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第3章:王太子妃となる日はあっさりと、しかし盛大に訪れましたわ
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伯爵・子爵といった貴族たちから、国外の要人、遠方の領主の代理人に至るまで。国中が祝賀ムードに染まる中、ついにわたくしルチアーナ・ヴェルディと王太子アルベルト・エルウィン様の結婚式が執り行われる日がやってきた。
挙式は王宮の大聖堂で行われ、その後は盛大な祝宴が催されることになっている。なにせ将来の国王となる王太子殿下の婚礼だ。国王陛下をはじめ王家の関係者はもちろんのこと、国内外の貴族や外交使節、大商人までがこぞって招かれており、壮麗なパレードこそないものの“王城内外が華やかな熱気に包まれている”といって差し支えない。
わたくし自身は、一週間ほど前から“結婚に向けての最終調整”という名目で、ほぼ公爵家と王宮を行ったり来たりしていた。おかげで慌ただしさは想像以上だったが、これも今日を迎えれば一段落する。むしろ、その先には待ちに待った“自由な王妃生活”が始まるわけだ。
さらに、“夫の愛人”であるリリア様もわたくしと親密な関係を築きつつある。王太子妃のわたくしと愛人のリリア様が仲良くおしゃべりなど、普通に考えればあり得ない光景だろう。だが、既に二人でお茶を楽しむほど打ち解けているので、その点の不安はまったく感じていない。それどころか「挙式が終わったらリリア様と新しい紅茶を試してみよう」と思いを巡らせているほどだ。
――そのように前向きな気持ちで迎えた結婚式当日の朝。
わたくしは早朝から王宮へ入り、身支度のための専用部屋に通されていた。母や公爵家の使用人や、王宮に仕える侍女たちが総出でわたくしを支度してくれる。髪を丁寧に結い上げ、純白のドレスをまとい、繊細なヴェールをかぶせられる。まさに国の第一礼装にふさわしい格式と華麗さだ。鏡越しに見る自分は、まるで別人のようである。
もっとも、わたくしはこういう派手な装いに慣れていないため、窮屈だと感じる部分も大きい。着飾るより読書したり紅茶を楽しんだりしていたほうが、よほど気が楽だ。だが今日という日は特別。さすがに「こういう場に不向きだから」と我を張ってはいられない。自分がどう思おうと、皆が心を込めて支度してくれるのだから、精一杯応えるのが礼儀だろう。
「ルチアーナ様、本当にお美しいです……!」
「公爵令嬢として日頃から気品に満ちていらっしゃいますが、今日のご様子は格別ですね。まさしく王妃となるべきお方……」
侍女たちがそう口々に賞賛してくれるのを、わたくしは微笑みと会釈で受け止める。良くも悪くも、“これが公爵家令嬢が王太子妃になる”ということなのだろう。国の未来を左右する大婚礼が、今ここで進んでいる――正直、実感はそれほど湧かない。
しかしながら、この大きな出来事のおかげで、わたくしは“自由”を手にできるはずだ。なにせ、今後はアルベルト様の“表向きの妻”として王宮に住みながらも、彼に口出しされる心配がほとんどないのだから。アルベルト様が愛するのはリリア様――わたくしの立場はあくまで国のための形式。だからこそ、わたくしは悠々自適に暮らす予定なのだ。
支度がほぼ完了したころ、部屋の外で控えていたメイドのソフィアがそっとやってきて、わたくしに声をかけた。
「ルチアーナ様、もうすぐ式の開始時刻が近づいております。ご準備はいかがでしょう?」
「ありがとう、ソフィア。わたくしはもう大丈夫よ。……あなたにも何かと手伝ってもらってばかりね」
「いえいえ、とんでもない。ルチアーナ様が幸せそうで、わたくしも嬉しいのです。今日の挙式が終わったら、おそらく公務や儀式が山ほど押し寄せるでしょうが、どうかお身体を大切になさって……」
「大丈夫よ。これが終われば、わたくしも自分の好きなことに没頭できる。自分のペースはきっと守れるわ」
ソフィアは微笑んで「本当に良かった……」と呟いた。わたくしが王太子妃になると決まったとき、彼女はずっと心配してくれていた。あまりにも重責で、しかも相手は“何を考えているか掴みにくい王太子殿下”だと。ただ、いまのわたくしはまったく不安を抱えていない。すべては、アルベルト様が既にリリア様を愛し、“形だけの結婚”を認めているからだ。むしろ、彼らがラブラブでいてくれたほうが、わたくしとしては助かるのである。
そう思いながら、わたくしはソフィアや侍女たちに促されて部屋を出た。アーチ状の回廊を進み、大聖堂へと通じる扉に向かう。そこには既に侍従や衛兵たちが配置されており、わたくしが現れるのを今や遅しと待ち構えているらしい。
