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第4章 ――貴族令嬢と王室の来訪――
15話
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朝食と父公爵との会話
私が着替えを終え、髪型を整えた頃、朝食の時間になった。大広間ではアーデルハイド家の当主である父がすでに席についている。母は体調を崩して実家へ静養に行っており、今は屋敷にいない。私には兄妹はいないため、基本的にこの屋敷では父と私が“家族”という形だ。
「おはようございます、お父様。今日はいよいよ使者がお見えになるのね」
私は軽く会釈をして席に着く。父は厳格そうな雰囲気を持つ男性だが、レイラとしての記憶では、基本的に娘思いの優しい人だった。アーデルハイド家の公爵として、領内の管理や国政への参加など多忙を極めるが、今回の件も「レイラが言い出したビンテージワインの話がどうなるか楽しみだ」と前向きに取り組んでくれている。
「おはよう、レイラ。そうだ、午前中に国王陛下の使者がおいでになる。例の30年熟成ワインについて、詳しく話を聞きたいということだな」
父公爵は落ち着いた声で答える。彼は銀色に近い髪をオールバックにまとめ、ひげをきちんと整えている。部下たちからは“公爵閣下”と呼ばれ、畏怖される存在でもあるが、私にとってはやはり父親という安心できる存在だ。
「はい。私も少し同席して、ワインの話をうかがおうと思います。お父様、よろしいかしら?」
「もちろんだ。もともとお前が、領内の秘蔵ワインに興味を持ってくれたことがきっかけなのだからな。むしろ、一緒に話を聞いてもらったほうが心強い」
私がうなずくと、マーガレットや召使いたちが手際よく朝食を運んでくれる。ホカホカのパンや、香草を使ったスープ、そして新鮮なサラダ。さらに温かい紅茶を添えて、簡素ながら品のある食事だ。
父はパンにジャムを塗りながら、ちらりと私を見やる。そして、少し躊躇いがちに口を開いた。
「レイラ……お前、婚約破棄の件は本当に平気か? 王太子からあんな形で言われたというのに、少しも塞ぎ込んでいないように見える」
「ええ、大丈夫よ。むしろ気が楽になったわ。お父様だって知ってるでしょう? 私、王宮のしきたりとか、そういうのにあまり向いていないって」
正直なところ、父は王家とのつながりを深めるために私を婚約させたわけではない。レイラの家柄的にも、王太子が「良い家柄の令嬢と結婚する」という政略的な話が先行していただけで、“恋愛”がなかったのは事実だ。だからこそ、「破棄されたのは残念だが、娘の気持ちを最優先に考えてやりたい」と思ってくれているのだろう。
「まあ、お前がそう言うならいい。近頃は随分と積極的に領地のことを勉強していると聞くし、それはそれでありがたいことだ。……王太子が後悔しようとするまいと、アーデルハイド家にはあまり関係のない話だからな」
父の口調には、わずかな皮肉が含まれているように思えた。王太子サイドが焦り始めているという噂は耳に入っているのかもしれない。私としてはあくまで無関心を貫いているが、父にとっては「娘をぞんざいに扱った」王太子に対して少し不快感を抱いているのだろう。
私はパンをかじりながら、ゆるく肩をすくめてみせる。
「お父様、そんなことよりも、今はワインの話を進めましょう。先日、ぶどう園や市場を見てきたんだけど、うちの領地にはまだまだ面白い可能性がありそうなの。いろいろ話を聞いてアイデアも浮かんだし、ワインづくりだって将来さらに発展させられるんじゃないかって思うわ」
「ほう……お前がそこまで言うとは、ちょっと意外だな。今まではあまり興味を示さなかったのに」
「前世から……いえ、なんでもないわ。とにかくいろいろ考えが変わったの。それに、領主の娘としても、領民の生活や産業に目を向けるのは大事なことだもの」
父は静かにうなずきながらスープを口に運ぶ。私としては、自分が“転生者”であることをわざわざ打ち明けるつもりはない。ただ、これからも前世の知識や発想を使って、アーデルハイド家をもっと豊かにしようと考えている。私が勝手に進めるわけにはいかないが、父には私の意見を聞く柔軟性があるし、きっと味方になってくれるだろう。
「いいだろう、レイラ。王室の使者との面談が終わったら、改めてお前のアイデアを聞かせてくれ。公爵家としても、領地をより良くする策があるなら積極的に取り入れたいからな」
「ありがとう、お父様。じゃあ、そうさせてもらうわ」
朝食を終える頃には、私の心は自然と高揚していた。王室の使者が来るということは、単にビンテージワインの話だけでなく、アーデルハイド家が国の政策や外交に関わる入り口にもなる。もしうまくいけば、私が提案する新しい試み(ワイン以外のジュース商品や、領地産の特産品の広報など)も国王陛下の耳に入り、さらに話が広がるかもしれない。
