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【α嫌いのΩ】3.警戒中の、クリスマス
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まだ湯気が上がっている見るからに具沢山のホワイトシチューの器を手に持ち、小さく掬って口に入れると、自然に如月の表情が和らいだ。ゆっくりと噛み締める。
もうひと匙。
もうひと匙。
きれいにトーストされた、厚切りのバタールを小さく齧ると、自然に笑みが溢れた。
いつもは最後に回るサラダも、コールスローなら食べられる。
会社であることを忘れてほっこりと食事モードになり、
「おいしい」
ほわ、と幸せそうにもくもくと口を動かしながら自分を見上げる如月の表情を見た途端、御堂は完全に毒気を抜かれてしまった。
「お前…」
どうして、こんなお子さまに、自分はこんなに惹かれるのだろう。
頭にいっぱいになった小言もあっさりと白紙になってしまい、こめかみに指をやりながら、御堂は如月の正面に座ると、シチューの器をもう一つ如月の前に置いた。
「こっちも食える?」
「御堂さんのでしょ」
「いいから。食えるの食えないの?」
「食べれる」
「なら、食っちまえ」
最後のひと匙を掬い終わった器とまだ暖かいシチューが入った器を入れ替えてやる。
「ありがとう…。いただきます」
のんびりと二人分のデザートまで皿と器を綺麗にすると、
「ごちそうさまでした…」
手を合わせて如月は満足そうに食事を終えた。
時計は20:45。
「キャラメルラテもあるけど、飲む?」
「甘いやつ?」
「激甘」
「飲む」
如月仕様にキャラメルソースを相当量増量した、コーヒーはストレートで飲む御堂にとってはラテなのかキャラメルドリンクなのかわからないような飲み物が入ったほの温かいカップを渡すと、ありがとう、と如月は素直に受け取って一口飲んだ。
「おいしい」
「…本気で?」
「何で。これにホイップとチョコソーストッピングしてあっても、全然イケる」
「持ってきた俺が聞くのもなんだけど、何飲んでるのか解ってる?」
「キャラメルラテだろ」
「…一応、コーヒーの風味はするのな…」
恐るべし、という表情で御堂は如月を見たが、すぐに時計に視線をやった。
「腹が落ち着いたら、仕上げろよ。日付変わる前に帰るんだろ」
如月が、目を丸くした。
「あ、そうだった」
好きなもの食べると、頭の中がそれでいっぱいになっちゃうんだよな、とぶつぶつ言いながら立ち上がり、パソコンのスリープを解除すると、途端に如月のスイッチが切り替わった。チェアにかけ、キャラメルラテをデスクサイドに置くと、先ほどとは全く別人の表情で画面を静かに見つめ始めた。
ととととん、と、ととん。
キーボードを押す、独特の音が部屋に少しだけ響く。
時折、如月が小さく何かを呟いているが、何を言っているのかまでは御堂には届かない。
ととととととととん、ととん、とん。
エンターキーも文字キーも全部が同じ力加減で、耳障りの良いタッチ音がしばらく続いた。
御堂は何となくその様子を見ながら、ローテーブルの上を片付け始めた。と言っても、テイクアウト用の紙食器なので、小さく畳んで匂いが出ないように袋に入れるだけだ。一緒に持ってきた携帯用のウエットティッシュでざっとテーブルを拭き、それも袋に放り込む。
とととととととととととんとととん、ととん、と、ととん。
少しずつデスクの書類の束が減っていく。
結局、チェックまで含め、如月が終了を宣言したのは23時を少し回ったところだった。
「あ゛ーーーーーー…疲れた…」
パソコンの電源を落とし、ばったりとデスクに伸びながら、如月が低く唸った。
むくりと起き上がり、資料をまとめて引き出しにしまって鍵をかけると、
「…ま、これで、年始の佐々と京都の仕事は半分くらいにはなるか…」
