王太子妃の器ではないと言われましたが、帝国の未来そのものでした

鍛高譚

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33話

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王国の求める“最後の希望”

 それからさらに数日が経過し、フローラたちは驚くべき情報を得る。
 王国が、再びラグナ帝国へ 「正式な使者を派遣する」 と通告してきたのだ。今度こそ極秘ではなく、大っぴらに皇宮へ赴いて「条約改訂のお願い」とやらを伝えたいらしい。
 ――だが、これだけラグナ帝国に譲歩していながら、なお王国に生きる道があるのだろうか。
 フローラが困惑する中、クラウスは冷ややかに言い放つ。
「またしても、連中は都合のいい交渉を望んでいるんだろう。『今の条約はきつすぎるから、もっと優遇してほしい』とでも言いに来るに違いない。だが、この期に及んでそんなことをするほど、あの王太子は愚かじゃない……と言えればいいがね」
 苦笑するクラウスに、フローラは何か言葉をかけようとするが、うまく出てこない。王国が本当にどうなりたいのか――フローラにはまるで見えなかった。
 しかし、ラグナ帝国の立場としては、王国から正規の使者が来る以上、対応しないわけにはいかない。実際、国境地帯の安定を守るという観点からも、あまりに王国が自壊して難民が流れ込んでくるような事態は避けたいところだ。
 そして、その使者が到着する前日に、フローラはクラウスから思いがけない提案を受ける。

「フローラ、明日からの交渉の場で、正式に『お前を皇太子妃とする』と宣言するつもりだが……お前の意思はどうだ?」

 それは、これまで暗黙のうちに進められてきた「皇太子妃就任」を、ついに公に確定させるという重大な申し出だった。
 フローラは驚きと喜び、そして一抹の不安を同時に抱く。もちろんクラウスを愛し、彼の傍にいたいと思っている。けれど、正式に皇太子妃として名乗りを上げることは、これまで以上に大きな責任を負うことでもある。
「……わたくしで、本当に大丈夫でしょうか。帝国の皆さまには、まだまだ認められていない面もあるかもしれません……」
 その問いに、クラウスは静かに首を振る。
「すでに認めるも何も、お前は十分に皇宮の人々に慕われている。あの交渉の場での毅然とした態度も、侍女や騎士たちを魅了していたぞ。自信を持て。――それに、何より俺が、お前を“皇太子妃”として隣に迎えたいと思っているんだ。これほど明確な理由があるか?」
 そう言って、クラウスはフローラの手を包み込む。その手の温かさは、いつでも彼女を支えてくれるという揺るぎない確信を与えてくれた。
「……はい。わたくし……クラウス様の傍で生きていきたいです。もし皆さまがわたくしを受け入れてくださるのなら……どうか」
 目にうっすら涙を浮かべながら答えるフローラに、クラウスは小さく微笑む。
「いいだろう。明日の交渉の場で、俺が堂々と宣言しよう。“これが、ラグナ帝国の皇太子妃だ”ってな」

 こうして、フローラの「皇太子妃就任」の発表が、王国からの使者を迎えるタイミングで行われることが決まった。そこには明らかに、王国に対して 「かつて捨てた令嬢こそが、いまや帝国の正式な皇太子妃になる」 という痛烈な現実を突きつける狙いがある。
 フローラ自身もまた、王国に振り回された過去を振り切って、未来を掴むための大きな一歩を踏み出す覚悟を決めたのだった。
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