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第3章:義妹と王太子の破滅
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廃嫡宣告、そして王宮の混乱
結局、王太子フィリップへの廃嫡宣告がくだったのは、最初の評議からそう日を置かない時期でした。後々語り草になるほどの“急展開”と人々は言っています。国王陛下が「これ以上、お前を王太子に据えるわけにはいかない」と言い渡したのだそうです。既にマリアンヌの一件で王家の面子は丸潰れですし、フィリップ自身も皇族の資質を疑われるような失策を重ねてきた――それが決定打となったのでしょう。
わたくしは廃嫡宣告があったと聞いた日の夕方、書斎にこもる父から呼ばれ、詳しい話を教えてもらいました。王宮の評議に深く関わる政治家の一人が、父に密かに情報を伝えてきたのです。父はその書簡を見せながら、渋い顔で呟きます。
「……リュシエンヌ、正直に言えば、わたしは少し慮っていた。お前が王太子との縁を一方的に切られた形になっているのであれば、王宮に恨みを抱くこともあるだろうと。だが、お前は今、ルーアン公爵との婚約を控えている。気苦労はあるかもしれないが、これで王家との因縁にも決着がついたのかもしれないな」
父の言葉に、わたくしは曖昧に微笑みました。恨みなどほとんど抱いていませんが、もし王太子が今後どうなるかと聞かれれば、わたくしの答えは「知りませんし、知りたくもありません」です。わたくしが意図的に復讐を仕掛けたわけでもないのに、彼は勝手に転落していきました。
聞けばマリアンヌも、妊娠騒動が嘘だとバレたのちに評判を地に堕とし、「お前を王太子妃に迎えることはできない」と国王から直々に言われたそうです。今や彼女は王太子の婚約者どころか、“厄介者”として王宮で疎まれているとか。表向きにはまだ完全に放逐されていないらしいのですが、日に日に立場は悪化しているそうで……。
そんな情報が公爵家に届いた数日後、マリアンヌ自身がわたくしの屋敷を訪ねてきたという報せが入りました。わたくしがヴァレンティン公爵と打ち合わせをしている最中、玄関先に突然現れたらしく、使用人が慌てて対応していたのです。
「リュシエンヌ様、どうなさいますか? マリアンヌ様は面会を強く求めておられますが……」
わたくしは侍女の言葉に軽く眉をひそめました。今になって一体、何のつもりでしょう。そもそも彼女は既に“王太子妃候補”として王宮に居を移していましたし、こうしてわざわざ顔を出す理由が見当たりません。
すると隣で話をしていたヴァレンティン公爵が、わたくしに向かって問いかけます。
「どうする? 追い返してもいいが」
彼の言葉に、わたくしは少し考えました。正直、会う価値などないと思います。彼女が何を言ってくるのか想像もつきませんし、どうせ取り乱して責任転嫁をしたり、泣きついたりするだけでしょう。わたくしとしては、それを受け止める義理はありません。
けれど、もしかしたら父に迷惑をかける可能性もあるし、ここで一度決着をつけておくのも悪くないかもしれない……。そう思い、わたくしはジャンヌに言いました。
「応接室に通してあげて。わたくしが行くと伝えてちょうだい。――それで、ヴァレンティン公爵閣下、もし時間がおありなら同席していただけませんか? 何を言われるか分かりませんので」
わたくしがそう申し出ると、公爵は少しだけ意外そうに眉を上げましたが、すぐに頷きました。
「いいだろう。オレも興味がある。“王太子妃になりそこねた令嬢”がどんな戯言を口にするのか」
冷ややかな口調ではありましたが、その底に潜む軽い好奇心を感じ取れます。ヴァレンティン公爵はかねてより、王太子がどんな形で転落するかを見定めていましたから、関係者たるマリアンヌの言動も何かの参考になるのかもしれません。
結局、王太子フィリップへの廃嫡宣告がくだったのは、最初の評議からそう日を置かない時期でした。後々語り草になるほどの“急展開”と人々は言っています。国王陛下が「これ以上、お前を王太子に据えるわけにはいかない」と言い渡したのだそうです。既にマリアンヌの一件で王家の面子は丸潰れですし、フィリップ自身も皇族の資質を疑われるような失策を重ねてきた――それが決定打となったのでしょう。
わたくしは廃嫡宣告があったと聞いた日の夕方、書斎にこもる父から呼ばれ、詳しい話を教えてもらいました。王宮の評議に深く関わる政治家の一人が、父に密かに情報を伝えてきたのです。父はその書簡を見せながら、渋い顔で呟きます。
「……リュシエンヌ、正直に言えば、わたしは少し慮っていた。お前が王太子との縁を一方的に切られた形になっているのであれば、王宮に恨みを抱くこともあるだろうと。だが、お前は今、ルーアン公爵との婚約を控えている。気苦労はあるかもしれないが、これで王家との因縁にも決着がついたのかもしれないな」
父の言葉に、わたくしは曖昧に微笑みました。恨みなどほとんど抱いていませんが、もし王太子が今後どうなるかと聞かれれば、わたくしの答えは「知りませんし、知りたくもありません」です。わたくしが意図的に復讐を仕掛けたわけでもないのに、彼は勝手に転落していきました。
聞けばマリアンヌも、妊娠騒動が嘘だとバレたのちに評判を地に堕とし、「お前を王太子妃に迎えることはできない」と国王から直々に言われたそうです。今や彼女は王太子の婚約者どころか、“厄介者”として王宮で疎まれているとか。表向きにはまだ完全に放逐されていないらしいのですが、日に日に立場は悪化しているそうで……。
そんな情報が公爵家に届いた数日後、マリアンヌ自身がわたくしの屋敷を訪ねてきたという報せが入りました。わたくしがヴァレンティン公爵と打ち合わせをしている最中、玄関先に突然現れたらしく、使用人が慌てて対応していたのです。
「リュシエンヌ様、どうなさいますか? マリアンヌ様は面会を強く求めておられますが……」
わたくしは侍女の言葉に軽く眉をひそめました。今になって一体、何のつもりでしょう。そもそも彼女は既に“王太子妃候補”として王宮に居を移していましたし、こうしてわざわざ顔を出す理由が見当たりません。
すると隣で話をしていたヴァレンティン公爵が、わたくしに向かって問いかけます。
「どうする? 追い返してもいいが」
彼の言葉に、わたくしは少し考えました。正直、会う価値などないと思います。彼女が何を言ってくるのか想像もつきませんし、どうせ取り乱して責任転嫁をしたり、泣きついたりするだけでしょう。わたくしとしては、それを受け止める義理はありません。
けれど、もしかしたら父に迷惑をかける可能性もあるし、ここで一度決着をつけておくのも悪くないかもしれない……。そう思い、わたくしはジャンヌに言いました。
「応接室に通してあげて。わたくしが行くと伝えてちょうだい。――それで、ヴァレンティン公爵閣下、もし時間がおありなら同席していただけませんか? 何を言われるか分かりませんので」
わたくしがそう申し出ると、公爵は少しだけ意外そうに眉を上げましたが、すぐに頷きました。
「いいだろう。オレも興味がある。“王太子妃になりそこねた令嬢”がどんな戯言を口にするのか」
冷ややかな口調ではありましたが、その底に潜む軽い好奇心を感じ取れます。ヴァレンティン公爵はかねてより、王太子がどんな形で転落するかを見定めていましたから、関係者たるマリアンヌの言動も何かの参考になるのかもしれません。
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