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137「五英雄の証」
しおりを挟むホールの床に突き刺さった明昏天地の宝剣をパンチョ兄ちゃんが引き抜きます。
「ぐ、なんつう力で突き刺したんだ。ぐぅぅ、せいっ!」
引き抜いた勢いのままに尻餅をついたパンチョ兄ちゃんが悪態をつきます。
「アギーの馬鹿力めが! 加減しろ!」
お尻をさすりながら立ち上がり、パンチョ兄ちゃんが宝剣を鞘へと納めました。
「どうやら地鳴りは止まった様だな」
ロップス殿の仰る通り、大地の鳴動は止まり、かつての穏やかさを取り戻した様です。
「さぁ、せっかくアギーとやらが地鳴りを止めてくれたんだ、早いところ礎の代替わりを済ませよう」
「おっす!」
少し荒い呼吸を繰り返すファネル様の声に、元気良くタロウが返事しました。
しかし色々と確認しておきたい事があります。
「ちょっと待って下さい」
「ごめん、ちょっと待って」
おや? ウギーさんと被ってしまいました。珍しいですね。
「あ、悪い。ヴァンからどうぞ」
「すみません、ではお先に」
やはりアギーさんの先程のお話に対してもう少し相談した方が良いと思います。
「先程のアギーさんのお話の中で、数十年後には今と同じ状況になるという部分ですが、どう思われますか?」
「遅かれ早かれまず間違いなくなるだろう。ガゼルだとていつかは死ぬ」
ならない道理がありませんからね。
「ええ、僕もそう思います」
みんなもコクコクと頷いています。
「父さん、その場合はまた異世界から新たな礎を連れてくる事になりますか?」
『……せざるを得んだろうな。俺ら五英雄の次に魔力量があるのがヴァンではな……』
ファネル様の五分の一程度の僕では礎となれません。なった所であっという間に魔力枯渇を起こすでしょう。
『すまんな。ウチの弟がいればとりあえずの礎になれたんだがな』
「その声は父上!」
「父上? 誰っすか?」
「アンセム様ですよ。ロップス殿のお父上の」
確かにアンテオ様なら僕よりは魔力量が多かったでしょうね。ロップス殿二十人分ほどと仰っておられましたから僕の倍ぐらいですね。
『ロップス! 母も居ますよ!』
「母上まで!」
「あぁ! あの若くて別嬪のカーチャン! と、その旦那!」
アンセム様のことを忘れてヤンテ様を覚えているとは……、さすがはタロウですね。おそらくタイタニア様も聞いているでしょうけど、平気なんでしょうか。
『よぉアンセム。若くて別嬪の女房と引きこもってたのか。羨ましいぜ、まったくよ』
『まぁそう言うな。世界が終わるかも知れんのだ。愛する妻との時間を大事にしてもバチは当たらんだろ』
『はん! 爆発しやがれ!』
母が亡くなってから三十年も経ちますが、仲の良い男女に対しては大抵こんな感じです。
『ちなみにワシも聞いとった』
『ガゼルか。今度はオマエの寿命だとさ』
『ブラムら化け物どもと一緒にいたせいで失念しとったわ。そう言われればワシはただの獣人だったわ』
この世界のトップである五英雄様がたはみんなウッカリ気味ですね、ほんと。
もちろん僕も人の事言えませんけど。
『実はな、異世界からの強制転移はあんまりやりたくないんだ』
「と、言いますと?」
『今回の事で思い知らされたんだが、俺らの寿命はこの世界の存続に直結してしまう』
確かにそうです。今まさにその問題に直面していますから。
『どうやら強制転移は俺の寿命が削れてしまうようだ』
それ全然ダメじゃないですか。
『と言うのもな、俺はこの五大礎結界を張っている本人だから普通には代替わり出来ん。だからファネルの寿命に気が付いてからは、自分の老化があまり進まない様に魔術を駆使している』
「それなら平気じゃないっすか?」
『だと思うだろう。しかし魔力枯渇に伴う眠りの間はダメだ。魔術が使えんからガンガン寿命が減った』
…………やっぱり全然ダメじゃないですか。
『今のままなら数百年から千年程度は大丈夫だろうが、あまり頻繁に行うのは躊躇われるな』
今回タロウが新たな礎になったとしても、ガゼル様の寿命が尽きる数十年後には、アギーさんの思惑通りになってしまうという事ですね。
参りましたね。
「……あのぅ、その事なんでござるが……」
「どうしました?」
ロボがおずおずと手を挙げ口を開きました。
「ファネル様の魔力量は確か、ヴァン殿の五倍程度でござったかと」
「そんなもんだな」
ファネル様がそう返事しました。
「……そのぅ、それがしの精霊力量は、ヴァン殿の五倍ぐらいらしいんでござるが、礎にはなれんでござろうか?」
あ……、そういえばタイタニア様の所を伺った際にセイとレインが確かにそう言ってました。
そう言われればそうですね、精霊力量で言えば礎になる事も可能ですね。
『……それは本当なの?』
当然盗み聞きしていると思っていましたが、やはりタイタニア様も聞いていましたか。
「確かにセイとレインがそう言っていました」
『いや、しかし俺は前に魔術を使ってこの世界を隈なく調べた。魔力も精霊力も、そんな力を持った奴は居なかった筈だ』
確かに以前、アンセム様からそう伺いました。
「しかし、それは十年ほど前だと……」
『ああ、もうそんくらい前だ』
「それがしは十歳でござるよ」
結界通話を通して、パシッと音が聞こえました。恐らく父さんが自分の額を掌で叩いた音でしょう。
『それが本当なら、十分に礎になれる』
「なら、タロウ殿とそれがしの二人で解決でござるな!」
やっぱり僕も人の事を言えないくらいにウッカリでした。
ロボがそう言うまで全く思い至りませんでしたから。
「ロボ、よく気がつきましたね」
「人族の姿だからでござろうかな。狼の姿の時よりも頭が良く回るでござるよ」
「そう言えば今回はなかなか元に戻りませんね」
「なんででござろうかな?」
首を傾げて悩むロボ、可愛い仕草ですね。
「なあ、ボクも喋ってもいいか?」
ああ、そう言えばウギーさんの話と被ったんでしたね。
「タロウが集めた五英雄の証、ボクにくれないか?」
……え?
証を、ウギーさんに?
「ボクの寿命はオマエ達に較べれば半永久的と言えるくらいだよ。それにボクじゃ――」
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