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第2章:夫の愛人と親友になりましたわ
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やがて夜も更け、ソフィアが「どうか今夜は早めにおやすみくださいませ」と灯りを落とした。わたくしはベッドへ入り、天蓋を見上げながら今日の出来事を振り返る。
リリア様の笑顔、彼女が見せた涙、そしてアルベルト様の優しい視線……。普通であれば“許せない三角関係”になってもおかしくない状況なのに、不思議とわたくしは落ち着いている。それどころか「もっと彼女と仲良くなれるかも」と前向きに考えているのだから、周囲から見れば奇妙に映るかもしれない。
けれど、当事者であるわたくしにとっては、これがいちばん理想的な形なのだ。王太子という存在に縛られず、でも国のために最低限の役目は果たす。そして、愛し合う二人を勝手に応援して、自分は“自分の幸せ”に集中する。こんなにもシンプルで平和な結婚生活があるなんて、少し前までは想像もしなかった。
「いいわね……こういうのを世間では“白い結婚”と呼ぶのかしら。お互いに干渉しないで、でも公的には夫婦として振る舞う……。ふふ、本当に最高ですわ」
そう呟きながら、わたくしはまぶたを閉じる。挙式はまだ終わっていないが、すでにわたくしの心は軽やかで、未来への期待に満ちている。
リリア様と友達になれそうだという喜びまで加わり、この夜の寝つきは驚くほど良かった。公爵家の柔らかな寝具に沈み込むと、あっという間に深い眠りへと落ちていった。
翌朝、わたくしはいつもどおり起床し、母のもとへ顔を出す。すると母は「今日もあちこちから贈り物が届いているわ。お礼状を書かなくてはいけないので、少し手伝ってちょうだい」と仰る。結婚間近の王太子妃候補には、国内外から多種多様な贈り物や祝辞が寄せられており、その対処はまるで洪水のようだ。
わたくしは嫌とは言えない立場なので、「わかりましたわ」と素直に応じ、机に向かって礼状を書き始める。実に退屈な作業だが、これもあと少しの辛抱。挙式が終わりさえすれば、わたくしの宮廷生活はリリア様のおかげでかなり気楽になるだろう……と考えると、自然とペンが進む。
その後、母が用意したカタログや布地のサンプルを確認し、ドレスの細部を最終チェックする。どんなレースをあしらうか、袖のデザインはどうするか、ベールの形はどうするか……普段のわたくしなら、こうしたことに目を凝らすだけで疲れ切ってしまうが、今日に限っては「まあ、人生で一度きりの大舞台ですものね」と割り切って取り組むことにした。
やはり、心の余裕が違うのだ。アルベルト様がリリア様を愛していることを堂々と認め、わたくしと衝突するつもりがない。それを思うと、“王妃”という肩書きも悪くないかもしれないと思えてくるから不思議である。
こうしてわたくしは、公爵家の娘としての最期の数日を、慌ただしくも高揚感を抱きながら過ごしていた。次に控えるは、いよいよ国家的な大イベントである「王太子殿下と公爵令嬢の結婚式」。王宮での壮麗な儀式と、貴族社会を巻き込んだ祝賀の宴会が待っている。
そのとき、わたくしの脳裏には既に「挙式が終わったら、すぐにでもリリア様とお茶会を開きたい」という考えがあった。紅茶の飲み比べをしてみるのもいいし、城下町でお菓子を買いに行くのも楽しそうだ。王妃として出歩くには多少の警備が必要だが、アルベルト様が公務で忙しいときなら、わたくしとリリア様が連れ立って散策するのも可能かもしれない。
もはや、わたくしの結婚生活は“夫”よりも“夫の恋人”との交際のほうが、よほど潤いに満ちている未来が思い描けてしまう。これが世間の常識から外れているとしても、当事者が全員ハッピーなら何の問題もないではないか。そう思えば、わたくしは気分が晴れ晴れとしてくる。
そして数日後。わたくしとアルベルト様の盛大な結婚式が、華やかに執り行われることになる。
その顛末はまた次の章で詳しく綴るとして——。とにもかくにも、結婚を前にわたくしと“夫の愛人”であるリリア様は、すっかり友達のように打ち解けることに成功したのだ。
まさに、「夫の愛人と親友になりましたわ」という突拍子もない展開が、この王国の王宮で密かに進行中である。世間の人々は誰も知る由もないが、わたくしとリリア様は新しい友情を育み始めていた。アルベルト様には少々複雑な心境かもしれないが……わたくしたち二人の女性は、そんなこともお構いなしに盛り上がるのだった。
