3 / 78
003 すべてが質素
しおりを挟む
食事は病人が食べるものとしては、確かにちょうどよかった。
味気ないスープは胃にもたれることもなく、またこの体の持ち主として食べられる量もあれくらいが限界だったらしい。
ある意味全てがピッタリとはいえ、この体を心配して作られたものとは考えづらかった。
「それにしても本当に美味しくないわね。味気ないし、具もないし。毎回こんな食事だと、さすがに嫌すぎるし、これではいつ体力が戻るか分からないわね」
味はもうちょっと塩とか胡椒とか、濃いめとは言わないけどハッキリしたものがいいな。あれでは、全然味がしないしただの野菜のくず汁って感じなのよね。出汁いれる前と言うか、作る途中で持ってきたというか。
ああ、味噌汁で味噌入れる前みたいな感じかな。出汁っぽさもないから、あれはそれ以下だけど。
まさか、この世界ではあれが主流ってわけでもないわよね。
本の中ではさすがに食事風景の描写なんてなかったから、気にしたことはなかったけど。もし主流ならキツイわ。味なさすぎだもの。元現代人には耐えられないってば。
だけど描かれてなくとも、ここが生きた世界なら独自の文化があるってこともあるのか。
いやでも、それにしたってあれはないわ。
量も一般的に見て、あれでは子どもの朝ご飯ですら足りないと思う。大人が摂取する栄養としては、極端に少なすぎるだろう。
そう考えると、本当に今まで私ってここでどんな暮らしをしてきたのかしら。
それに気がかりなのは、あの侍女たちの態度。
あからさまに私を見下しているというか、バカにしているって感じだったわね。
現時点で分かっているのは、この体の子は元王女で、この家は公爵家。
そしてここへ嫁いできたらしいということ。
「元王女で、現公爵夫人でしょう? それなのにあの侍女たちの態度って、ありえないわ。たとえ主従関係がうまくいってないとしても、身分は明らかにこちらの方が上じゃない」
だいたい侍女っていうのは、使用人。つまり彼女たちにとって、ここは職場よね。
別に上下関係を持ち出すつもりはないけれど、雇用主がいくら公爵だからといって、その夫人にしていいことではないはず。
だけどあの感じを見ると、今までこの子は何も言い返してこなかったみたいね。
「もー。分からないことだらけね。なんでそこまで……」
なんで私は我慢なんてしていたんだろう。
ここの人たちに嫌われたくなかったから?
それともここには、誰も自分の味方がいなかったから?
「それにしたってなぁ」
それで寂しく死んでしまったら、意味ないじゃないの。
我慢なんてするから、余計に状況が悪化していってしまったわけだし。
少なくとも私は嫌だな。
彼女たちとの関係も、それ以外も全部。
前世とかに大した未練はないけれど、孤独のうちにまたもう一度死ぬなんて嫌よ。
「死んでしまったら何も出来ないのよ。もっとも、死んだから今ここにいるんだろうけど」
それは置いておいて、今のところ、このキャラクターというかこの子の名前すら分からないから、まずはそれを探らないとね。
私は部屋の中を見渡した。
貴族としては、かなりモノの少ない部屋。
装飾品も最低限であり、高級そうなものは何もない。
唯一ベッドに天蓋が付いていることと、高そうなのは真っ赤な絨毯くらいかな。
でもたぶん、この絨毯はどの部屋も一緒のような気がする。
だからわざわざこの部屋のために用意されたというより、初期装備品よね。
歩きながらそれらを確認し、クローゼットを開けた。
備え付けのクローゼット自体は大きいものの、その中はがらんとしている。
中に入っていたのは、数枚のドレスと質素なワンピースだけ。
「ん-。この派手めなドレスって、結婚前に持ってきたものかな」
色鮮やかなドレスは、部屋にそぐわないほど豪華だ。
宝石などが散りばめられており、おそらく夜会などで着るものだろう。
それにしても、少ない気もするのよね。
元王女様なんでしょう?
それなのにドレスすら、こんなにないの?