小さな独り言は、背後にいた御堂の耳に届いていた。恐らく、御堂が後ろに立っている事に気がついていないだろう。
(このギャップ。…こういうところ、いいんだよな)
御堂には普段見せない表情だ。いつもよりもやけに年長に見える表情は、
いつもの彼とはまるで違う。
「帰れるか?」
「へ?わ!そんなとこに…」
思った通りだ。やはり、御堂の存在すら忘れている。
「初詣?今から?」
「着く頃にはギリギリかな。駐車場から少し歩くから」
送る送らないのいつものやりとりの末、渋々如月が折れて車がスタートすると、御堂が早速提案をして来た。
「…や、いい!」
「いいだろ、行こう。そんなに遠くない」
言いながら、御堂は左折をして駐車場に入った。
「ちょ…っ!」
「下心は置いてきたから。初詣だけ。何。怖い?」
ム。
「…怖くなんてない」
「じゃ、いいだろ」
真っ直ぐにじっと瞳を覗き込まれ、今度も数秒で如月が折れた。
「わ…わかった…から!」
ぐ、と両手で御堂の顔を押し返すと、あっさりとその手首を掴まれた。
「冷たい手してんな」
御堂が眉を顰めた。
「その、整いすぎた顔で近づくなっての…」
呟くその耳は、僅かに赤い。
ちらほらと雪が舞う、大晦日の深夜。
引かれる手を振り解くのも忘れ、如月は空を見上げた。下から見上げると、雪が、ちらちらと落ちてくる。
「…ない」
「え?」
「きれいじゃ、ない。虫が落ちてくるみたいで気持ち悪い」
ぷ、と御堂が笑った。
「ロマンチストじゃねーなー」
「…うるっさい!」
周りにも、人が増えてきた。人に触れないように、御堂が如月を引き寄せる。彼にとってはごく自然な行動なのだろう。ふとその顔を見れば、特に表情はなく、前方を見つめている。
人は、どんどん増える。
「わ」
「ん、こっち」
何故、こんなにスマートにエスコートできるんだろう。
不思議に思うほど、御堂の行動は自然で、無駄がない。嫌味もなく、自然体で如月を人混みからうまく守ってくれている。
何、これ。
「ん。寒い?」
顔を覗き込まれ、首を振った。
「大丈夫」
「ほら、もう少し」
「…人が多すぎて、…見えない」
くす、と御堂が笑った。
「かわいいな」
「かわいくない」
「背が」
「…るさいんだよ」
くく。
ベタなやりとりをしていると、向こうでわ、と声が上がった。
「カウントダウン?」
如月が呟くと、
「今年最後か、年明け初の雷、覚悟した。ごめん。先に、謝っとくな」
「は…?」
く、と引かれた顎。
目の前に、銀色。
ふわりと香る、柑橘の。
ちゅ、と頬に、冷たい唇。
向こうで、わあ、と声が上がった。
「明けたな。おめでとう」
耳元で、甘い低音。
「何…」
ちゅ。
反対の頬に、もう一度。
くすぐったくて肩をすくめると、顎を上げていた大きな掌が背中に回り、後ろからきた参拝客から如月を離すようにそっと押した。
何が起こっているのかわからないまま、誘導されるがまま、気がつけば目の前に本堂があった。
「賽銭、ある?」
「…大丈夫…」
お札を、一枚。
そっと箱に入れ、如月は手を合わせた。
年末になってばたついた年は、あっさりと変わってしまった。12月になって突如現れ、恋人でもないのに最近常に自分の隣にいるこの男は、今まで出会ったαとはまるで違っていて、いつの間にか、この距離感が普通になりつつある。
そして、
(それが、嫌じゃないと思い始めてる自分が少し怖い)
そっと眼を開き、隣を見ると、ちょうど御堂も手をおろし、一礼したところだった。
「行くか」
「うん」
やはり、如月を周りから守るように、さりげなく引き寄せ、周りとの間に自分が体を入れる。
「ぼーっとすんな」
人混みを抜けると、御堂はあっさりとその手を離した。少しまばらになった人の間を、ゆっくりと歩く。
「ちょっと待ってて」
ふと御堂が、その場を離れた。
「?」
カップルや、夫婦、子どもを連れた保護者、友達同士。年末、大晦日だけは、こんな時間でも出歩くことが許される。雪はまだちらついている。毎年のことだが、年が明けた、という実感はいまいち感じない。
