冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚

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第4章 ざまぁ! そして溺愛の未来へ

21話

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審問の日

 ――そして、ついに王宮でガイウス公爵の審問が始まった。
 審問官たちは、事前に集めた証拠書類をもとにガイウスの不正を追及し、贈賄・収賄の金額や政治的取引の内容を細かく洗い出していく。ガイウスは最初のうちこそ「これは誤解だ」「わたしは無実だ」と主張していたが、次々と繰り出される具体的な証拠と証言を前に、次第に言い訳の余地がなくなっていった。
 その場には貴族や高官も多数詰めかけ、事の行方を固唾を飲んで見守っている。リゼットとアレクシスも特別に傍聴を許され、審問の席から少し離れた来賓席で様子を見ていた。
 リゼットは、震える指先を組み合わせながら、父の醜態を目の当たりにして胸が痛んだ。家同士の政略結婚を利用してまで、父は自分の不正を隠そうとした。けれど、その策は完全に裏目に出て、こうして公の場で糾弾されている。

(本当に、ここまで落ちぶれてしまうなんて……。父様、どうしてこんなやり方しかできなかったの?)

 審問官が、最後通告のように声を響かせる。
「ガイウス公爵、あなたが王宮の権限を不当に利用し、同時に他の貴族と結託して財産を得ようとした証拠は、すでに十分であると見なしても差し支えない。あなたはこの場で最終的な弁明をするか、それともすべての罪を認めるか、いずれかを選びなさい」

 ガイウスは顔面蒼白で汗をかきながら、まるで死刑宣告でも受けたかのように震えている。
「わ、わたしは……そんなつもりは……。ただ、家を守るために……!」
「家を守るとは、誰の家ですか? あなた個人の利益のためにエヴァンティア家という大貴族の名を利用し、さらには娘の結婚までも道具にしたと聞きますが」
「そ、それは……」

 もう言葉にならない。周囲の貴族たちの視線も冷ややかだ。“公爵”という威光も、この場では通用しない。
 王宮の高官が、事務的な口調で宣告する。
「では、正式に裁定を下すまでの間、ガイウス公爵には王宮への出入りを禁ずる。あわせて、公爵位と領地の管理権の停止を仮決定とし、今後の罪状確定後に剥奪の可否を検討する」
「停止……し、しかし、それでは……!」
 ガイウスが叫ぶが、覆る余地などどこにもない。貴族社会のなかでも最も重い処分の一歩手前――公爵位の停止措置である。これによって、すでにエヴァンティア家は「公爵家」としての実質的な権限を失ったも同然だ。

 傍聴席からも小さなどよめきが起こる。隣に座るアレクシスが小さく息を吐き、リゼットの肩にそっと手を添える。
「……これで、すべて終わったな」
 そう言われ、リゼットはゆっくりと頷いた。長年“公爵家の娘”として背負ってきたものが、今まさに崩れ落ちようとしている。涙は出なかった。悲しみよりも虚しさのほうが大きい。

 審問官たちが議事をまとめている間に、リゼットとアレクシスはそっと席を立った。これ以上ここにいても、父の醜い言い訳を聞かされるだけだろう。
 廊下に出ると、そこにはアルヴィン・クランベル伯爵子息の姿があった。彼は壁際にもたれかかり、皮肉げな笑みを浮かべてこちらを見ている。
「やあ、随分とあっけない幕切れになったね、リゼット。それにシュヴァルツ侯爵殿。君たちにとっては、これで都合がいいのかな?」
 聞き捨てならない言葉だったが、リゼットはあえて気にせず、真っ直ぐアルヴィンを見据える。

「アルヴィン、あなたはいったい何をしていたの? 父を利用して、裏取引の証拠を審問官に渡したのは、あなたの従者でしょう?」
「さあね。僕はただ、おもしろそうだから観察していただけさ。ガイウス公爵が焦って動き回っている様子を見ているうちに、勝手に自滅してくれた。そこに従者が機転を利かせて、“証拠”をさりげなく渡した……それだけだよ。僕自身の立場が悪くなるような下手は打たない」

 アルヴィンは皮肉げに笑い、続ける。
「ただね、リゼット。君の父上は、君を政略の手駒にしようとした。彼がもっと器用に立ち回れていれば、君が僕のほうへ転がり込む可能性だってゼロじゃなかった。でも、結局はクランベル家が得るはずの利権も、あの男が不正でむちゃくちゃにしてしまったんだ。……つまらない結末さ」
 リゼットは、複雑な怒りと虚しさを感じながら唇を噛む。この男もまた、父を利用しようとしていたにすぎない。自分へ愛情を見せたのも、所詮は“利権”のための芝居だったのか――そう考えれば合点がいく。

 アレクシスが一歩前に出て、低い声で問う。
「それで、お前はどうする? これだけの騒動を起こした以上、クランベル家に調査の目が向かないとでも思っているのか?」
「ふふ。もちろん用意はしてあるさ。いくらなんでも公爵を相手に無策で突っ込むような真似はしない。――まあ、今回の件で一番損をしたのはエヴァンティア家ってわけだ。君たちはうまくやったね。リゼットを手に入れ、ガイウス公爵を失脚させ、シュヴァルツ家はさらに安泰になる。すべては君たちの思惑通り――というわけだろう?」

 そのあまりに薄っぺらく悪意に満ちた推測に、アレクシスは憤りを含んだ冷たい目を向ける。
「お前のような男と一緒にするな。俺たちはリゼットを守るために動いた。ガイウスが自滅する形になったのは事実だが、それを“思惑通り”と嘲笑される筋合いはない」
「そうかな。ま、いいさ。僕は自分の目的を達成するために、常に最善の手を打つだけだ。君らもせいぜいお幸せに。あの冷酷な侯爵が、どこまで彼女を溺愛できるか……興味は尽きないね」

 言いたいことを言い終わると、アルヴィンは踵を返して足早に去っていく。その背中はどこか余裕のある態度を装っていたが、リゼットは彼の目がひどく虚ろだったことに気づいていた。
(結局、アルヴィンもまた父と似ているのかもしれない。政治的な打算ばかりが先に立って、本当の愛情なんて持っていないのね……)

 そう思うと、アレクシスの存在がいっそう大きく感じられる。彼は政略結婚という手段を使ったが、リゼットの心を尊重し、徹底的に守ろうとしてくれている。その違いは決定的だ。
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