婚約破棄なんてちっぽけな出来事――そう確信しつつ、私は急いで部屋に戻り、使者を迎える準備を整えるのだった。
私が着替えを終え、髪型を整えた頃、朝食の時間になった。大広間ではアーデルハイド家の当主である父がすでに席についている。母は体調を崩して実家へ静養に行っており、今は屋敷にいない。私には兄妹はいないため、基本的にこの屋敷では父と私が“家族”という形だ。
「おはようございます、お父様。今日はいよいよ使者がお見えになるのね」
私は軽く会釈をして席に着く。父は厳格そうな雰囲気を持つ男性だが、レイラとしての記憶では、基本的に娘思いの優しい人だった。アーデルハイド家の公爵として、領内の管理や国政への参加など多忙を極めるが、今回の件も「レイラが言い出したビンテージワインの話がどうなるか楽しみだ」と前向きに取り組んでくれている。
「おはよう、レイラ。そうだ、午前中に国王陛下の使者がおいでになる。例の30年熟成ワインについて、詳しく話を聞きたいということだな」
父公爵は落ち着いた声で答える。彼は銀色に近い髪をオールバックにまとめ、ひげをきちんと整えている。部下たちからは“公爵閣下”と呼ばれ、畏怖される存在でもあるが、私にとってはやはり父親という安心できる存在だ。
「はい。私も少し同席して、ワインの話をうかがおうと思います。お父様、よろしいかしら?」
「もちろんだ。もともとお前が、領内の秘蔵ワインに興味を持ってくれたことがきっかけなのだからな。むしろ、一緒に話を聞いてもらったほうが心強い」
私がうなずくと、マーガレットや召使いたちが手際よく朝食を運んでくれる。ホカホカのパンや、香草を使ったスープ、そして新鮮なサラダ。さらに温かい紅茶を添えて、簡素ながら品のある食事だ。
父はパンにジャムを塗りながら、ちらりと私を見やる。そして、少し躊躇いがちに口を開いた。
「レイラ……お前、婚約破棄の件は本当に平気か? 王太子からあんな形で言われたというのに、少しも塞ぎ込んでいないように見える」
「ええ、大丈夫よ。むしろ気が楽になったわ。お父様だって知ってるでしょう? 私、王宮のしきたりとか、そういうのにあまり向いていないって」
正直なところ、父は王家とのつながりを深めるために私を婚約させたわけではない。レイラの家柄的にも、王太子が「良い家柄の令嬢と結婚する」という政略的な話が先行していただけで、“恋愛”がなかったのは事実だ。だからこそ、「破棄されたのは残念だが、娘の気持ちを最優先に考えてやりたい」と思ってくれているのだろう。
「まあ、お前がそう言うならいい。近頃は随分と積極的に領地のことを勉強していると聞くし、それはそれでありがたいことだ。……王太子が後悔しようとするまいと、アーデルハイド家にはあまり関係のない話だからな」
父の口調には、わずかな皮肉が含まれているように思えた。王太子サイドが焦り始めているという噂は耳に入っているのかもしれない。私としてはあくまで無関心を貫いているが、父にとっては「娘をぞんざいに扱った」王太子に対して少し不快感を抱いているのだろう。
私はパンをかじりながら、ゆるく肩をすくめてみせる。
「お父様、そんなことよりも、今はワインの話を進めましょう。先日、ぶどう園や市場を見てきたんだけど、うちの領地にはまだまだ面白い可能性がありそうなの。いろいろ話を聞いてアイデアも浮かんだし、ワインづくりだって将来さらに発展させられるんじゃないかって思うわ」
「ほう……お前がそこまで言うとは、ちょっと意外だな。今まではあまり興味を示さなかったのに」
「前世から……いえ、なんでもないわ。とにかくいろいろ考えが変わったの。それに、領主の娘としても、領民の生活や産業に目を向けるのは大事なことだもの」
父は静かにうなずきながらスープを口に運ぶ。私としては、自分が“転生者”であることをわざわざ打ち明けるつもりはない。ただ、これからも前世の知識や発想を使って、アーデルハイド家をもっと豊かにしようと考えている。私が勝手に進めるわけにはいかないが、父には私の意見を聞く柔軟性があるし、きっと味方になってくれるだろう。
「いいだろう、レイラ。王室の使者との面談が終わったら、改めてお前のアイデアを聞かせてくれ。公爵家としても、領地をより良くする策があるなら積極的に取り入れたいからな」
「ありがとう、お父様。じゃあ、そうさせてもらうわ」
朝食を終える頃には、私の心は自然と高揚していた。王室の使者が来るということは、単にビンテージワインの話だけでなく、アーデルハイド家が国の政策や外交に関わる入り口にもなる。もしうまくいけば、私が提案する新しい試み(ワイン以外のジュース商品や、領地産の特産品の広報など)も国王陛下の耳に入り、さらに話が広がるかもしれない。
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