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第4章 ざまぁ! そして溺愛の未来へ
20話
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――エヴァンティア公爵、ガイウスの裏取引が王宮に発覚してから数日後。
リゼット・エヴァンティア=シュヴァルツは胸のざわつきを抱えながら、夫アレクシス・フォン・シュヴァルツの書斎へと足を運んでいた。
王宮から届けられた新たな情報は、ガイウスの不正疑惑に関してより深い追及が行われるというものだ。正式な審問が始まるまでに、ガイウス側が必死に証拠隠滅を図ったかもしれない――そんな懸念が巷を飛び交い、国中の貴族社会が大きく揺れている。
アレクシスは既に自分の配下を動かして、事の経緯を調査させている。だが、ガイウスの息がかかった関係者も多く、そう簡単に真相をすべて突き止められるわけではない。
書斎の扉をノックすると、中から「どうぞ」というアレクシスの声が聞こえた。失礼して入り、デスクの前に立つ夫の姿を見やる。相変わらず冷静な面持ちではあるが、その眉間には深い皺が寄っている。
「……アレクシス様、何か進展はありましたか?」
リゼットが問うと、アレクシスは手元の書簡を軽く払ってから椅子を立ち上がり、小さく息をついた。
「多少はな。ガイウス公爵が裏でやり取りしていた“金銭の流れ”が見つかった。王宮の複数の貴族や商人を巻き込んだ贈収賄の疑いが強い。……おそらく、そのつながりを保つために“より強い後ろ盾”が欲しかったのだろう。自分がシュヴァルツ家と結んだ程度では不安だったのかもしれない」
「それで、私との結婚を破棄して……もっと有利になる縁組を目論んでいた……?」
言葉にするのも苦しくなる。父ガイウスは、娘の結婚生活を犠牲にしてでも保身を図ろうとしたのだ。
アレクシスは少しだけ表情を曇らせながら頷く。
「そう考えるのが自然だ。実際、“アルヴィン”という男が出てきたのも、その一環だろうな。あの伯爵子息との結婚をちらつかせることで、王宮の特定の派閥や貴族筋と手を組もうとした……」
「アルヴィンも、父を利用していたのでしょうか。それとも、逆に父がアルヴィンを利用していたのか……。いずれにせよ、もう手遅れですね。父がどんな弁明をしたって、挙式後に破棄を持ち出すなんて非常識すぎます」
そう。仮にガイウスが不正に関与していなかったとしても、結婚が成立した後に「破棄」などという行動は、王国の慣習上ありえない。ましてや、それが娘本人の意思ではなく、父の都合のみで進められたとなれば、どんな名家であろうと社会的信用を一瞬にして失う。
アレクシスは冷静な口調を保ちながらも、どこか苛立ちを内包させた声で続けた。
「……とにかく、エヴァンティア家の名声は地に堕ちるだろう。ガイウス公爵の立場も危うい。王宮からの正式な処分が下るのは時間の問題だ。そうなれば、公爵家としての地位すら危険だ」
その言葉に、リゼットの胸が締めつけられる。自分を冷酷な父から“解放”してくれたのはアレクシスだ。だが、家が完全に没落するのを見るのは、やはり娘として辛い。
なにより、母マリアのことが気がかりだった。彼女はガイウスの不正にどこまで加担していたのか。少なくとも、積極的に関与していたとは思えないが、それでも公爵夫人という立場から逃れる術は少ない。
「……お母様のこと、どうなるのでしょう」
リゼットが呟くように問うと、アレクシスはその瞳をじっと見つめ返す。
「もし、ガイウスが失脚すれば、マリア様は身を引いてどこか別の場所へ移らざるを得ないかもしれない。あるいは王宮からの追及を受けるか……。ただ、どこまで責任を問われるかは現時点では分からないな。いずれにしろ、あなたが彼女を助けたいのなら、俺も力になろう」
その言葉に、リゼットはほっと胸をなでおろす。アレクシスがそう言ってくれるのは、すごく心強い。
「ありがとう、アレクシス様。私には……もはや父を擁護する気持ちはありません。でも、お母様だけは巻き込まないようにしてあげたい。母がどこまで知っていたのか分からないけれど、彼女は確かに私を心配してくれていました」
「分かった。あなたの望むようにしよう。まずは王宮の審問の場で、公爵の発言や証拠がどう扱われるか。それを確認したうえで、マリア様をこちらへ保護する手立てを探ろう」
