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17話
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土下座の結末
翌日、クレオが朝一番に商会へ行くと、入り口には見慣れない高級馬車が止まっていた。まるで主張するように大きな紋章が描かれている。それはブラック公爵家の紋章だ。
どうやら、公爵自身が出向いてきたらしい。
従業員が「どう対応するか?」と慌てた様子で駆け寄ってくるが、クレオは困ったように苦笑しながら言う。
「とりあえず、応接室に通して。――でも、先に言っておくけど、どんな土下座をされようと、うちは婚約の話は受けませんし、融資も簡単にはしませんよ」
「承知しました……」
そして数分後。
パステル商会の応接室には、威厳を漂わせようと必死な中年男性――ブラック公爵と、その取り巻きが控えていた。
クレオが入室すると、公爵は“公爵らしい堂々とした口調”で、説得を始める。
「パステル商会のクレオ嬢とやら。私はブラック公爵だ。今回、直接お伺いしたのは、そなたの誤解を解き、改めてブラック家との婚姻について協議したく思ったからだ」
――“誤解”?
クレオは呆れた表情を浮かべる。
公爵は続ける。「カフェが大事な縁談を粗雑に進めてしまったのは確かだが、我々としては真摯にパステル家と結びつきたいのだ。名門であるわが家と、王都最大の商会であるパステル家が力を合わせれば、互いに利益があるだろう」
まるで「協力してやる」というような口ぶりだが、クレオの胸には不快感しか湧かない。
「申し訳ありませんが、公爵様。私どもは“名門”というだけで飛びつくような立場ではありません。そちらの提案するメリットが何かあれば伺いますが……」
「メリット? そなたは“ブラック家”という高貴な血筋に嫁ぐことができるのだぞ? それは十分なメリットではないか!」
「……はあ」
クレオは深く息をつく。
この期に及んで、まだそんな上から目線なのか――。やはり「平民ごときは、名門の後ろ盾が欲しいに違いない」と思っているのだろう。
もちろん、クレオにとってその“高貴な血筋”がどれほどの価値もたないかは言うまでもない。今や時代は、商人が国の経済を支え、貴族にお金を貸すほどになっている。血筋だけで威張れる時代ではない。
「……公爵様、もし私があなたの家に嫁いだとして、何が得られるのですか? ブラック家の財政を立て直すために、私の資金を当てにされるだけではありませんか?」
「そ、それは……多少の融資は必要かもしれんが、名門との縁組はそなたのステータスになるはずだ!」
「私は貴方を“ステータス”で選ぶつもりはありませんし、“名門”に憧れてもいません。商人としての道を歩む気がないなら、そもそも論外です」
クレオの冷淡な口調に、公爵は言葉を詰まらせる。
手詰まりだと悟ったのか、公爵は唐突に床へひざまずき、頭を下げる――まさに“土下座”だ。
「……頼む! 我がブラック家を見捨てないでくれ! 融資さえしてもらえれば……そなたの望む形で契約を結んでやってもいい……!」
まさかの展開に、周囲の取り巻きや商会のスタッフたちも息を呑む。
名門ブラック公爵が、平民商人に対して土下座するなど――これこそ歴史的な“屈辱”だろう。
しかし、クレオの表情は微塵も揺らがない。それどころか、どこか冷めた視線を向けるばかりだ。
「私を脅したり利用しようとした挙句、うまくいかないから頭を下げるのですか。――すみませんが、そういう形の『取引』はできません。商人としても、契約相手を選ぶ自由はありますので」
それだけ言うと、クレオは淡々と踵を返す。
側近たちが慌てて「待ってください!」と声を上げるが、クレオはもう足を止めない。
「……うちとの契約が欲しいなら、立場をわきまえて正式な手続きを踏んで、相応の担保と条件を示してください。“婚姻”を強要するのは論外です。失礼します」
言い捨てて、クレオは部屋を出て行く。
床に伏したままのブラック公爵は、まるで世界から見放されたかのように肩を震わせていた。
翌日、クレオが朝一番に商会へ行くと、入り口には見慣れない高級馬車が止まっていた。まるで主張するように大きな紋章が描かれている。それはブラック公爵家の紋章だ。
どうやら、公爵自身が出向いてきたらしい。
従業員が「どう対応するか?」と慌てた様子で駆け寄ってくるが、クレオは困ったように苦笑しながら言う。
「とりあえず、応接室に通して。――でも、先に言っておくけど、どんな土下座をされようと、うちは婚約の話は受けませんし、融資も簡単にはしませんよ」
「承知しました……」
そして数分後。
パステル商会の応接室には、威厳を漂わせようと必死な中年男性――ブラック公爵と、その取り巻きが控えていた。
クレオが入室すると、公爵は“公爵らしい堂々とした口調”で、説得を始める。
「パステル商会のクレオ嬢とやら。私はブラック公爵だ。今回、直接お伺いしたのは、そなたの誤解を解き、改めてブラック家との婚姻について協議したく思ったからだ」
――“誤解”?
