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第4章――十年の時を超えて、いま選ぶ未来
20話
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控えめな叩音がして、扉がゆっくりと開く。
「失礼いたします。リリアナ・クラウゼ様がお越しです」
案内のメイドが通した先――ロウェル伯爵家の客間で、私は緊張を噛みしめながら立ち上がった。
「リリアナ嬢……来てくれたんだ」
少し前に手紙で打診していたとおり、今日はレオンとリリアナと私の三人で話し合う機会を設けることになっている。場所はロウェル伯爵家。私が一番落ち着いて話せる場所がいい、というレオンの配慮だ。
すでにレオンは先に到着しており、客間の一角で腕を組むようにして立っていた。彼もまた緊張しているのか、時折落ち着かなげに視線を彷徨わせている。
「アーシア……落ち着いて。大丈夫だよ」
レオンの低い声に励まされながら、私は胸のうちを必死に落ち着かせる。
――これから、リリアナと正面から話をする。私が10年ぶりに目覚めた今、レオンとの間にある想いをどうするのか。リリアナの婚約者としての立場はどうなるのか。三人それぞれが抱えている答えは、まだ不透明だ。
扉が開くと、さわやかな風とともにリリアナ・クラウゼが姿を現した。淡い色合いのドレスを上品にまとい、背筋を伸ばして歩いてくる。その端整な佇まいは、以前会ったときと変わらず、まるで王宮の舞踏会にでも赴くかのような優雅さを感じさせる。
「お待たせしました。アーシア様、レオン。急な日程調整でしたが、時間を作っていただいてありがとうございます」
リリアナはほんの少し微笑んで、礼儀正しく一礼した。レオンが「いえ、こちらこそわざわざすまない」と返す。
私はどう切り出せばいいのかわからず、緊張のあまり口ごもっていたが、リリアナがまず私に軽く会釈をしてから口を開いた。
「アーシア様、先日はお手紙をありがとうございました。おかげで、私も心の準備ができました」
「わ、私こそ……お忙しいところ、本当にありがとう」
敬語を使うか迷ったが、できるだけ対等な立場で話したいと思い、できるだけ自然な口調を心がける。リリアナは柔らかな微笑みを湛えながら「遠慮なく、互いに思うところを話しましょう」と言った。
レオンは客間の中央に置かれたテーブルのほうを示し、「座って話そうか」と促す。私とリリアナは向かい合う形で椅子に腰を下ろし、レオンは少し離れた位置に立ってから、空いている椅子へゆっくり腰を下ろした。
こうして、三人がそろってテーブルを囲むのは初めてだ。――いや、正確には、幼い頃の記憶のどこかに、三人で遊んだ日があったかもしれないが、そんな穏やかな光景はもう戻らない。
緊張感の漂う沈黙を打ち破ったのは、リリアナだった。
「まず……お二人にお伝えしたいことがあります」
彼女はきりりと眉を寄せ、まっすぐ私とレオンを見つめる。その瞳には、いつものような揺るぎない意思があった。
「私とレオンは、皆さまがご存じのとおり“婚約者”という関係にあります。ですが……最近、彼の態度を見ていると、どうしてもアーシア様を意識してしまう様子が拭えません。私はそのことを責めるつもりはありませんが、いずれ結婚を控える身として、はっきりさせなければならないと考えました」
「失礼いたします。リリアナ・クラウゼ様がお越しです」
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「アーシア……落ち着いて。大丈夫だよ」
レオンの低い声に励まされながら、私は胸のうちを必死に落ち着かせる。
――これから、リリアナと正面から話をする。私が10年ぶりに目覚めた今、レオンとの間にある想いをどうするのか。リリアナの婚約者としての立場はどうなるのか。三人それぞれが抱えている答えは、まだ不透明だ。
扉が開くと、さわやかな風とともにリリアナ・クラウゼが姿を現した。淡い色合いのドレスを上品にまとい、背筋を伸ばして歩いてくる。その端整な佇まいは、以前会ったときと変わらず、まるで王宮の舞踏会にでも赴くかのような優雅さを感じさせる。
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リリアナはほんの少し微笑んで、礼儀正しく一礼した。レオンが「いえ、こちらこそわざわざすまない」と返す。
私はどう切り出せばいいのかわからず、緊張のあまり口ごもっていたが、リリアナがまず私に軽く会釈をしてから口を開いた。
「アーシア様、先日はお手紙をありがとうございました。おかげで、私も心の準備ができました」
「わ、私こそ……お忙しいところ、本当にありがとう」
敬語を使うか迷ったが、できるだけ対等な立場で話したいと思い、できるだけ自然な口調を心がける。リリアナは柔らかな微笑みを湛えながら「遠慮なく、互いに思うところを話しましょう」と言った。
レオンは客間の中央に置かれたテーブルのほうを示し、「座って話そうか」と促す。私とリリアナは向かい合う形で椅子に腰を下ろし、レオンは少し離れた位置に立ってから、空いている椅子へゆっくり腰を下ろした。
こうして、三人がそろってテーブルを囲むのは初めてだ。――いや、正確には、幼い頃の記憶のどこかに、三人で遊んだ日があったかもしれないが、そんな穏やかな光景はもう戻らない。
緊張感の漂う沈黙を打ち破ったのは、リリアナだった。
「まず……お二人にお伝えしたいことがあります」
彼女はきりりと眉を寄せ、まっすぐ私とレオンを見つめる。その瞳には、いつものような揺るぎない意思があった。
「私とレオンは、皆さまがご存じのとおり“婚約者”という関係にあります。ですが……最近、彼の態度を見ていると、どうしてもアーシア様を意識してしまう様子が拭えません。私はそのことを責めるつもりはありませんが、いずれ結婚を控える身として、はっきりさせなければならないと考えました」
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