そうして二人は、今後の方針をざっくりと決めた。父ガイウスを“救う”という選択は、もはやない。けれど、母マリアやエヴァンティア家の無辜の使用人たちが巻き添えを食うのを見過ごすことはできない。
リゼット・エヴァンティア=シュヴァルツは胸のざわつきを抱えながら、夫アレクシス・フォン・シュヴァルツの書斎へと足を運んでいた。
王宮から届けられた新たな情報は、ガイウスの不正疑惑に関してより深い追及が行われるというものだ。正式な審問が始まるまでに、ガイウス側が必死に証拠隠滅を図ったかもしれない――そんな懸念が巷を飛び交い、国中の貴族社会が大きく揺れている。
アレクシスは既に自分の配下を動かして、事の経緯を調査させている。だが、ガイウスの息がかかった関係者も多く、そう簡単に真相をすべて突き止められるわけではない。
書斎の扉をノックすると、中から「どうぞ」というアレクシスの声が聞こえた。失礼して入り、デスクの前に立つ夫の姿を見やる。相変わらず冷静な面持ちではあるが、その眉間には深い皺が寄っている。
「……アレクシス様、何か進展はありましたか?」
リゼットが問うと、アレクシスは手元の書簡を軽く払ってから椅子を立ち上がり、小さく息をついた。
「多少はな。ガイウス公爵が裏でやり取りしていた“金銭の流れ”が見つかった。王宮の複数の貴族や商人を巻き込んだ贈収賄の疑いが強い。……おそらく、そのつながりを保つために“より強い後ろ盾”が欲しかったのだろう。自分がシュヴァルツ家と結んだ程度では不安だったのかもしれない」
「それで、私との結婚を破棄して……もっと有利になる縁組を目論んでいた……?」
言葉にするのも苦しくなる。父ガイウスは、娘の結婚生活を犠牲にしてでも保身を図ろうとしたのだ。
アレクシスは少しだけ表情を曇らせながら頷く。
「そう考えるのが自然だ。実際、“アルヴィン”という男が出てきたのも、その一環だろうな。あの伯爵子息との結婚をちらつかせることで、王宮の特定の派閥や貴族筋と手を組もうとした……」
「アルヴィンも、父を利用していたのでしょうか。それとも、逆に父がアルヴィンを利用していたのか……。いずれにせよ、もう手遅れですね。父がどんな弁明をしたって、挙式後に破棄を持ち出すなんて非常識すぎます」
そう。仮にガイウスが不正に関与していなかったとしても、結婚が成立した後に「破棄」などという行動は、王国の慣習上ありえない。ましてや、それが娘本人の意思ではなく、父の都合のみで進められたとなれば、どんな名家であろうと社会的信用を一瞬にして失う。
アレクシスは冷静な口調を保ちながらも、どこか苛立ちを内包させた声で続けた。
「……とにかく、エヴァンティア家の名声は地に堕ちるだろう。ガイウス公爵の立場も危うい。王宮からの正式な処分が下るのは時間の問題だ。そうなれば、公爵家としての地位すら危険だ」
その言葉に、リゼットの胸が締めつけられる。自分を冷酷な父から“解放”してくれたのはアレクシスだ。だが、家が完全に没落するのを見るのは、やはり娘として辛い。
なにより、母マリアのことが気がかりだった。彼女はガイウスの不正にどこまで加担していたのか。少なくとも、積極的に関与していたとは思えないが、それでも公爵夫人という立場から逃れる術は少ない。
「……お母様のこと、どうなるのでしょう」
リゼットが呟くように問うと、アレクシスはその瞳をじっと見つめ返す。
「もし、ガイウスが失脚すれば、マリア様は身を引いてどこか別の場所へ移らざるを得ないかもしれない。あるいは王宮からの追及を受けるか……。ただ、どこまで責任を問われるかは現時点では分からないな。いずれにしろ、あなたが彼女を助けたいのなら、俺も力になろう」
その言葉に、リゼットはほっと胸をなでおろす。アレクシスがそう言ってくれるのは、すごく心強い。
「ありがとう、アレクシス様。私には……もはや父を擁護する気持ちはありません。でも、お母様だけは巻き込まないようにしてあげたい。母がどこまで知っていたのか分からないけれど、彼女は確かに私を心配してくれていました」
「分かった。あなたの望むようにしよう。まずは王宮の審問の場で、公爵の発言や証拠がどう扱われるか。それを確認したうえで、マリア様をこちらへ保護する手立てを探ろう」
そうして二人は、今後の方針をざっくりと決めた。父ガイウスを“救う”という選択は、もはやない。けれど、母マリアやエヴァンティア家の無辜の使用人たちが巻き添えを食うのを見過ごすことはできない。
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