クレオは呆れた表情を浮かべる。
公爵は続ける。「カフェが大事な縁談を粗雑に進めてしまったのは確かだが、我々としては真摯にパステル家と結びつきたいのだ。名門であるわが家と、王都最大の商会であるパステル家が力を合わせれば、互いに利益があるだろう」
まるで「協力してやる」というような口ぶりだが、クレオの胸には不快感しか湧かない。
「申し訳ありませんが、公爵様。私どもは“名門”というだけで飛びつくような立場ではありません。そちらの提案するメリットが何かあれば伺いますが……」
「メリット? そなたは“ブラック家”という高貴な血筋に嫁ぐことができるのだぞ? それは十分なメリットではないか!」
「……はあ」
クレオは深く息をつく。
この期に及んで、まだそんな上から目線なのか――。やはり「平民ごときは、名門の後ろ盾が欲しいに違いない」と思っているのだろう。
もちろん、クレオにとってその“高貴な血筋”がどれほどの価値もたないかは言うまでもない。今や時代は、商人が国の経済を支え、貴族にお金を貸すほどになっている。血筋だけで威張れる時代ではない。
「……公爵様、もし私があなたの家に嫁いだとして、何が得られるのですか? ブラック家の財政を立て直すために、私の資金を当てにされるだけではありませんか?」
「そ、それは……多少の融資は必要かもしれんが、名門との縁組はそなたのステータスになるはずだ!」
「私は貴方を“ステータス”で選ぶつもりはありませんし、“名門”に憧れてもいません。商人としての道を歩む気がないなら、そもそも論外です」
クレオの冷淡な口調に、公爵は言葉を詰まらせる。
手詰まりだと悟ったのか、公爵は唐突に床へひざまずき、頭を下げる――まさに“土下座”だ。
「……頼む! 我がブラック家を見捨てないでくれ! 融資さえしてもらえれば……そなたの望む形で契約を結んでやってもいい……!」
まさかの展開に、周囲の取り巻きや商会のスタッフたちも息を呑む。
名門ブラック公爵が、平民商人に対して土下座するなど――これこそ歴史的な“屈辱”だろう。
しかし、クレオの表情は微塵も揺らがない。それどころか、どこか冷めた視線を向けるばかりだ。
「私を脅したり利用しようとした挙句、うまくいかないから頭を下げるのですか。――すみませんが、そういう形の『取引』はできません。商人としても、契約相手を選ぶ自由はありますので」
それだけ言うと、クレオは淡々と踵を返す。
側近たちが慌てて「待ってください!」と声を上げるが、クレオはもう足を止めない。
「……うちとの契約が欲しいなら、立場をわきまえて正式な手続きを踏んで、相応の担保と条件を示してください。“婚姻”を強要するのは論外です。失礼します」
言い捨てて、クレオは部屋を出て行く。
床に伏したままのブラック公爵は、まるで世界から見放されたかのように肩を震わせていた。
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