14 / 27
第4章 ――貴族令嬢と王室の来訪――
14話
しおりを挟む
アーデルハイド公爵家の屋敷に、朝日がゆっくりと差し込み始める。光が射す窓辺で、侍女のマーガレットがカーテンを開けながら私に声をかけた。
「お嬢様、昨晩はよくお休みになれましたか? 本日は早めにご用意いただいたほうがよろしいかと……。国王陛下の使者が、午前中にこちらへいらっしゃる予定だそうです」
「ええ、わかってるわ。昨日のうちに執事から話を聞いたから」
私はベッドから起き上がり、ひとつ伸びをする。柔らかな寝衣の裾がふわりと揺れ、朝の空気が肌をくすぐる。まだ眠気は多少残っているが、これから今日は大切な“来訪”があるのだ。なぜなら王室からの使者が、この屋敷へ直々にやって来る――その用件はもちろん、“ワイン”のことである。
前にぶどう園を訪れたとき、ポーランドたちから聞いた話によれば、今年のぶどうの出来は素晴らしく、最高のワインが作れそうだという。さらに私が“領内の秘蔵ビンテージワインを王室に特別献上してはどうか”と提案した経緯もあって、国王陛下は大変興味を示したらしい。結果、「話を聞きたい」と使者が派遣される運びとなったのだ。
もっとも、私自身はそんな大げさなことになるとは思っていなかった。公爵家の長である父(アーデルハイド公爵)が正式に動き出したことで、まさか王宮から使者が来るほどの話へ発展するとは……。だが、転生してすでに把握していたとおり、この国にとってアーデルハイド家のワインは特別な意味を持っている。そう、国の外交や貴族社会のステータスを左右し得るほどの高い評価を得ているのだ。
「婚約破棄されて落ち込んでる暇なんか、最初からなかったわね」
軽く苦笑いしながら、私は朝の身支度を始める。マーガレットは早速用意しておいたドレスを見せてくれた。それは淡いミントグリーンを基調とした上品なもので、やや襟元が高めのデザイン。私が先日市場で購入したリボンをさりげなくあしらい、袖口とウエスト部分が華やかに演出されている。
「お嬢様がお買いになったレースやリボンを、仕立て担当に相談して少しだけ加工してもらいました。いかがでしょう? 王室の使者をお迎えするのに、失礼のないようにとのことで……」
「あら、とても素敵じゃない。ファビアンさんも言ってたとおり、ちょっとだけ深い色味を差し込むと映えるわね。ありがとう、マーガレット」
私はドレスを鏡の前で合わせ、にっこりと微笑む。まるで自分が小さなパーティへ出る前のような気分だ。もっとも、実際には公式の大舞踏会などではなく、あくまで“屋敷で王室の使者と面談する”のが今日の予定。だが、公爵令嬢として迎え入れる以上、それなりの装いは大切だろう。
「お嬢様、昨晩はよくお休みになれましたか? 本日は早めにご用意いただいたほうがよろしいかと……。国王陛下の使者が、午前中にこちらへいらっしゃる予定だそうです」
「ええ、わかってるわ。昨日のうちに執事から話を聞いたから」
私はベッドから起き上がり、ひとつ伸びをする。柔らかな寝衣の裾がふわりと揺れ、朝の空気が肌をくすぐる。まだ眠気は多少残っているが、これから今日は大切な“来訪”があるのだ。なぜなら王室からの使者が、この屋敷へ直々にやって来る――その用件はもちろん、“ワイン”のことである。
前にぶどう園を訪れたとき、ポーランドたちから聞いた話によれば、今年のぶどうの出来は素晴らしく、最高のワインが作れそうだという。さらに私が“領内の秘蔵ビンテージワインを王室に特別献上してはどうか”と提案した経緯もあって、国王陛下は大変興味を示したらしい。結果、「話を聞きたい」と使者が派遣される運びとなったのだ。
もっとも、私自身はそんな大げさなことになるとは思っていなかった。公爵家の長である父(アーデルハイド公爵)が正式に動き出したことで、まさか王宮から使者が来るほどの話へ発展するとは……。だが、転生してすでに把握していたとおり、この国にとってアーデルハイド家のワインは特別な意味を持っている。そう、国の外交や貴族社会のステータスを左右し得るほどの高い評価を得ているのだ。
「婚約破棄されて落ち込んでる暇なんか、最初からなかったわね」
軽く苦笑いしながら、私は朝の身支度を始める。マーガレットは早速用意しておいたドレスを見せてくれた。それは淡いミントグリーンを基調とした上品なもので、やや襟元が高めのデザイン。私が先日市場で購入したリボンをさりげなくあしらい、袖口とウエスト部分が華やかに演出されている。
「お嬢様がお買いになったレースやリボンを、仕立て担当に相談して少しだけ加工してもらいました。いかがでしょう? 王室の使者をお迎えするのに、失礼のないようにとのことで……」
「あら、とても素敵じゃない。ファビアンさんも言ってたとおり、ちょっとだけ深い色味を差し込むと映えるわね。ありがとう、マーガレット」
私はドレスを鏡の前で合わせ、にっこりと微笑む。まるで自分が小さなパーティへ出る前のような気分だ。もっとも、実際には公式の大舞踏会などではなく、あくまで“屋敷で王室の使者と面談する”のが今日の予定。だが、公爵令嬢として迎え入れる以上、それなりの装いは大切だろう。
0
あなたにおすすめの小説
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します
佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。
セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。
婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。
君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢マリオンの婚約者アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる