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37「帰リタクナル魔法」
しおりを挟む日が落ちました。
もう少しすればマヘンプクの群れが現れるでしょう。
タロウとロップス殿は、二人とも気に入ったちょうど良い棒を手にしています。
「うむ、愛用の槍と同じバランスで使えそうな、ちょうど良い棒だ」
「ロップスさんて、腰の刀は使わないんすか?」
「使う。槍と同じくらい得意だ。しかし大きい刃物は自分も切れそうで怖いからな」
タロウも同じ様な事を言っていましたね。
僕の大剣が片刃なのも同じ理由ですが。
やって来ましたね。
「プックル、慌てないで。もう少し引きつけましょう」
『分カッタ』
「ロボとタロウは魔力で身を守る用意を」
「おす!」
『承知でござる』
先頭の数頭が猛然と近付いて来ました。
「プックル! お願いします!」
大きく息を吸い込んだプックルが歌い上げます。
『♪メェェェ……ェェェェェェ……ェェェ♪』
これは哀愁漂う歌ですね。母の温もりを思い起こします。
「みんな大丈夫ですか? ここを乗り切らないと先はありませんよ」
「なんとか大丈夫そうっす」
『それがしも!』
「これは効くな。しかしなんとか大丈夫だ」
プックルの歌をもろに受けたマヘンプクが数頭、ドサっと地に落ちました。
「プックル! 歌を止めて下さい!」
『分カッタ』
続く後続のマヘンプクは僕とロップス殿の出番です。
「ロップス殿! いきますよ!」
「任せろ!」
僕は大剣を振り上げ、ロップス殿は手にした棒で、近づくマヘンプクを片っ端から叩き伏せます。
ロップス殿はなかなかの棒さばきですね。
そうこうしている内に、最初に地に落ちたマヘンプクが四頭、ヨロヨロと起き上がり飛び立ちました。
少し離れるまでは様子を見、四頭ともが同じ方向に飛ぶのを確認しました。
「ここまでは完璧です。では、打ち合わせ通りにロップス殿、よろしくお願いします」
「心得た」
ロップス殿が気配を消して飛び去った四頭を追います。
アンセムの街長の家で見せた隠形を使って追いかけて頂きます。
「さぁ、僕らも追いましょう。プックル、またお願いしますね」
『任セロ』
大きく息を吸い込んだプックルが再度歌います。
『♪メェェェェェェェェ♪』
「ちょっと待ってっす! まだ魔力ガードしてなっす!」
何言ってるんですか。
ちゃんと打ち合わせしたでしょう。
「慌てなくても、良く聴いて下さい」
「あれ? 帰りたくならないっすよ?」
「言ったでしょう? ここからは魔力を籠めない歌ですよ」
「あ、そうやったすか?」
ここからはプックルに普通に歌って頂きます。
タロウの話から、マヘンプクは夜目が利く訳じゃなく、自分で出した音が跳ね返るのを確認しているとあたりをつけたんです。
マヘンプクのスープを作った時に、目や耳を確認しましたが、目は小さく、耳が大きかったです。
どうやら正解だったようですね。
プックルの歌で作る音の波で、まともにこちらに飛んでくるマヘンプクはほとんどいません。
認識阻害に成功しているようです。
単純に、音源となるプックルを目指しこちらに飛んでくるマヘンプクもたまにいますが、フラフラと頼りないので叩き落すのは簡単です。
タロウの新しい杖でも落としていますね。
「この調子で行きましょう。プックル、大丈夫ですか?」
『魔力、籠メテナイ、朝マデデモ、歌エル』
ロップス殿が追った四頭は、南東の方角に飛び去りました。
ロッコ村とは方向が違いますが、マヘンプク退治が優先です。
しばらく林の中を歩きます。
ところどころに、ロップス殿が木につけた目印がありますので迷う事もなく追いかけます。
「ヴァン殿、こちらだ」
木の陰から音もなく現れたロップス殿。
少し疲れた顔ですね。
「お疲れ様です」
「隠形に魔力を少し使い過ぎただけだ。見ろ、あの洞穴だ」
そう言って、岩山の下部にある洞穴をロップス殿が指差しました。
「四頭ともがあの洞穴に入って行った。少し入ってみたが、物凄い量のマヘンプクが天井にビッシリとぶら下がっておったわ」
『ひっ! 怖いでござる!』
ロボが怯えるのも分かります。
正直言って、僕も入りたくありません。
「どうする? 外から火をかけるか?」
どうしましょう。ここからは状況を見てから判断と思っていましたが、小さめの声とは言え、プックルが歌い続けたままですからね。長考はできませんね。
『少シ、離レル、朝マデ歌ウ、ドウカ?』
「プックルは平気なんですか?」
『余裕。歌ウ、好キ』
プックルがそう言ってくれるのなら甘えさせていただきましょうか。
「すみません、プックル、お言葉に甘えさせて頂きます」
『任セロ』
やはり今飛び込むのは危険だと判断しました。
夜明けまでまだもうしばらくあります。
どうせなら安全にいきたいですから夜明けまで一休みしましょう。
みんな木陰に潜んで休みます。
タロウが歌い続けるプックルを労う様にモフモフしています。
僕も膝の上でウトウトしているロボを撫でます。堪りませんね。
「しかしヴァン殿、夜が明けたらどうするのだ?」
先ほどから考えていた事をロップス殿が尋ねました。
そうなんですよね。
どうしましょうか。
「とりあえずは様子見ですね」
「普通のやり方ではマヘンプク共の脅威をどうにかできるとは思えん。やはり入り口から火を放つべきではないか?」
うーん、それも無くは無いですが、あまり気乗りしませんね。
「元々この辺りにはマヘンプクが住んでいました。人を襲う魔獣に容赦するつもりはありませんが、巣ごと焼き払うのはやり過ぎだと思うんです」
「それは分かる。しかしこのままでは埒が開かんぞ」
ロップス殿の言うことも分かります。
しかし、どうしてもあの有翼人の子供たちの台詞が頭から離れません。
『魔獣に襲われてゲームオーバーだよ!』
言葉の綾だったかも知れません。
それでもやはり、マヘンプク達も誰かに操られている気がしてならないのです。
「甘いかも知れませんが、もう少し考えさせて下さい。夜が明けても状況が変わらず、良い案も無ければ、火を放つ案も検討しましょう」
「……分かった。ヴァン殿がそうまで言われるのであれば否やは無い」
「ありがとうございます」
夜が明けます。
外に出ていたマヘンプク達が洞穴へと戻って行きます。
…………いやー、凄いですね。壮観です。
「……どうだヴァン殿。火を放つ案をこれから即実行するというのは……」
「……有りですねぇ」
僕のメガネがズレるほどの、有り得ない量のマヘンプクが戻ってきました。
よくは分かりませんが、今の状況をタロウに代弁して貰いましょう。
「保健所でも警察でもなくて、自衛隊を呼ぶっす!」
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