冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚

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第3章 嫉妬する旦那様と政略結婚の崩壊

14話

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やがて馬車が役所の前に到着すると、事前に連絡を受けていた役人たちが迎えに出る。アレクシスが降り立ち、続いてリゼットがドレスの裾を持ち上げながら慎重に外へ出ると、冷たい空気が一段と肌にしみた。
「旦那様、奥様、ようこそお越しくださいました。こちらへどうぞ……」
 恭しく頭を下げる役人に続き、建物の中へと案内される。中に通されると、すでに何人もの技師や職人が待機しており、大きな地図や設計図がテーブルに広げられていた。

 アレクシスは落ち着いた口調で役人たちと話を交わし、道路工事の予定区間や資金の流れなどを確認していく。リゼットも隣に座り、耳を傾けながら設計図をのぞきこんだ。
「ここは湿地帯に近いので、土壌が柔らかく、通常の舗装では雨季に崩れやすい恐れがあるとの意見が出ています……」
「では、下地となる石を厚めに敷く必要がありますね。費用はかさむが、完成後に修繕を繰り返すよりは経済的だ」
 そんなやり取りをしているうちに、リゼットはふとアレクシスが非常に理論的かつ実務的な話し方をすることに感心した。普段は人前で多くを語らない印象があるが、こうした公務の場では必要な情報を的確に引き出し、要点をまとめる力を持っている。まさに“優秀な領主”といったところだ。
(なるほど……冷酷だなんて噂されているのは、こういう実務態度が誤解されているのかも。無駄を嫌い、問題点を淡々と指摘するから、感情がないように見えるのかもしれないわね)

 打ち合わせが一通り終わり、アレクシスはメモをまとめて役人たちに最後の指示を出す。
「では、再度具体的な予算案とスケジュールを組み直して、今週中に私のところへ報告を。予算面でのやり繰りは私のほうでも検討するが、まずは無駄を削ぎつつ、必要なところにきちんと費用をかけてくれ」
「かしこまりました、旦那様」

 こうして役所での仕事を終えたあと、アレクシスとリゼットは簡単な昼食をはさんでから工事予定地へ足を運んだ。まだ工事の本格的な着工は始まっていないが、重機や資材の一部が運び込まれ、下見をする技師や職人たちの姿がちらほら見える。
 リゼットは少し脇へ寄り、草の上を踏みしめながら辺りを見渡した。空は曇っており、やや肌寒いが視界は悪くない。地面には水気が多い場所があり、ここが確かに軟弱な地盤だとわかる。
「なるほど……。実際に見てみると、ここに道路を通すのは大変そうですね」
 アレクシスはリゼットの言葉に小さく頷く。
「そうだろう? こういう現場を確認しておかないと、机上の計画だけでは想像しにくい部分も多い。……ああ、足元に気をつけて。そっちはぬかるんでいるから」

 彼がリゼットの手をそっと支えてくれる。その瞬間、リゼットはふわりと頬が熱くなるのを感じた。相変わらずアレクシスはさりげなく優しい。
 ――こんなふうに夫婦で領地を視察し、今後の方針を考える。政略結婚だとはいえ、この関係は決して悪くない。むしろ、リゼットの胸にはどこか誇らしさすら芽生えていた。
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