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105「四つめの証」
しおりを挟む――この姿を維持するのも僅かだが魔力を使う。用があればタロウをこちらに寄越してくれ。
そう言った明き神の現し身が、トプンと小さな音を立て、床に沈み込んで姿を消しました。
少しの沈黙の後、父にアギーさん達とのやり取りを事細かく説明しました。
「状況は分かった。で、そいつらの目的はなんだ?」
「当初はタロウが新たな礎となる事を阻む事が目的だったようですが、なぜ阻むかの理由は分かっていません」
当初、僕の予想ではこの世界の破壊を目論んでいるものと考えていました。
タロウが新たな礎となる事を阻止、それは五大礎結界の崩壊を意味するからです。
「しかし予定が変わったとの事で、しばらくは僕らを襲わないと仰っておられました」
「しばらくは、か。そんで連中は今、この城より北のファネル領に陣取ってるって訳か。そろそろ襲って来るのかもな」
嫌なことを言いますね。
「でもまぁ、ヴァンでもなんとかなるレベルの奴らなんだろ? なら平気だよな」
少し沈黙です。
「なんだ? 自信ないのか?」
「戦うだけならそうでもないんですが……」
「まぁ目的が良く分からんのは不安材料だがな。オマエ一人じゃない。仲間を信用してドーンと行け」
『良いこと言うじゃないの。あの極悪非道のブラムも父親らしくなっちゃって』
「は! この声はタイタニアさんすか!」
やっぱり聞いてらっしゃいましたか。趣味の盗み聞きに精を出してると思ってました。
『ブラムの言う通りよ。みんなを信じなさい』
「……そうですよね。みんながいれば何とかなりますよね」
タロウもロップス殿も、ロボもプックルも、みんな頼もしくなりました。きっとなんとかなるでしょう。
『それにしても悔やまれるわ』
「何がっすか?」
『この結界よ。声だけじゃなくて映像も見られる様に陣を組むべきだったわ』
五大礎結界は父が張ったものと思っていましたが……。
「何言ってる。そんな事したら維持に使う魔力の消費が増えるだろうが」
『だってさー。ヴァンとロボがアっツい口付けしたんでしょ? 声だけじゃなくてやっぱ見たいじゃないの』
「なんつうしょうもない理由だ。そんな陣にしてたらガゼルなんざ一歩も動けなくなってたかも知れんし、ファネルは今頃もう死んでただろうぜ」
『まぁそうなんだけどさー』
「あの、五大礎結界は父さんが張ったんじゃないんですか?」
「俺が張った。だが魔術陣のベースはタイタニアの精霊術をほとんど真似したもんだ」
魔力で使える様にアレンジしたんですね。
「ま、馬鹿みたいに複雑だったがな。俺にかかりゃ余裕よ」
『何言ってんのよ。必死に勉強してたじゃないの』
「もう七十年も前の事だ。んなの覚えてねーよ」
相変わらず仲良しですね。息子としても微笑ましいです。
『あのー。気になったんでござるが……』
「どうしました?」
『お義父さまの証、タロウ殿は貰えたんでござるか?』
あ、すっかり忘れていました。
「どうなんですかタロウ?」
え? あ? ああ! と鈍い反応をしながらも胸元を開いて確認するタロウ。
「おぉ! 無いっす!」
ちょっとズッコケました。
久しぶりにメガネがずり落ちましたよ。
「そりゃ無いだろ。まだ渡してないから」
「そりゃないっすよぉ! もっかいアイアンクローなんすか!?」
少し沈黙。
「ああ、もっかいだな」
「言い方が軽い! 酷いっす!」
さすがに不憫ですが、こればっかりはしょうがないですね。
「ぎゃあぁぁぁぁぁあああ!!」
再び響き渡ったタロウの悲鳴、ご愁傷様です。
「……あら? 俺どうしてたんすか?」
『タロウ、起キタ』
目を覚ましましたか。
「具合はどうですか?」
「え? 特になんともないっす」
相変わらず頑丈で何よりです。
「悪いとは思ったんですが、不安だったので胸元は覗かせて頂きました。ご苦労様でしたね」
キョトンとした顔のタロウ。まだ寝ぼけていますかね?
「あぁ! ブラムさんの証!」
タロウが慌てて自分の胸を覗き込みました。
「今度は黒い丸! これで四つ! あと一つっす!」
「何言ってんだ? ファネルのは要らんからこれで全部だぞ」
「え? そうなんすか?」
もう随分と前にはなりますが、アンセム様にちゃんとそう説明して頂いていますよ。
「よぉぉっしゃ! 全部揃ったっす! もう勝ったも同然っす!」
タロウは何に勝ったんでしょうね。
でも、これでファネル様の下へ向かう事ができます。
ですが、もうお昼を少し過ぎたところです。
昼食にしましょう。
「タロウが寝てる間にある程度の調理をすませていますので、すぐにでも昼食にできますが、みんな食べられますか?」
みんなが、頂きます! と気持ちいい返事をしてくれました。
午後は七十年前の戦いについて、みんなで父から話を聞きました。
為になる話も、興味深い話もいくつかありました。
明日からは北、ファネル様の下を目指します。
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