当店では真実の愛は取り扱っておりません

鍛高譚

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4話

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――その頃、王都の外れにある大きな倉庫では、パステル商会の若き令嬢、クレオ・パステルが働く商人たちに指示を出していた。
 整然と並ぶ木箱や樽の山。そこには各地から運ばれてくる商品や、これから各地へ運ぶ物資が大量に詰められている。
 クレオは浅葱色の軽装ドレスを身にまとい、胸元には商会の紋章が入った名札をつけている。貴族趣味のドレスではなく、動きやすさを重視した装いだ。
 有力商人の娘とはいえ、その姿に高慢さは感じられない。むしろ自ら歩いて倉庫を巡回し、状況を確認している。
 部下たちがクレオに次々と進捗報告を行い、彼女は的確な指示を返していく。

「王都北方への出荷は遅れが出ているようですね。輸送馬車を増やすよう手配してもらえますか?」

「は、はい! すぐに手配いたします!」

「今期の新作ドレスについて、デザイナーとの契約書面を改めて確認しましょう。できれば上限予算を再調整して、より良い素材を使えるかもしれません」

「あ、承知しました!」

 活気ある掛け声が飛び交う中、クレオはふと足を止め、近くにいたベテラン商人に顔を向ける。

「ところで、ブラック公爵家からの融資依頼って、どうなっていましたっけ?」

 その商人は一瞬だけ言葉を濁したが、すぐに申し訳なさそうに答える。

「……先方が頻繁に条件変更を要求してきまして、まだ正式に契約は結んでおりません。利子や担保の件で揉めておりますが、パステル商会としてどうされますか? 打ち切りも視野に入れて……」

「とりあえず保留にしておいてください。慌ただしい要求を繰り返すお客様とは、慎重にお付き合いすべきですわ」

 クレオはそう言うと、小さく息をつく。ブラック家の噂は以前から耳にしている。財政難を公には認めないが、裏では何とか資金を引っ張ろうと必死らしい。
 もしも条件が妥当なら融資してもいいが、ギリギリまで押し込んでくるような相手に対しては、慎重を期すのが商売の基本だ。

(ブラック家……いまさらどう転んでも、そんなに大きな利があるとは思えないけど)

 そんなことを考えながら、クレオは視線を動かし、さらに作業を監督する。
 彼女の思考には、婚約だの真実の愛だの、そんな要素は一切存在しない。いまはただ、商会を切り盛りし、多角的に事業を拡大することだけに集中している。
 ……だが、そのクレオに「突然、ある男が自分を求めている」と知らされるまで、あと数日。
 それが“大事件”に発展するきっかけになることを、本人はまだ想像だにしていなかった。
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