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第10話 子どもたちの変化/小さな笑顔
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第10話 子どもたちの変化/小さな笑顔
孤児院に静かな朝が訪れた。
昨日の緊張と動揺の余韻は、まだリオナの胸に少し残っていた。
けれど、窓の外から聞こえる小さな声が、その不安を溶かしていく。
「リオナ、見て! ここ、土がふかふか!」
「ぼくのところも! 昨日、団長が耕してくれたとこ!」
「今日も畑やる?」
子どもたち三人が庭を覗き込みながら、はしゃぐように笑っていた。
リオナは微笑みながら玄関に向かう。
昨日、元婚約者ライナルトが帰ったあと、
子どもたちはまるで嵐が過ぎた後のように落ち着かずに彼女の周りに集まった。
怖かったのか。
奪われると思ったのか。
その理由は、朝になってようやくわかった。
ティムがリオナの手をぎゅっと握る。
「リオナ……きょうも、いる?」
「まあ、もちろんおりますわ。どこにもいきません」
ティムは安心した顔で、胸を撫で下ろした。
ミラも、そばに寄って小さく呟く。
「……昨日の人……リオナを連れて行くのかと思った」
エマも、少し涙ぐんだ目でリオナのスカートをつまむ。
「リオナいなくなったら、やだ……」
リオナは一人ひとりの頭を優しく撫でた。
「大丈夫ですわ。わたくしは皆さんと一緒に生きていくと決めましたの。心配はいりません」
その穏やかな声に、子どもたちはようやくいつもの表情に戻る。
カイル団長が詰め所の扉を開け、あくびをしながら歩いてきた。
「おう、朝から元気だな、お前ら」
子どもたちがばっとカイルの方を向き、わらわらと駆け寄っていく。
「団長! 今日も畑やろ!」
「やりたい! いっぱいやる!」
「ルークも来る?」
声をかけられたルークは、戸口の影に隠れたまま、そっと顔を覗かせる。
以前のような怯えた目ではない。
まだ不安は残るものの、興味が勝っているような表情だ。
リオナは静かに微笑んだ。
「ルーク。無理はしなくてよいのです。来たいと思ったら、ゆっくりいらっしゃい」
ルークは迷うようにしばらく立ち止まり――
やがて、小さく頷いて庭へ歩いていった。
その姿に、メアリが目を潤ませる。
「お嬢様……ルークが、自分から……」
「ええ。昨日とは大違いですわね」
リオナは誇らしげに言う。
そんな彼女を、カイルは腕を組んで横目でちらりと見た。
「子どもってのは、環境と大人次第で変わる。昨日のあんたの態度を見てりゃ、そりゃ安心するだろうさ」
「まあ……団長に褒められる日が来るとは思いませんでしたわ」
「褒めてねえよ」
わざとそっぽを向くカイルだが、耳の先だけ少し赤い。
リオナはくすりと笑った。
庭に目を向けると、ティムとミラが昨日よりも元気な動きで鍬を振っている。
「リオナ、見て! ここ、草ぜんぶ取れた!」
「ええ、とても綺麗ですわ。あなたたちのおかげです」
子どもたちは褒められるのが嬉しいのか、頬を赤らめる。
エマは花壇の近くにしゃがみ込み、小声で呟いた。
「……ここ、お花……咲くかな……?」
リオナはそばにしゃがんで答える。
「きっと咲きますわ。エマが優しくお世話したら、すぐに笑顔を見せてくれます」
「……ほんと?」
「ええ。本当です」
エマは花壇の土を撫で、小さく笑った。
ルークは、遠巻きながらも畑を眺めていて、
勇気を振り絞るように一歩だけ前へ進む。
ティムが振り返って、突然手を引いた。
「ルーク! いっしょにやろ!」
「……び、びっくりする……」
「ごめん! でも、いっしょにやろ?」
ルークはしばし固まったが――やがて、そっとティムの隣に並んだ。
カイルがその様子を見て、満足げに頷いた。
「……子どもが笑うのは、いいもんだな」
リオナは小さく微笑み、そっと言い返す。
「ええ。わたくしも……この光景を見ると、胸が温かくなりますわ」
庭には、
昨日まではなかった“明るさ”が満ちていた。
それは、畑の土がふかふかになったからではなく、
子どもたちの心が、少しずつ柔らかくなったから。
リオナは空を見上げ、静かに息を吸った。
(そう……これが、わたくしのやりたかったこと)
孤児院を立て直すこと。
子どもたちに安心を与えること。
そして――捨てられた自分自身の心をも立て直すこと。
リオナは手を胸に当て、そっと呟いた。
「これからもっと……笑顔にして差し上げますわ」