「寒…」
無意識に手を擦り合わせ、空を見上げると、そっと掌に温かいものが触れた。
「…あつ。…へ?鯛焼き…?」
「焼きたて。そっちが、カスタード、こっちが小倉。どっちがいい?」
「こっち」
「どうぞ」
思わず、如月は熱いくらいのそれを手で包み込んでいた。そう言えば、御堂は夕食を取っていないのだった。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
教科書通りの返事をすると、御堂は鯛焼きを小さく齧った。
「いいね、こういうの」
「ちょっとな」
御堂にならい、がじ、と焼きたての鯛焼きを頭から齧ると、分厚い、ふわふわした皮に、少しだけクリームがついて来た。そういえばこんなふうに屋台で買う鯛焼きは初めてだ。何だかとても嬉しくなり、自分はこう言う経験が少ないのだ、と如月は実感し。
「おいしい…」
手にした鯛焼きがとてもおいしく感じられて、如月は思わず呟いていた。暫く無言で口を動かしていたが、ふと
「天然鯛焼きの店、知ってる?」
御堂を見ると、御堂は不思議そうにこちらを向いた。
「一匹ずつ焼くってやつだっけ?」
御堂の表情は、如月が初めて見るもので、何だか子どものようだった。
「聞いたことはあるけど、食ったことねーな。店があるの?」
「あれも、美味しいよ…今度、一緒に、行く?」
小さな声は、周りの喧騒に掻き消されそうだったが、御堂の耳には届いていた。御堂は嬉しそうに微笑み、
「行く」
最後の一口をぽんと口に入れた。
「コーヒー欲しくなるな…」
「缶でも、いい?」
「え?」
「…自販機、あっちにあった」
如月が歩き始めると、御堂がそれを追いかけた。
人通りが増えてきた、駐車場の入り口の自動販売機。温かいブラックのコーヒーと、ミルクティーを一本ずつ。
ごとごとと音がして、缶が落ちた。
如月がそっとそれを拾い上げ、黙って手渡す。
「キサ?」
怪訝そうに自分を覗き込む、整いすぎている顔を上目遣いに見、
「今年も、よろしく」
如月は小さく年始の挨拶をした。
もうひと匙。
もうひと匙。
きれいにトーストされた、厚切りのバタールを小さく齧ると、自然に笑みが溢れた。
いつもは最後に回るサラダも、コールスローなら食べられる。
会社であることを忘れてほっこりと食事モードになり、
「おいしい」
ほわ、と幸せそうにもくもくと口を動かしながら自分を見上げる如月の表情を見た途端、御堂は完全に毒気を抜かれてしまった。
「お前…」
どうして、こんなお子さまに、自分はこんなに惹かれるのだろう。
頭にいっぱいになった小言もあっさりと白紙になってしまい、こめかみに指をやりながら、御堂は如月の正面に座ると、シチューの器をもう一つ如月の前に置いた。
「こっちも食える?」
「御堂さんのでしょ」
「いいから。食えるの食えないの?」
「食べれる」
「なら、食っちまえ」
最後のひと匙を掬い終わった器とまだ暖かいシチューが入った器を入れ替えてやる。
「ありがとう…。いただきます」
のんびりと二人分のデザートまで皿と器を綺麗にすると、
「ごちそうさまでした…」
手を合わせて如月は満足そうに食事を終えた。
時計は20:45。
「キャラメルラテもあるけど、飲む?」
「甘いやつ?」
「激甘」
「飲む」
如月仕様にキャラメルソースを相当量増量した、コーヒーはストレートで飲む御堂にとってはラテなのかキャラメルドリンクなのかわからないような飲み物が入ったほの温かいカップを渡すと、ありがとう、と如月は素直に受け取って一口飲んだ。
「おいしい」
「…本気で?」
「何で。これにホイップとチョコソーストッピングしてあっても、全然イケる」
「持ってきた俺が聞くのもなんだけど、何飲んでるのか解ってる?」
「キャラメルラテだろ」
「…一応、コーヒーの風味はするのな…」
