愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)

文字の大きさ
4 / 78

004 興味がないのはこちらもです

しおりを挟む
 部屋の外には長く広い廊下があった。
 部屋は廊下を挟んで左右に数個あり、また中央には下へと続く階段がある。

 階段の手すりは金でつくられ、天井には水晶なのだろうか、輝く大きなシャンデリアがあった。

「絨毯はやっぱりどこも統一されているみたいね」

 さすが公爵家というところなのかしら。
 どれを見ても高級感たっぷりだ。
 私の部屋の中とは、いろいろ違うんですけど。

 こんなにお金あるなら、もう少し化粧品とか、あとはソファーとかあってもいいと思うのに。

 あんな木製の、簡素な一人用のテーブルセットじゃなくてさぁ。
 いや、あれでもいいけどせめてクッションが欲しいかな。
 ごつごつしていてお尻が痛くなっちゃうもの。

 でもいくら夫との仲が悪かったとしても、最低限の世間体ってあるとは思うのよね。
 意地悪にしたって限度があるっていうか。そこまでやるかって感じ。

 そう。仮に公爵が妻に無関心だとして、ここまで徹底的にやるかしら。

 むしろあの侍女たちが隠したとか、盗んだとかそっちの線の方があり得そうなのよね。

「んー」

 この中央階段にたどり着くまで、数名の使用人たちとすれ違ったが、誰もが私を無視するように避けて通っていった。

 いないものというよりは、どこか嫌悪を抱いている。
 皆がそんな表情に思えてならなかった。

「まぁ、被害妄想かもしれないけど。あんまり感じは良くないかな」

 少なくともこの体の持ち主だった子は、そう感じていたように思える。
 だから彼らの顔色をうかがうように、いつも視線を気にしていた気がした。

 どこにも味方はいなさそうね。うーん。困ったな。
 こんな右も左も分からない世界で、敵ばっかりだなんてどうしたらいいのよ。そんなことを考えると、ため息だけがこぼれてくる。

「はぁ」

 手すりを掴みながら、ゆっくりと階段を降りると、ちょうど一階の右わきにある部屋の扉が開いた。

 中から背は私より頭一個半くらい高いだろうか、ややガッチリとした体格でブルーグレイの短い髪、青い瞳の男性が出てくる。

 そして彼は私を見つけるなり、眉間に深く皺を寄せた。

「……アッシュ様」

 その名前は私の意思ではなく、自然に口からこぼれていた。意識や記憶はなくとも、体が覚えているらしい。そして睨みつかれているにも関わらず、不思議と嫌悪感はない。
 むしろ少し寂しいというか、悲しいというか。自分のものではないような感情が、胸に宿っていた。
 
「ビオラ、何の用だ? そんな貧相な格好をして、今度は俺の同情でも買いに来たのか?」
「貧相? 同情……ですか?」

 しかしそんな感情もトゲしかない彼の言葉に、完全にかき消されてしまう。

 同情って言葉を聞くのは、私の記憶が戻ってから何回目かしら。
 なに、今流行ってたりするの?
 そんなブームなんて全然いらないんだけど。

 こっちだって、そんなもの一ミリも売りたくもないわ。面倒くさい。なんなのこの人。いきなり朝一に顔を合わせて言うセリフじゃないと思うんだけど。

 でも一個だけ収穫ね。ビオラ、この子の名前がそうなのね。
 やっぱりこれで子どもの名前があれだったら、私が思っている物語そのものだわ。

 それにしても、貧相な格好で相手の同情を買うってどんな状況なのかしら。
 だいたいあのクローゼットに入っていた服は、ほぼこんなのばっかりだったじゃない。

 私は自分のワンピースを見た。
 確かにややすり切れたような薄いピンクのワンピースは、貴族令嬢が着るようなものではないことは分かる。

 むしろ前世でさえ、こんなの家の中でしか着られないレベルの服でウロウロした記憶はない。
 だけど用意されていた普段着がこれなのだもの。私のせいじゃないでしょう。

「とぼけても無駄だ。何度も言うが、俺は君になど何の興味もないからな」
「……はぁ、そうですか。私もないので大丈夫ですよ?」
「⁉」

 私の反応がいつもと違ったせいか、アッシュと呼んだ推定夫も、その後から出てきた従者らしき人も、顔をしかめた。
 
 そんな顔されたってねぇ。
 だいたい、中身はもうビオラでもないし。

 自分の妻に対して興味がないとか、自分だけいい服着て妻は貧相だとか。
 そんなこと言ってしまうような男、こっちだって興味ないわよ。

 いやぁ、本で読んだ時は確かにこのビオラが可哀そうで感情移入したけれど、現実ここに立つと、それよりもこのアッシュのキャラが嫌いすぎてビックリだわ。

 何なの、この人。モラハラなの? それともフキハラ?
 やだ、なんでこんな人と結婚したのよ、ビオラ。

 私があなたの友だちだったら、絶対止めてたわ。不良物件すぎ。
 今更返品できないのかしら。ビオラは良かったのかもしれないけど、私この人とずっと一緒なんて嫌よ。

 こっちだって我慢の限界というか、我慢なんてするつもりは一ミリもないわ。先に喧嘩を売ったのはそっちなんだからね。

「私もないって……」
「だいたいこの服はクローゼットにあったものです。ご用意されたのは私ではなく、公爵様ではないのですか? お気に召さないと言うのなら、これからはお気に召すものだけ入れておいて下さい。こちらもそのような言いがかりをつけられては非常に迷惑です。では失礼」

 私は言いたいことだけ言うと、呆気にとられた彼らを無視し、そのまま玄関の扉を開け外へと出た。

「ふふふ」

 言い返さないと思ったら大間違いよ。
 うん、腹は立ったけどちょっとこれでスッキリね。
 
 外の日差しはやや強く、初夏並みの暑さがあった。

 しかし空はどこまでも高く、雲一つない。
 それだけで、私はどこかスッとした明るい気分になった。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

公爵子息の母親になりました(仮)

綾崎オトイ
恋愛
幼い頃に両親を亡くした伯爵令嬢のエルシーは、伯爵位と領地を国に返して修道院に行こうと思っていた しかしそのタイミングで子持ちの公爵ディアンから、結婚の話を持ちかけられる 一人息子アスルの母親になってくれる女性を探していて、公爵夫人としての振る舞いは必要ない、自分への接触も必要最低限でいい そんなディアンの言葉通りに結婚を受けいれたエルシーは自分の役割を果たし息子のアスルに全力の愛を注いでいく 「私の可愛い子。たった一人の私の家族、大好きよ」 「エルシー! 僕も大好きだよ!」 「彼女、私を避けすぎじゃないか?」 「公爵様が言ったことを忠実に守っているだけじゃないですか」

離婚が決まった日に惚れ薬を飲んでしまった旦那様

しあ
恋愛
片想いしていた彼と結婚をして幸せになれると思っていたけど、旦那様は女性嫌いで私とも話そうとしない。 会うのはパーティーに参加する時くらい。 そんな日々が3年続き、この生活に耐えられなくなって離婚を切り出す。そうすれば、考える素振りすらせず離婚届にサインをされる。 悲しくて泣きそうになったその日の夜、旦那に珍しく部屋に呼ばれる。 お茶をしようと言われ、無言の時間を過ごしていると、旦那様が急に倒れられる。 目を覚ませば私の事を愛していると言ってきてーーー。 旦那様は一体どうなってしまったの?

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

処理中です...