、やっぱむかつきますよね?」
「たーきくぅーん。たとえー」
「例えですよ。たとえ」
瀧は少し照れて智麻を見る。智麻はそんな瀧を内心可愛いと思いながら知らん顔で向けられた質問に答えた。
「まあね、プレイ云々は置いておいて、でも気持ちはわかるけどこればっかりはなあ。出会った時を変えるわけにはいかないじゃない?いま自分と一緒にいる彼がいるのはそれまで出会った人や出来事のおかげでもあるわけだから」
それはあの不躾な物言いをしてきたセオドアや瀧も知らない過去の恋人たちを、そして彼らと過ごしてきたヒューを認めろと言うことだろうか。
智麻の言うことは正しいのかも知れないが、今の瀧にその余裕はなかった。
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