恐るべし、という表情で御堂は如月を見たが、すぐに時計に視線をやった。
「腹が落ち着いたら、仕上げろよ。日付変わる前に帰るんだろ」
如月が、目を丸くした。
「あ、そうだった」
好きなもの食べると、頭の中がそれでいっぱいになっちゃうんだよな、とぶつぶつ言いながら立ち上がり、パソコンのスリープを解除すると、途端に如月のスイッチが切り替わった。チェアにかけ、キャラメルラテをデスクサイドに置くと、先ほどとは全く別人の表情で画面を静かに見つめ始めた。
ととととん、と、ととん。
キーボードを押す、独特の音が部屋に少しだけ響く。
時折、如月が小さく何かを呟いているが、何を言っているのかまでは御堂には届かない。
ととととととととん、ととん、とん。
エンターキーも文字キーも全部が同じ力加減で、耳障りの良いタッチ音がしばらく続いた。
御堂は何となくその様子を見ながら、ローテーブルの上を片付け始めた。と言っても、テイクアウト用の紙食器なので、小さく畳んで匂いが出ないように袋に入れるだけだ。一緒に持ってきた携帯用のウエットティッシュでざっとテーブルを拭き、それも袋に放り込む。
とととととととととととんとととん、ととん、と、ととん。
少しずつデスクの書類の束が減っていく。
結局、チェックまで含め、如月が終了を宣言したのは23時を少し回ったところだった。
「あ゛ーーーーーー…疲れた…」
パソコンの電源を落とし、ばったりとデスクに伸びながら、如月が低く唸った。
むくりと起き上がり、資料をまとめて引き出しにしまって鍵をかけると、
「…ま、これで、年始の佐々と京都の仕事は半分くらいにはなるか…」
小さな独り言は、背後にいた御堂の耳に届いていた。恐らく、御堂が後ろに立っている事に気がついていないだろう。
(このギャップ。…こういうところ、いいんだよな)
御堂には普段見せない表情だ。いつもよりもやけに年長に見える表情は、
いつもの彼とはまるで違う。
「帰れるか?」
「へ?わ!そんなとこに…」
思った通りだ。やはり、御堂の存在すら忘れている。
「初詣?今から?」
「着く頃にはギリギリかな。駐車場から少し歩くから」
送る送らないのいつものやりとりの末、渋々如月が折れて車がスタートすると、御堂が早速提案をして来た。
「…や、いい!」
「いいだろ、行こう。そんなに遠くない」
言いながら、御堂は左折をして駐車場に入った。
「ちょ…っ!」
「下心は置いてきたから。初詣だけ。何。怖い?」
ム。
「…怖くなんてない」
「じゃ、いいだろ」
真っ直ぐにじっと瞳を覗き込まれ、今度も数秒で如月が折れた。
「わ…わかった…から!」
ぐ、と両手で御堂の顔を押し返すと、あっさりとその手首を掴まれた。
「冷たい手してんな」
御堂が眉を顰めた。
「その、整いすぎた顔で近づくなっての…」
呟くその耳は、僅かに赤い。
ちらほらと雪が舞う、大晦日の深夜。
引かれる手を振り解くのも忘れ、如月は空を見上げた。下から見上げると、雪が、ちらちらと落ちてくる。
「…ない」
「え?」
「きれいじゃ、ない。虫が落ちてくるみたいで気持ち悪い」
ぷ、と御堂が笑った。
「ロマンチストじゃねーなー」
「…うるっさい!」
周りにも、人が増えてきた。人に触れないように、御堂が如月を引き寄せる。彼にとってはごく自然な行動なのだろう。ふとその顔を見れば、特に表情はなく、前方を見つめている。
人は、どんどん増える。
「わ」
「ん、こっち」
何故、こんなにスマートにエスコートできるんだろう。
不思議に思うほど、御堂の行動は自然で、無駄がない。嫌味もなく、自然体で如月を人混みからうまく守ってくれている。
何、これ。
「ん。寒い?」
顔を覗き込まれ、首を振った。
「大丈夫」
「ほら、もう少し」
「…人が多すぎて、…見えない」
くす、と御堂が笑った。
「かわいいな」
「かわいくない」
「背が」
「…るさいんだよ」
くく。
ベタなやりとりをしていると、向こうでわ、と声が上がった。
