【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです

美杉日和。(旧美杉。)

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008 逃げ場のない選択

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「まったくどうしておまえはそうも薄情なんだ。妹が窮地に陥っているのに助けたいとは思わないのか」
「それはこの前も言ったはずです。だから辞めさせるべきだったんです!」

 なんでもかんでも私のせいにしないでよ。
 結果なんて初めから分かっていたじゃない。

「始まってしまったものは、もうどうにもならないんだ」
「……そうでしょうね」

 そう言ってのけたものの、実際この先どうするつもりなのだろう。

 ハッキリいってマリンの実力では、試験になど一つたりとも通過できる見込みはない。
 
 元より病弱で勉強が遅れていたのもあるけど、基本的にあの子はそういったものが好きではないのだ。

 病弱だろうとなんだろうと、取り組む姿勢さえあれば本来ならばもう少しマトモに出来たはず。

 私とあの子に付けた教師は変わらないのだから、教え方の問題でもないはずなのに。

「そこで考えたんだ。このままではマリンには嫁ぎ先はない。だから一次も通らす試験に落ちた場合、マリンはおまえとしてリオン殿の侯爵家に嫁に出すこととした」
「は?」

 父の言っている言葉の意味が、まったく理解できなかった。

 あの子が一次試験すら通らなかったら、私としてリオンと結婚する?

 それはどういう意味なの。
 だって現に私はここにいるわけだし、いくらリオンだって私とマリンの区別はつく。

 それなのに……。

「意味が分かりません。私はここにいるんですよ? それにあの子が私に成り代わってリオンと結婚するなど、現実的に無理があるではないですか」
「そうだろうか?」

 父はニタニタと嫌な笑いを浮かべていた。
 私は思わず、母を見る。

 だけど母は私から視線をそらした。

「マリンがおまえに成り代わってリオン殿のとこに嫁として迎えられても、本人たちが何も言わなければ通ることだろう。なにせ、おまえたちは双子なんだからな」
「でも! リオンは私とマリンの区別がつくのですよ?」
「だから何だというんだ」

 だから何って。
 考えたくもなかった答えが、私を支配していた。

 区別がついても関係ない。
 マリンが私に成り代わっても、関係者たちがそれを漏らさなければ、他人の目など誤魔化せてしまう。

 でもそれは――

「リオンもその提案に納得したということですか?」

 そうだ。
 これは大前提として、嫁ぎ先である侯爵家とリオンが納得しなければ成り立たないのだ。

「ああ、そうだ。リオン殿はおまえの代わりとしてマリンが嫁いできても構わないと。一生、表面上はアイラとして愛しぬくと言ってくれたさ」

 どこまでもどこまでも。
 みんなで私のことを馬鹿にするのね。

 信じていたのに。
 言葉では『愛してる』って言ってくれなくても、いつでも会いに来てくれて、傍にいてくれた。
 
 リオンだけは私は私のままでいいって言ってくれていたのに。

 全部そんなものは嘘だったのね。

「だから選ばせてやろう。マリンとして王妃選定試験に参加するか。リオン殿をマリンに明け渡すか」

 どちらにしても、私が得をすることなど何一つない。
 結局、私を踏み台にして幸せになるのはあの子じゃない。

「一つだけ条件があります」
「なんだ」
「すべて勝ち抜いてしまえば、そのまま国王陛下のお目にかかることとなりましょう。そうなれば、替え玉がバレるかもしれません。私が協力するのは、あくまで一次試験の途中まで。最下位にならず、撤退することです」
「……まぁ、いいだろう。最下位にさえならなければいい」
「絶対ですからね」

 父はしぶしぶという形で、大きく頷いた。
 どのみち私の嫁ぎ先がなくなってしまえば、困ることには変わりない。

 だからそれよりはマシだと思ったのだろう。
 
 どこまでも許せないと思うのに、不思議と涙は出てこなかった。

 この時にはもうすでに、私の心は死んでいたのかもしれない。
 
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