異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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38「黒い山羊連れた男」

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 しばらく茫然と見つめていました。

 洞穴に戻ったマヘンプクの数は数千頭は下らないでしょう。

 ロップス殿が見たという、洞穴の天井にビッシリといたマヘンプクを併せれば、もしかすれば数万頭という事もあり得ます。

  みんなの顔を見回してから質問します。

「……火を放って一網打尽、が良いと思う人、手を挙げて」

 全会一致で可決しました。
 何を隠そう僕も手を上げましたからね。


 そんなやり取りをしていると、洞穴の方から話し声が聞こえてきました。

「今夜も見つかんなかったぎゃ~。ホントにいるんだぎゃ~?」

 独り言のようですね。
 木陰からこっそり覗きます。

 あの有翼人の子供たちではありません。
 しかし、やや小さめの翼を持ち、やや大きめの目、さらに浅黒い肌と、あの子供達と共通点の多い人物が洞穴から出てきました。
 サイズ的には恐らく大人、服装も同じような黒を基調としたものです。
 コウモリによく似た翼ですが、やはり少し違うようですね。

「ヴァンさんとプックルが会った子供たちって、あんな感じっすか?」
「あんな感じでした。ですよねプックル」
『モロアンナ感ジ』

 うーん、あんなに怪しい存在を見た事ありません。
 有り難い事に独り言の声が大きくて助かります。

「毎晩デカコウモリどもを放ってるのに、なんでデカコウモリどもは見つけられないんだぎゃ~? ホントに黒い山羊連れた男いるんだぎゃ~?」

 黒い山羊連れた男、って多分僕ですよね。

 あの、毎晩見つかってますが……。

「黒い山羊と白い狼連れた三人組はいるらしいんだぎゃ。それは言われた男とは、数が違うからたぶん違うんだぎゃ」


「ヴァン殿、あいつバカだな」
『バカでござる』
「バカっすね」
『…………バカ』

 みんなにバカバカ言われてますが、バカで助かったかも知れません。
 ヴィッテルを出て二日目の夜から昨夜まで、九日連続で襲われていますが、バレていたらあの数千頭のマヘンプクが大挙して襲ってきたかもです。

 いや本当にバカで良かったです。

「どうする? 殺すか?」
「話が聞きたいですね。プックル、眠ル魔法をお願いしても良いですか?」
『良イ』


『♪メェェエェェェェェェェエ♪』

 もちろんみんな、タロウが言うところの魔力ガードをしています。

 弱めの魔力で歌って貰いましたので、さほど長時間眠ることはないでしょう。

「仲間がいるかも知れません。タロウ達はここにいて下さい。あの子供たちに顔を知られている僕とプックルだけで行きましょう」

 辺りを警戒しながら、怪しい男に近づきます。完全に眠っているようですね。耐性がなくて良かったです。

「プックルすみません、運びたいので背に乗せますが良いですか?」
『良イ』

 怪しい男を縛り上げ、プックルの背に乗せて離れます。日が昇っていますのでマヘンプクが出てくる事はないと思うんですが、一応用心した方が良いでしょう。

 タロウ達が潜んでいる方とは逆へ移動します。
 
「昨夜から本当にプックル頼りですみません」
『気ニスルナ、プックルモ、仲間、当然』

 プックルも本当に良い子ですね。歩きながらちょっとモフモフしましょう。

『ヴァン、モットシロ』

 タロウに怒られますかね?


 林を抜けた所に小さい沢がありました。この辺りで良いでしょう。川原に男を降ろし、小川の水を頭から掛けました。

 ……起きませんね。
 まさかタロウ達みたいに丸一日起きないなんて事は……。

 何度も繰り返してようやく気が付いたようです。ホッとしました。

「あ! 黒い山羊だぎゃ! と言う事は、オマエは黒い山羊連れた男だぎゃ! 遂に見つけただぎゃ! やっただぎゃ!」

 きっとバカなんでしょうね。

「どうやら僕のことをお探しだったようですね。どういったご用件ですか?」
「おまえバカだぎゃ? 殺すに決まってるだぎゃ! ノコノコ出てき……あ、縛られてるだぎゃ! ……なんで?」

 バカにバカって言われました。ヴァン先生、ショックを隠し切れません。

「貴方は今、縛られています。そのままでは僕を殺せませんよね? ここまで分かりますか?」
「分かるだぎゃ。殺せないだぎゃ」
「と言う事は、今は何も出来ませんよね? 分かりますか?」
「分かるだぎゃ。何も出来ないだぎゃ」
「退屈じゃないですか?」
「退屈だぎゃ」
「少しお話ししませんか?」
「するだぎゃ。退屈だぎゃら」

 まずは、何事も話し合いから、です。

「僕の名前はヴァンです。貴方は?」
「ワギーだぎゃ」
「どうやってマヘンプクを使役していたんですか?」
「ワギーの魔術で操っていただぎゃ」
「ワギーさんは魔術が使えるんですね。凄いです」
「そう、ワギーは凄いんだぎゃ」
「なぜ僕を殺すんですか?」
「そう言われたからだぎゃ」
「どなたに?」
「アギー様だぎゃ」
「アギー様とは?」
「偉い人だぎ――」

 そこまでしか聞けませんでした。

 唐突にワギーさんの頭が、パンッ、と言う音を立てて弾けてしまったからです。

 魔力の行使を感じました。
 沢の向こうへ目をやるとそこには、こちらへ指先を向ける、あの有翼人の子供が一人。

「バカが。やはりワギーなんぞ使うものではないな」

 彼が魔力を使った様ですね。
 しかも魔法ではなく、魔術の様でした。


「貴方がアギーさんですか?」

 ニヤリと笑って答えます。
「そうだ。ブラムの子ヴァンよ。またな」

 そう言うと、こちらに背を向けて飛び去りました。


『……ヴァン、アイツ、怖イ』
「……そうですね。僕も怖かったです」


 ワギーさんを土に埋めて、タロウ達の所へ戻ります。

『あ! ヴァン殿おかえりなさいでござる!』

 ロボが駆け寄って僕の胸に飛び込んで来ました。

「遅くなってすみません。心配したでしょう?」
『遅いのも心配したでござるが、マヘンプクが一斉に飛び立ったでござるよ』
「そうなんすよ、ヴァンさんたちが離れてしばらくしたらっすね、マヘンプクが一斉にバーッと飛んでったんすよ! ビビったっす!」

 タロウが補足をしてくれましたが、ほとんどロボと同じ事を繰り返してるだけで要領を得ませんね。

「オホン。ヴァン殿達が向かった先から、僅かに、パンッと言う音が聞こえてすぐにな、洞穴からマヘンプクが一斉に飛び出してきたのだ。ヴァン殿らの方に向かうかと思ったのだが、あらゆる方向に飛び去っていったわ」

 そうですか。ロップス殿の説明は分かりやすいですね。とりあえずマヘンプクの危機は去りましたか。

 三人にも顛末を説明します。
 ワギーという魔術でマヘンプクを操っていた男、そのワギーさんを殺したアギーという子供の事。
 目的は分かりませんが、やはり我々の使命を邪魔する意向だと言う事。

 参りましたね。
 まだまだタイムリミットまでありますが、読めない展開は望むところではないんですが。


 昨夜も一晩中動いて疲れました。
 とにかく休憩しましょう。昼頃まで休んだら、今度こそロッコ村を目指しましょうか。
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