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16話
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クレオとココア、笑う
夕刻のパステル商会。
クレオは執務室で書類を読みながら、部下たちの報告を聞いていた。今や王都の大半の商人がブラック家との取引を敬遠し、少数の零細業者だけが飼い殺し状態でしか関われなくなっている。
それらの報告を一通り聞き終えると、クレオは事務机の椅子から立ち上がった。
「なるほど。ブラック家から直接、当主が出向いてくる可能性もある……ね。気が重い話だけど、きっぱり断ればいいだけね」
「そうですね。もう商会としても彼らを相手にする理由はありませんし。融資条件も全然飲んでくれませんでしたし」
「ええ、下手に応じて彼らの負債を被るわけにはいかない。うちの信用にも関わりますから。――引き続き、門前払いで対応しておいて」
部下が出ていった後、ココアがひょいと執務室に顔を出す。
「仕事は順調?」
「まあ、ブラック家のごたごたさえなければ平和そのものですよ。そちらはいかがです? ブレンディ家の新事業、進んでますか?」
「ええ。モカが頑張ってくれてるわ。領地の役人たちを説得して、試験的にハーブ園を拡張し始めたの。近々パステル商会にも見に来てほしいと頼むかも」
「いいですね。現地視察は大好きです。目で見てこそ分かることが多いので」
二人はすでに“共同事業”とも言うべき企画をいくつも並行して進めている。
そんな合間、ココアがふと窓の外を眺めながら呟いた。
「……ブラック家、相当追い詰められているみたいね。さっき届いた噂だと、今にも当主が駆け込みでパステル家に土下座しに行くとかなんとか」
「土下座? わたしなら歓迎しますよ。ちゃんと地べたに頭をこすりつけて謝罪し、借金返済の意志を示すなら、少しは話を聞いてあげてもいいかも。――でも、私は“婚約”の話など金輪際受け入れませんけどね」
「ふふっ、もちろんよ。それにしても、結局あの家は“利用”しか頭にないみたい。私たちを“押さえつけ”られなかったから、今度は“すり寄ろう”としてるんでしょうけど、行き詰まってからでは遅いのに」
クレオは深く頷く。
「こんなことになる前に、もっと誠実に話をしてくれたら、ひょっとしたら融資を検討する余地くらいはあったかもしれないのに」
「そうね。ま、彼らの思い上がりが招いた結果よ。――ああ、そうだ。実は明日、私の友人たちが主催する小さな茶会があって、そこにクレオさんも招待したいの。貴族や商人が混ざる場だけど、すごく気楽な集まりよ」
「へえ、面白そうですね。参加します。商人としても、これからのビジネスパートナー探しにいい機会かもしれませんし」
「ありがとう! では、明日ご一緒しましょう」
二人は楽しそうに微笑み合う。
ブラック家が崩壊寸前という事実は、もはや彼女たちにとって大きな関心事ではなくなっていた。彼女たちの視線は、“新しい時代をどう作るか”という、ずっと先の未来に向けられているのだ。
夕刻のパステル商会。
クレオは執務室で書類を読みながら、部下たちの報告を聞いていた。今や王都の大半の商人がブラック家との取引を敬遠し、少数の零細業者だけが飼い殺し状態でしか関われなくなっている。
それらの報告を一通り聞き終えると、クレオは事務机の椅子から立ち上がった。
「なるほど。ブラック家から直接、当主が出向いてくる可能性もある……ね。気が重い話だけど、きっぱり断ればいいだけね」
「そうですね。もう商会としても彼らを相手にする理由はありませんし。融資条件も全然飲んでくれませんでしたし」
「ええ、下手に応じて彼らの負債を被るわけにはいかない。うちの信用にも関わりますから。――引き続き、門前払いで対応しておいて」
部下が出ていった後、ココアがひょいと執務室に顔を出す。
「仕事は順調?」
「まあ、ブラック家のごたごたさえなければ平和そのものですよ。そちらはいかがです? ブレンディ家の新事業、進んでますか?」
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二人はすでに“共同事業”とも言うべき企画をいくつも並行して進めている。
そんな合間、ココアがふと窓の外を眺めながら呟いた。
「……ブラック家、相当追い詰められているみたいね。さっき届いた噂だと、今にも当主が駆け込みでパステル家に土下座しに行くとかなんとか」
「土下座? わたしなら歓迎しますよ。ちゃんと地べたに頭をこすりつけて謝罪し、借金返済の意志を示すなら、少しは話を聞いてあげてもいいかも。――でも、私は“婚約”の話など金輪際受け入れませんけどね」
「ふふっ、もちろんよ。それにしても、結局あの家は“利用”しか頭にないみたい。私たちを“押さえつけ”られなかったから、今度は“すり寄ろう”としてるんでしょうけど、行き詰まってからでは遅いのに」
クレオは深く頷く。
「こんなことになる前に、もっと誠実に話をしてくれたら、ひょっとしたら融資を検討する余地くらいはあったかもしれないのに」
「そうね。ま、彼らの思い上がりが招いた結果よ。――ああ、そうだ。実は明日、私の友人たちが主催する小さな茶会があって、そこにクレオさんも招待したいの。貴族や商人が混ざる場だけど、すごく気楽な集まりよ」
「へえ、面白そうですね。参加します。商人としても、これからのビジネスパートナー探しにいい機会かもしれませんし」
「ありがとう! では、明日ご一緒しましょう」
二人は楽しそうに微笑み合う。
ブラック家が崩壊寸前という事実は、もはや彼女たちにとって大きな関心事ではなくなっていた。彼女たちの視線は、“新しい時代をどう作るか”という、ずっと先の未来に向けられているのだ。
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