この日、
孤児院の庭に咲いたのは、
土の匂いと汗の中に灯る――はじめての小さな笑顔だった。
孤児院に静かな朝が訪れた。
昨日の緊張と動揺の余韻は、まだリオナの胸に少し残っていた。
けれど、窓の外から聞こえる小さな声が、その不安を溶かしていく。
「リオナ、見て! ここ、土がふかふか!」
「ぼくのところも! 昨日、団長が耕してくれたとこ!」
「今日も畑やる?」
子どもたち三人が庭を覗き込みながら、はしゃぐように笑っていた。
リオナは微笑みながら玄関に向かう。
昨日、元婚約者ライナルトが帰ったあと、
子どもたちはまるで嵐が過ぎた後のように落ち着かずに彼女の周りに集まった。
怖かったのか。
奪われると思ったのか。
その理由は、朝になってようやくわかった。
ティムがリオナの手をぎゅっと握る。
「リオナ……きょうも、いる?」
「まあ、もちろんおりますわ。どこにもいきません」
ティムは安心した顔で、胸を撫で下ろした。
ミラも、そばに寄って小さく呟く。
「……昨日の人……リオナを連れて行くのかと思った」
エマも、少し涙ぐんだ目でリオナのスカートをつまむ。
「リオナいなくなったら、やだ……」
リオナは一人ひとりの頭を優しく撫でた。
「大丈夫ですわ。わたくしは皆さんと一緒に生きていくと決めましたの。心配はいりません」
その穏やかな声に、子どもたちはようやくいつもの表情に戻る。
カイル団長が詰め所の扉を開け、あくびをしながら歩いてきた。
「おう、朝から元気だな、お前ら」
子どもたちがばっとカイルの方を向き、わらわらと駆け寄っていく。
「団長! 今日も畑やろ!」
「やりたい! いっぱいやる!」
「ルークも来る?」
声をかけられたルークは、戸口の影に隠れたまま、そっと顔を覗かせる。
以前のような怯えた目ではない。
まだ不安は残るものの、興味が勝っているような表情だ。
リオナは静かに微笑んだ。
「ルーク。無理はしなくてよいのです。来たいと思ったら、ゆっくりいらっしゃい」
ルークは迷うようにしばらく立ち止まり――
やがて、小さく頷いて庭へ歩いていった。
その姿に、メアリが目を潤ませる。
「お嬢様……ルークが、自分から……」
「ええ。昨日とは大違いですわね」
リオナは誇らしげに言う。
そんな彼女を、カイルは腕を組んで横目でちらりと見た。
「子どもってのは、環境と大人次第で変わる。昨日のあんたの態度を見てりゃ、そりゃ安心するだろうさ」
「まあ……団長に褒められる日が来るとは思いませんでしたわ」
「褒めてねえよ」
わざとそっぽを向くカイルだが、耳の先だけ少し赤い。
リオナはくすりと笑った。
庭に目を向けると、ティムとミラが昨日よりも元気な動きで鍬を振っている。
「リオナ、見て! ここ、草ぜんぶ取れた!」
「ええ、とても綺麗ですわ。あなたたちのおかげです」
子どもたちは褒められるのが嬉しいのか、頬を赤らめる。
エマは花壇の近くにしゃがみ込み、小声で呟いた。
「……ここ、お花……咲くかな……?」
リオナはそばにしゃがんで答える。
「きっと咲きますわ。エマが優しくお世話したら、すぐに笑顔を見せてくれます」
「……ほんと?」
「ええ。本当です」
エマは花壇の土を撫で、小さく笑った。
ルークは、遠巻きながらも畑を眺めていて、
勇気を振り絞るように一歩だけ前へ進む。
ティムが振り返って、突然手を引いた。
「ルーク! いっしょにやろ!」
「……び、びっくりする……」
「ごめん! でも、いっしょにやろ?」
ルークはしばし固まったが――やがて、そっとティムの隣に並んだ。
カイルがその様子を見て、満足げに頷いた。
「……子どもが笑うのは、いいもんだな」
リオナは小さく微笑み、そっと言い返す。
「ええ。わたくしも……この光景を見ると、胸が温かくなりますわ」
庭には、
昨日まではなかった“明るさ”が満ちていた。
それは、畑の土がふかふかになったからではなく、
子どもたちの心が、少しずつ柔らかくなったから。
リオナは空を見上げ、静かに息を吸った。
(そう……これが、わたくしのやりたかったこと)
孤児院を立て直すこと。
子どもたちに安心を与えること。
そして――捨てられた自分自身の心をも立て直すこと。
リオナは手を胸に当て、そっと呟いた。
「これからもっと……笑顔にして差し上げますわ」
この日、
孤児院の庭に咲いたのは、
土の匂いと汗の中に灯る――はじめての小さな笑顔だった。
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