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91「初めての精霊」
しおりを挟むおはようございます。
ヴァンです。
「ついにっすね! ついにこの世界一美しいと言われる美の極致っすね!」
「わ、私は眉唾ものだと思うがな!」
タロウもロップス殿も楽しみにし過ぎです。
上気したように赤らめた頬、不自然に上がった口角、何故かワキワキ動く両手、幼気な乙女たるロボがドン引きですよ。
「タイタニア様の住む所は森を半日ほど行った所ですから、お昼過ぎには着くでしょう」
寡黙な街長にお礼を述べ、タイタニアの街を西へ向かいます。
道々出会う住人を見つけては、指を指すタロウとロップス殿。
「あの人ちょっと精霊っぽさ残ってないすか?」
「こちらの女性もなかなか……」
「おお、美人すね!」
「こちらは髭モジャどわーふ――」
「「ぐはぁ」」
何が、ぐはぁ、ですか。失礼な事を言うとヴァン先生が許しません。
手刀も久しぶりな気がしますね。
「さぁ、馬鹿なことやってないで先を急ぎますよ!」
チチチと鳥が囀り、キラキラと溢れる木漏れ日の森をしばらく歩きました。
最後にここを訪れたのは地図作りの際の三十年前、あの頃よりもさらに清浄な空気に満たされていますね。
はぁ、心が洗われるようです。
「タロウ、ロップス殿も、先ほどは殴ってすみませんでした」
「いやいや、俺が間違ってたっす。すんませんした」
「私も同感だ。すまない。殴らせて悪かった」
二人もいつもよりも素直ですね。
「ここはなんか清々しいっすねー」
「そうでしょう。タイタニア様がここに落ち着いてから精霊が数多く住み着いた結果、澄んだ空気に包まれるようになった様ですよ」
「あ、ほら、あそこにウサギがいてるっすよ」
『ウサギ、小サクテ、可愛イ』
鼻をヒクヒクさせてこちらに耳を傾ける二匹のウサギ。
ホント可愛いで――
モムモムと動く小さな口が突然横に大きく裂け、その裂けた口から覗く牙は鋭く尖り、小さなクリクリとした目は爛々と赤く輝く瞳へと――
「ダレダ貴様ラ!」
「ドゴベ向ガヴ!?」
重低音の声、なんと禍々しいウサギでしょう……
『うわぉぉぉおおぉん!』
いきなりロボが霊力砲を――、いや、これは精霊力を籠めないただの遠吠えですか。
『冗談はそれくらいにするでござるよ』
ロボの遠吠えの直撃を受けたウサギが、その形をザザザっと崩れさせました。
「あっさりバレちゃったね」
「あっさりバレちゃったわ、つまんないの」
目の前に現れたのは小さな精霊が二人。
僕の肘から指先ほどの大きさでしょうか。
一人は少年の姿、もう一人は少女の姿ですね。
「貴方方はどなた?」
少年の姿をした精霊が聞きます。
「僕はブラムの子、ヴァンと言います。タイタニア様の下へ伺う所です」
「タイタニア様から聞いてますわ」
少女の姿をした精霊が応えました。
蝶の様な羽をゆっくりと羽ばたかせ、僕らの目線の高さまで飛び上がった二人。
「僕はセイ」
「私はレイン」
「「よろしくね」」
二人はふんわり飛んだままでゆったりとお辞儀、小さくても優雅ですね。
「小さくて可愛いっすね、精霊」
「うむ、私も初めて会ったが可愛いな」
タロウとロップス殿が頬を赤らめてコソコソと話をしています。どうせならはっきり伝えれば良いと思うんですが。
「君がヴァンだね」
「貴方がヴァン。ハンサムね」
ハンサムなんですか。照れますね。
「俺はどうっすか!?」
「タレ目だね」
「でも可愛いわ」
ガッツポーズのタロウ。
「ちなみに私は?」
「トカゲマンだね」
「トカゲマン以外の何物でもないわね」
肩を落とすロップス殿。
「君はレイロウだね」
「さっきのはビックリしたけど、美しいわ。私たちのお仲間ね」
キョトンとするロボ。
「君はマサンヨウだね」
「久しぶりに見たわ。忌まわしいわ」
無表情でもぐもぐと草を食むプックル。
この辺りで魔獣が現れる事はめったにありませんからね。
「「ご案内致します。こちらへどうぞ」」
セイとレインを先頭に森の中を進みます。
二人は僕らの前を飛びながら、時折お互いの耳に口を近付けてはコソコソと内緒話、そしてこちらを振り向いてはウフフフと笑って楽しそうです。
「なんか見てるだけで癒されるっすね」
「ああ、戦いの日々が馬鹿らしくなる。あれ一つ私にくれんかな」
タロウはともかく、ロップス殿がまた馬鹿なこと言ってますね。
頂けないと思いますよ。普通くれないでしょ。
「それにしてもロボ、精霊のイタズラだと良く気がつきましたね」
『ウサギの後ろにセイとレインの姿がぼんやり見えてたでござるよ』
精霊力を持つロボには通用しないという事でしょうか。
「君には全く効かなかったね」
「効かなかったわ。悔しいわ」
「「今度は騙してみせる!」」
そんな事に情熱を燃やさないで下さい。
精霊のイタズラ好きはどの個体も一緒ですね。
二人に続いて森の中を進み、木漏れ日が途切れ頭上の木々が厚みを増したと思いきや、不意に森の一画が拓けました。
「「ここがタイタニア様のお住まい」」
「でっけぇ木っす…………、切り株?」
目前の太く大きい幹から視線を上げたタロウの口から感想が溢れました。
「この切り株がタイタニア様のお住まいだよ」
「私たちもここに住んでるのよ。良いでしょ」
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