「カウントダウン?」
如月が呟くと、
「今年最後か、年明け初の雷、覚悟した。ごめん。先に、謝っとくな」
「は…?」
く、と引かれた顎。
目の前に、銀色。
ふわりと香る、柑橘の。
ちゅ、と頬に、冷たい唇。
向こうで、わあ、と声が上がった。
「明けたな。おめでとう」
耳元で、甘い低音。
「何…」
ちゅ。
反対の頬に、もう一度。
くすぐったくて肩をすくめると、顎を上げていた大きな掌が背中に回り、後ろからきた参拝客から如月を離すようにそっと押した。
何が起こっているのかわからないまま、誘導されるがまま、気がつけば目の前に本堂があった。
「賽銭、ある?」
「…大丈夫…」
お札を、一枚。
そっと箱に入れ、如月は手を合わせた。
年末になってばたついた年は、あっさりと変わってしまった。12月になって突如現れ、恋人でもないのに最近常に自分の隣にいるこの男は、今まで出会ったαとはまるで違っていて、いつの間にか、この距離感が普通になりつつある。
そして、
(それが、嫌じゃないと思い始めてる自分が少し怖い)
そっと眼を開き、隣を見ると、ちょうど御堂も手をおろし、一礼したところだった。
「行くか」
「うん」
やはり、如月を周りから守るように、さりげなく引き寄せ、周りとの間に自分が体を入れる。
「ぼーっとすんな」
人混みを抜けると、御堂はあっさりとその手を離した。少しまばらになった人の間を、ゆっくりと歩く。
「ちょっと待ってて」
ふと御堂が、その場を離れた。
「?」
カップルや、夫婦、子どもを連れた保護者、友達同士。年末、大晦日だけは、こんな時間でも出歩くことが許される。雪はまだちらついている。毎年のことだが、年が明けた、という実感はいまいち感じない。
「寒…」
無意識に手を擦り合わせ、空を見上げると、そっと掌に温かいものが触れた。
「…あつ。…へ?鯛焼き…?」
「焼きたて。そっちが、カスタード、こっちが小倉。どっちがいい?」
「こっち」
「どうぞ」
思わず、如月は熱いくらいのそれを手で包み込んでいた。そう言えば、御堂は夕食を取っていないのだった。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
教科書通りの返事をすると、御堂は鯛焼きを小さく齧った。
「いいね、こういうの」
「ちょっとな」
御堂にならい、がじ、と焼きたての鯛焼きを頭から齧ると、分厚い、ふわふわした皮に、少しだけクリームがついて来た。そういえばこんなふうに屋台で買う鯛焼きは初めてだ。何だかとても嬉しくなり、自分はこう言う経験が少ないのだ、と如月は実感し。
「おいしい…」
手にした鯛焼きがとてもおいしく感じられて、如月は思わず呟いていた。暫く無言で口を動かしていたが、ふと
「天然鯛焼きの店、知ってる?」
御堂を見ると、御堂は不思議そうにこちらを向いた。
「一匹ずつ焼くってやつだっけ?」
御堂の表情は、如月が初めて見るもので、何だか子どものようだった。
「聞いたことはあるけど、食ったことねーな。店があるの?」
「あれも、美味しいよ…今度、一緒に、行く?」
小さな声は、周りの喧騒に掻き消されそうだったが、御堂の耳には届いていた。御堂は嬉しそうに微笑み、
「行く」
最後の一口をぽんと口に入れた。
「コーヒー欲しくなるな…」
「缶でも、いい?」
「え?」
「…自販機、あっちにあった」
如月が歩き始めると、御堂がそれを追いかけた。
人通りが増えてきた、駐車場の入り口の自動販売機。温かいブラックのコーヒーと、ミルクティーを一本ずつ。
ごとごとと音がして、缶が落ちた。
如月がそっとそれを拾い上げ、黙って手渡す。
「キサ?」
怪訝そうに自分を覗き込む、整いすぎている顔を上目遣いに見、
「今年も、よろしく」
如月は小さく年始の挨拶をした。
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