異世界ニートを生贄に。

ハマハマ

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88「ヴァンの懸念」

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「まあ、そんな過ぎた事はどうでもいい」
「いや、どうでもいいって事――」
「そんな事より! あの翼を持つ者どもはなんなのだ!?」


 確かにパンチョ兄ちゃんがアホかどうかよりも、四人の有翼人と魔獣の群れの方が重要な話題ですね。

「彼等の事は便宜的に『有翼人』と僕らは呼んでいます」
「うむ、分かりやすくて良いな」

「しかし実態は『昏き世界の者ども』です」
「なんと!? 連中が昏き世界の者どもだと!?」


 アギーさん達、三人の少年たちと出会った事、ワギーさんやナギーさんの事など、パンチョ兄ちゃんに説明しました。

 ふむふむと頷きつつも驚きが隠せない様子です。

「そんな事になっておったか。我が書類仕事に勤しんだり泳いだりしていた間に……」
「パンチョさんの書類仕事っていつ頃終わったんすか?」
「……四月だ。お主らと別れてから二月ふたつきも掛かったわ!」

 貴族になんて絶対になりたくありませんね。

「無事にアンセムの街に戻れたあかつきには貴族なんぞ辞めてくれるわ!」


 食事も済んで、パンチョ兄ちゃんとの情報交換もあらかた済みました。

「これからはパンチョさんも一緒すか?」
「いや、我はこのまま北へ向かう。師の下へ急ぎたい」

 当初の目的通りですね。

「西へ向かって数日の所にボルビックの町がある。まぁ、ヴァンなら知っているか?」

「ええ、知っています。長く滞在した事はありませんが」
「我は七十年前もつい先日も長らく滞在したんだが、そこは勇者ファネル一行が当時拠点としていた村よ。知ってたか?」
「ええ、知っていますよ」

「……そうか、何でも知っておるな、お主」

 なぜか少し面白くなさそうな顔です。
 海面下の結界については僕も知りませんでしたけどね。


 午後は少しのんびりしました。
 出発の明日まで特にやらなければいけない事もありません。

 ロップス殿はパンチョ兄ちゃんに剣術について色々と相談に乗って貰っている様です。
 二人とも魔力ベースでないので通じるものが多いのでしょう。

 タロウは二階のテラスでプックルにもたれてお昼寝です。いつも仲良しで何よりですね。

 僕とロボも父の広い部屋で腰を下ろしてのんびりです。

『それにしても凄いイビキでござるな』
「昔からそうでしたね」

 あ、だからタロウのイビキも僕は平気なんでしょうか。

『どんなお父さんだったでござるか?』
「そうですねぇ。怖いところも優しいところもありましたけど、基本的には面白い人でしたよ。そう、タロウっぽいところもありますね」


 割りとおっちょこちょいなところが二人とも似ている気がします。
 食べ方なんかはタロウの方が断然綺麗ですけど、自分が頑張らなくて良い時は全く頑張らないところなんかそっくりです。

『お母さんはどんなだったでござるか?』
「母は怖かったですね。村の誰にも優しいのに、僕ら二人にはとても厳しかったです」


 僕が小さかった頃、幼馴染の熊の獣人と大ゲンカした事がありました。
 幼いながらもダンピールと熊の獣人の子供ですからね、それはもう凄惨な、血で血を洗う殴り合いです。

 結果は僕が泣かされてお仕舞いでしたが、母に一番怒られたのは、僕と父でした。

『え? なんでお父さんも?』
「その子のお父さんと二人で、お酒飲みながら観戦していましたから」

『それは怒られて当然でござるな』
「でしょう? あ、でもその時は向こうのお父さんも怒られてましたけどね」
『それも当然でござるな』

 懐かしいですね。
 五、六歳頃ですから八十年近く前ですか。

『その幼馴染はどうしてるでござるか?』
「え? ああ、ロボも会ったことありますよ。ペリエ村のター村長ですから」
『ああ、あの強そうな村長でござるか』

 今やれば絶対に負けませんよ。
 魔法禁止ルールでもね。
 もちろんやりませんけど、二人とも大人ですからね。


『ブラム様はそれがしの事、認めてくれるでござろうか……』

 認める?
 あぁ、そういう意味ですね。

「まぁ細かい事を気にする人ではありませんからね、気に病む必要はないと思いますよ」

『天国のお母さんは?』
「それこそ気にしないでしょうね。生前よく言われましたよ。『ヴァンが良いと思う人なら、例え男でも構わない』ってね」

 早く孫が見たい、とも言っていましたが、それは怪しいでしょうからここでは伏せておきましょうか。



 その後もロボと話をしたり、ロボの毛を撫でたりしてのんびりと過ごしました。
 ダラダラと、ウトウトと。




 夕食も腕によりを掛けて作りました。
 明日以降のパンチョ兄ちゃんの保存食も多めに作っておいて手渡しました。

 物凄く喜ばれ、作った甲斐がありますね。


 夕食後、各々が適当に選んだ部屋で就寝です。


 夜半、一人起き出してパンチョ兄ちゃんが寝床に選んだ一階の大階段へ足を運びました。

「……誰だ?」
「気配を消したつもりでしたが、さすがですね」
「ヴァンか。どうかしたか?」

 明日から一人でファネル領を行くパンチョ兄ちゃんに、どうしても懸念を伝えねばなりません。

「明日以降の旅程ですが」
「おう。我は北へ、ヴァンたちは西へ、だな」

「昼に話した有翼人たちですが、強大な力を持った三人、アギーさんとウギーさん、それにアンテオ様を伴ったイギーさん、彼らはみな一様に北へ向かいました。狙いはタロウの様ですが、パンチョ兄ちゃんも十分に気をつけてください」

「……戦いになれば、我では荷が重いか?」
「……もし戦いになるようであれば、即逃げて欲しいです」

 神妙な面持ちで何か考えるパンチョ兄ちゃん。

「……分かった。逃げられるようならばそうしよう」
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