だいたいなんていうか、この部屋もそうだけど生活感が薄いのよね。
必要なモノすら足りていない感じ。
んー。とりあえず着替えて外や他の使用人たちの様子を見てみるしかないわね。
自分でも簡単に着替えられそうなワンピースを手に取り、私は一人外出の用意をする。
日焼け止めも化粧水も日傘も、何もかもないことに若干困惑しつつも、仕方なく私はそのまま部屋を出た。
味気ないスープは胃にもたれることもなく、またこの体の持ち主として食べられる量もあれくらいが限界だったらしい。
ある意味全てがピッタリとはいえ、この体を心配して作られたものとは考えづらかった。
「それにしても本当に美味しくないわね。味気ないし、具もないし。毎回こんな食事だと、さすがに嫌すぎるし、これではいつ体力が戻るか分からないわね」
味はもうちょっと塩とか胡椒とか、濃いめとは言わないけどハッキリしたものがいいな。あれでは、全然味がしないしただの野菜のくず汁って感じなのよね。出汁いれる前と言うか、作る途中で持ってきたというか。
ああ、味噌汁で味噌入れる前みたいな感じかな。出汁っぽさもないから、あれはそれ以下だけど。
まさか、この世界ではあれが主流ってわけでもないわよね。
本の中ではさすがに食事風景の描写なんてなかったから、気にしたことはなかったけど。もし主流ならキツイわ。味なさすぎだもの。元現代人には耐えられないってば。
だけど描かれてなくとも、ここが生きた世界なら独自の文化があるってこともあるのか。
いやでも、それにしたってあれはないわ。
量も一般的に見て、あれでは子どもの朝ご飯ですら足りないと思う。大人が摂取する栄養としては、極端に少なすぎるだろう。
そう考えると、本当に今まで私ってここでどんな暮らしをしてきたのかしら。
それに気がかりなのは、あの侍女たちの態度。
あからさまに私を見下しているというか、バカにしているって感じだったわね。
現時点で分かっているのは、この体の子は元王女で、この家は公爵家。
そしてここへ嫁いできたらしいということ。
「元王女で、現公爵夫人でしょう? それなのにあの侍女たちの態度って、ありえないわ。たとえ主従関係がうまくいってないとしても、身分は明らかにこちらの方が上じゃない」
だいたい侍女っていうのは、使用人。つまり彼女たちにとって、ここは職場よね。
別に上下関係を持ち出すつもりはないけれど、雇用主がいくら公爵だからといって、その夫人にしていいことではないはず。
だけどあの感じを見ると、今までこの子は何も言い返してこなかったみたいね。
「もー。分からないことだらけね。なんでそこまで……」
なんで私は我慢なんてしていたんだろう。
ここの人たちに嫌われたくなかったから?
それともここには、誰も自分の味方がいなかったから?
「それにしたってなぁ」
それで寂しく死んでしまったら、意味ないじゃないの。
我慢なんてするから、余計に状況が悪化していってしまったわけだし。
少なくとも私は嫌だな。
彼女たちとの関係も、それ以外も全部。
前世とかに大した未練はないけれど、孤独のうちにまたもう一度死ぬなんて嫌よ。
「死んでしまったら何も出来ないのよ。もっとも、死んだから今ここにいるんだろうけど」
それは置いておいて、今のところ、このキャラクターというかこの子の名前すら分からないから、まずはそれを探らないとね。
私は部屋の中を見渡した。
貴族としては、かなりモノの少ない部屋。
装飾品も最低限であり、高級そうなものは何もない。
唯一ベッドに天蓋が付いていることと、高そうなのは真っ赤な絨毯くらいかな。
でもたぶん、この絨毯はどの部屋も一緒のような気がする。
だからわざわざこの部屋のために用意されたというより、初期装備品よね。
歩きながらそれらを確認し、クローゼットを開けた。
備え付けのクローゼット自体は大きいものの、その中はがらんとしている。
中に入っていたのは、数枚のドレスと質素なワンピースだけ。
「ん-。この派手めなドレスって、結婚前に持ってきたものかな」
色鮮やかなドレスは、部屋にそぐわないほど豪華だ。
宝石などが散りばめられており、おそらく夜会などで着るものだろう。
それにしても、少ない気もするのよね。
元王女様なんでしょう?
それなのにドレスすら、こんなにないの?
だいたいなんていうか、この部屋もそうだけど生活感が薄いのよね。
必要なモノすら足りていない感じ。
んー。とりあえず着替えて外や他の使用人たちの様子を見てみるしかないわね。
自分でも簡単に着替えられそうなワンピースを手に取り、私は一人外出の用意をする。
日焼け止めも化粧水も日傘も、何もかもないことに若干困惑しつつも、仕方なく私はそのまま部屋を出た。
1,185
あなたにおすすめの小説
公爵子息の母親になりました(仮)
綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた
しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる
一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい
そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく
「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」
「エルシー! 僕も大好きだよ!」
「彼女、私を避けすぎじゃないか?」
「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」
虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~
八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。
しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。
それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。
幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。
それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。
そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。
婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。
彼女の計画、それは自らが代理母となること。
だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。
こうして始まったフローラの代理母としての生活。
しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。
さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。
ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。
※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります
※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)
皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。
この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。
そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。
ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。
なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。
※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様
しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。
会うのはパーティーに参加する時くらい。
そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。
悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。
お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。
目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。
旦那様は一体どうなってしまったの?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる