愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

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003 すべてが質素

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 食事は病人が食べるものとしては、確かにちょうどよかった。

 味気ないスープは胃にもたれることもなく、またこの体の持ち主として食べられる量もあれくらいが限界だったらしい。
 ある意味全てがピッタリとはいえ、この体を心配して作られたものとは考えづらかった。

「それにしても本当に美味しくないわね。味気ないし、具もないし。毎回こんな食事だと、さすがに嫌すぎるし、これではいつ体力が戻るか分からないわね」

 味はもうちょっと塩とか胡椒とか、濃いめとは言わないけどハッキリしたものがいいな。あれでは、全然味がしないしただの野菜のくず汁って感じなのよね。出汁いれる前と言うか、作る途中で持ってきたというか。
 ああ、味噌汁で味噌入れる前みたいな感じかな。出汁っぽさもないから、あれはそれ以下だけど。

 まさか、この世界ではあれが主流ってわけでもないわよね。
 本の中ではさすがに食事風景の描写なんてなかったから、気にしたことはなかったけど。もし主流ならキツイわ。味なさすぎだもの。元現代人には耐えられないってば。
 
 だけど描かれてなくとも、ここが生きた世界なら独自の文化があるってこともあるのか。
 いやでも、それにしたってあれはないわ。

 量も一般的に見て、あれでは子どもの朝ご飯ですら足りないと思う。大人が摂取する栄養としては、極端に少なすぎるだろう。
 そう考えると、本当に今まで私ってここでどんな暮らしをしてきたのかしら。

 それに気がかりなのは、あの侍女たちの態度。
 あからさまに私を見下しているというか、バカにしているって感じだったわね。

 現時点で分かっているのは、この体の子は元王女で、この家は公爵家。
 そしてここへ嫁いできたらしいということ。

「元王女で、現公爵夫人でしょう? それなのにあの侍女たちの態度って、ありえないわ。たとえ主従関係がうまくいってないとしても、身分は明らかにこちらの方が上じゃない」

 だいたい侍女っていうのは、使用人。つまり彼女たちにとって、ここは職場よね。

 別に上下関係を持ち出すつもりはないけれど、雇用主がいくら公爵だからといって、その夫人にしていいことではないはず。

 だけどあの感じを見ると、今までこの子は何も言い返してこなかったみたいね。

「もー。分からないことだらけね。なんでそこまで……」

 なんで私は我慢なんてしていたんだろう。

 ここの人たちに嫌われたくなかったから?
 それともここには、誰も自分の味方がいなかったから?

「それにしたってなぁ」

 それで寂しく死んでしまったら、意味ないじゃないの。
 我慢なんてするから、余計に状況が悪化していってしまったわけだし。

 少なくとも私は嫌だな。
 彼女たちとの関係も、それ以外も全部。
 前世とかに大した未練はないけれど、孤独のうちにまたもう一度死ぬなんて嫌よ。

「死んでしまったら何も出来ないのよ。もっとも、死んだから今ここにいるんだろうけど」

 それは置いておいて、今のところ、このキャラクターというかこの子の名前すら分からないから、まずはそれを探らないとね。

 私は部屋の中を見渡した。
 貴族としては、かなりモノの少ない部屋。

 装飾品も最低限であり、高級そうなものは何もない。
 唯一ベッドに天蓋が付いていることと、高そうなのは真っ赤な絨毯くらいかな。

 でもたぶん、この絨毯はどの部屋も一緒のような気がする。
 だからわざわざこの部屋のために用意されたというより、初期装備品よね。

 歩きながらそれらを確認し、クローゼットを開けた。
 備え付けのクローゼット自体は大きいものの、その中はがらんとしている。

 中に入っていたのは、数枚のドレスと質素なワンピースだけ。

「ん-。この派手めなドレスって、結婚前に持ってきたものかな」

 色鮮やかなドレスは、部屋にそぐわないほど豪華だ。
 宝石などが散りばめられており、おそらく夜会などで着るものだろう。

 それにしても、少ない気もするのよね。
 元王女様なんでしょう?
 それなのにドレスすら、こんなにないの?

 だいたいなんていうか、この部屋もそうだけど生活感が薄いのよね。
 必要なモノすら足りていない感じ。

 んー。とりあえず着替えて外や他の使用人たちの様子を見てみるしかないわね。

 自分でも簡単に着替えられそうなワンピースを手に取り、私は一人外出の用意をする。
 日焼け止めも化粧水も日傘も、何もかもないことに若干困惑しつつも、仕方なく私はそのまま部屋を出た。
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