わたくしの“白い結婚”は、自由気ままな王妃生活へと向けて、一歩ずつ準備が整っていく。リリア様と一緒にお茶を楽しむ未来を思い描きながら、わたくしは今日も笑顔を浮かべていた——。
リリア様の笑顔、彼女が見せた涙、そしてアルベルト様の優しい視線……。普通であれば“許せない三角関係”になってもおかしくない状況なのに、不思議とわたくしは落ち着いている。それどころか「もっと彼女と仲良くなれるかも」と前向きに考えているのだから、周囲から見れば奇妙に映るかもしれない。
けれど、当事者であるわたくしにとっては、これがいちばん理想的な形なのだ。王太子という存在に縛られず、でも国のために最低限の役目は果たす。そして、愛し合う二人を勝手に応援して、自分は“自分の幸せ”に集中する。こんなにもシンプルで平和な結婚生活があるなんて、少し前までは想像もしなかった。
「いいわね……こういうのを世間では“白い結婚”と呼ぶのかしら。お互いに干渉しないで、でも公的には夫婦として振る舞う……。ふふ、本当に最高ですわ」
そう呟きながら、わたくしはまぶたを閉じる。挙式はまだ終わっていないが、すでにわたくしの心は軽やかで、未来への期待に満ちている。
リリア様と友達になれそうだという喜びまで加わり、この夜の寝つきは驚くほど良かった。公爵家の柔らかな寝具に沈み込むと、あっという間に深い眠りへと落ちていった。
翌朝、わたくしはいつもどおり起床し、母のもとへ顔を出す。すると母は「今日もあちこちから贈り物が届いているわ。お礼状を書かなくてはいけないので、少し手伝ってちょうだい」と仰る。結婚間近の王太子妃候補には、国内外から多種多様な贈り物や祝辞が寄せられており、その対処はまるで洪水のようだ。
わたくしは嫌とは言えない立場なので、「わかりましたわ」と素直に応じ、机に向かって礼状を書き始める。実に退屈な作業だが、これもあと少しの辛抱。挙式が終わりさえすれば、わたくしの宮廷生活はリリア様のおかげでかなり気楽になるだろう……と考えると、自然とペンが進む。
その後、母が用意したカタログや布地のサンプルを確認し、ドレスの細部を最終チェックする。どんなレースをあしらうか、袖のデザインはどうするか、ベールの形はどうするか……普段のわたくしなら、こうしたことに目を凝らすだけで疲れ切ってしまうが、今日に限っては「まあ、人生で一度きりの大舞台ですものね」と割り切って取り組むことにした。
やはり、心の余裕が違うのだ。アルベルト様がリリア様を愛していることを堂々と認め、わたくしと衝突するつもりがない。それを思うと、“王妃”という肩書きも悪くないかもしれないと思えてくるから不思議である。
こうしてわたくしは、公爵家の娘としての最期の数日を、慌ただしくも高揚感を抱きながら過ごしていた。次に控えるは、いよいよ国家的な大イベントである「王太子殿下と公爵令嬢の結婚式」。王宮での壮麗な儀式と、貴族社会を巻き込んだ祝賀の宴会が待っている。
そのとき、わたくしの脳裏には既に「挙式が終わったら、すぐにでもリリア様とお茶会を開きたい」という考えがあった。紅茶の飲み比べをしてみるのもいいし、城下町でお菓子を買いに行くのも楽しそうだ。王妃として出歩くには多少の警備が必要だが、アルベルト様が公務で忙しいときなら、わたくしとリリア様が連れ立って散策するのも可能かもしれない。
もはや、わたくしの結婚生活は“夫”よりも“夫の恋人”との交際のほうが、よほど潤いに満ちている未来が思い描けてしまう。これが世間の常識から外れているとしても、当事者が全員ハッピーなら何の問題もないではないか。そう思えば、わたくしは気分が晴れ晴れとしてくる。
そして数日後。わたくしとアルベルト様の盛大な結婚式が、華やかに執り行われることになる。
その顛末はまた次の章で詳しく綴るとして——。とにもかくにも、結婚を前にわたくしと“夫の愛人”であるリリア様は、すっかり友達のように打ち解けることに成功したのだ。
まさに、「夫の愛人と親友になりましたわ」という突拍子もない展開が、この王国の王宮で密かに進行中である。世間の人々は誰も知る由もないが、わたくしとリリア様は新しい友情を育み始めていた。アルベルト様には少々複雑な心境かもしれないが……わたくしたち二人の女性は、そんなこともお構いなしに盛り上がるのだった。
わたくしの“白い結婚”は、自由気ままな王妃生活へと向けて、一歩ずつ準備が整っていく。リリア様と一緒にお茶を楽しむ未来を思い描きながら、わたくしは今日も笑顔を浮かべていた——。
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