扉の先は、本来ならば夢のように輝かしい晴れ舞台。人々の注目を一身に集め、将来の王妃として、その優美さを高らかに示す場である。緊張してもおかしくない局面だ。けれど、わたくしはむしろ落ち着き払っていた。どれだけ飾り立てられても、結局は“形だけ”なのだから。
挙式は王宮の大聖堂で行われ、その後は盛大な祝宴が催されることになっている。なにせ将来の国王となる王太子殿下の婚礼だ。国王陛下をはじめ王家の関係者はもちろんのこと、国内外の貴族や外交使節、大商人までがこぞって招かれており、壮麗なパレードこそないものの“王城内外が華やかな熱気に包まれている”といって差し支えない。
わたくし自身は、一週間ほど前から“結婚に向けての最終調整”という名目で、ほぼ公爵家と王宮を行ったり来たりしていた。おかげで慌ただしさは想像以上だったが、これも今日を迎えれば一段落する。むしろ、その先には待ちに待った“自由な王妃生活”が始まるわけだ。
さらに、“夫の愛人”であるリリア様もわたくしと親密な関係を築きつつある。王太子妃のわたくしと愛人のリリア様が仲良くおしゃべりなど、普通に考えればあり得ない光景だろう。だが、既に二人でお茶を楽しむほど打ち解けているので、その点の不安はまったく感じていない。それどころか「挙式が終わったらリリア様と新しい紅茶を試してみよう」と思いを巡らせているほどだ。
――そのように前向きな気持ちで迎えた結婚式当日の朝。
わたくしは早朝から王宮へ入り、身支度のための専用部屋に通されていた。母や公爵家の使用人や、王宮に仕える侍女たちが総出でわたくしを支度してくれる。髪を丁寧に結い上げ、純白のドレスをまとい、繊細なヴェールをかぶせられる。まさに国の第一礼装にふさわしい格式と華麗さだ。鏡越しに見る自分は、まるで別人のようである。
もっとも、わたくしはこういう派手な装いに慣れていないため、窮屈だと感じる部分も大きい。着飾るより読書したり紅茶を楽しんだりしていたほうが、よほど気が楽だ。だが今日という日は特別。さすがに「こういう場に不向きだから」と我を張ってはいられない。自分がどう思おうと、皆が心を込めて支度してくれるのだから、精一杯応えるのが礼儀だろう。
「ルチアーナ様、本当にお美しいです……!」
「公爵令嬢として日頃から気品に満ちていらっしゃいますが、今日のご様子は格別ですね。まさしく王妃となるべきお方……」
侍女たちがそう口々に賞賛してくれるのを、わたくしは微笑みと会釈で受け止める。良くも悪くも、“これが公爵家令嬢が王太子妃になる”ということなのだろう。国の未来を左右する大婚礼が、今ここで進んでいる――正直、実感はそれほど湧かない。
しかしながら、この大きな出来事のおかげで、わたくしは“自由”を手にできるはずだ。なにせ、今後はアルベルト様の“表向きの妻”として王宮に住みながらも、彼に口出しされる心配がほとんどないのだから。アルベルト様が愛するのはリリア様――わたくしの立場はあくまで国のための形式。だからこそ、わたくしは悠々自適に暮らす予定なのだ。
支度がほぼ完了したころ、部屋の外で控えていたメイドのソフィアがそっとやってきて、わたくしに声をかけた。
「ルチアーナ様、もうすぐ式の開始時刻が近づいております。ご準備はいかがでしょう?」
「ありがとう、ソフィア。わたくしはもう大丈夫よ。……あなたにも何かと手伝ってもらってばかりね」
「いえいえ、とんでもない。ルチアーナ様が幸せそうで、わたくしも嬉しいのです。今日の挙式が終わったら、おそらく公務や儀式が山ほど押し寄せるでしょうが、どうかお身体を大切になさって……」
「大丈夫よ。これが終われば、わたくしも自分の好きなことに没頭できる。自分のペースはきっと守れるわ」
ソフィアは微笑んで「本当に良かった……」と呟いた。わたくしが王太子妃になると決まったとき、彼女はずっと心配してくれていた。あまりにも重責で、しかも相手は“何を考えているか掴みにくい王太子殿下”だと。ただ、いまのわたくしはまったく不安を抱えていない。すべては、アルベルト様が既にリリア様を愛し、“形だけの結婚”を認めているからだ。むしろ、彼らがラブラブでいてくれたほうが、わたくしとしては助かるのである。
そう思いながら、わたくしはソフィアや侍女たちに促されて部屋を出た。アーチ状の回廊を進み、大聖堂へと通じる扉に向かう。そこには既に侍従や衛兵たちが配置されており、わたくしが現れるのを今や遅しと待ち構えているらしい。
扉の先は、本来ならば夢のように輝かしい晴れ舞台。人々の注目を一身に集め、将来の王妃として、その優美さを高らかに示す場である。緊張してもおかしくない局面だ。けれど、わたくしはむしろ落ち着き払っていた。どれだけ飾り立てられても、結局は“形だけ”なのだから。
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