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007 動き出すシナリオ
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あれから数日後。
リオンの説得すら聞き入れなかったマリンは、王妃選定試験に行ってしまった。
しかしその試験が始まった翌日早々に、危惧していた事態は起きてしまった。
昼になる少し前に私は執務室に呼ばれてはいると、すでに中には父と母がいた。
父の机の上には、一通の手紙。
そこには赤い蜜蝋で我が家の家門が押されている。
私は中など見なくとも、その内容が分かる気がした。
「マリンから急ぎの手紙が届いた」
「……そうなのですね」
「中身が気にならないのか」
顔をしかめ、やや父は強い口調で言う。
すると父の横に立つ母が、なだめるように父の肩に手を乗せた。
まったく気にはならない。
だけどそう口にすれば、父は激怒するだろう。
母が無言のまま、私に圧をかけていた。
「何が書かれていたんですか」
私のその言葉に、母の顔がほんの少し緩む。
「マリンから来たのよ」
「そうなのですね」
「今日から始まった選定試験なんだが、朝一に行われたお茶の試験でマリンだけが脱落し、このままだと帰されそうだと言うんだ」
父の言葉に、私は目を細めた。
母はそんな私の態度を見かねたのか、マリンの手紙を渡してくる。
目を通してもどうしようもないと分かりつつも、私はその手紙を読んだ。
手紙には、現在参加している令嬢は全部で七人。
しかし今朝の試験において、不合格をつけられたのは自分だけ。
このままでは自分が一番真っ先に脱落してしまう。
自分よりも身分が低い令嬢も数名いるのに、そんなことになったら我が家の恥だ。
この先笑いものになったら生きて行けない。
どうしたらいいか。
どこまでもそんなことが便箋いっぱいに書かれていた。
「だから言ったではないですか。あの子では無理だと」
「そんなことを今さら言っても仕方ないだろう!」
今さらって。
何度も忠告したじゃない。
結果など分かり切っていて、行かせた両親も、行ったマリンも悪いのはあなたたちでしょう。
私には何の関係もないじゃない。
「まったく困ったことになったものだ」
「下位の令嬢たちよりもマリンが劣っているなどと言われてしまえば、もう嫁ぎ先もなくなってしまうわ」
「それに何より、我が伯爵家の家門に傷がつく」
わざとらしく大げさに嘆く二人をただジッと見ていた。
なんの茶番なのかしら。
そんな風に言えば、私があの子に同情するとでも思ったの?
冗談じゃない。絶対に嫌よ。
「困りましたね」
「なんだその言いぐさは!」
「あなた……」
怒鳴れば私が言うことを聞くと思っているあたりが、本当に頭にくる。
私は操り人形じゃないのよ。
黙ってさえいれば、いつかその怒りは私の頭を通り過ぎ、諦めてくれるかと思った。
だけどそんなのは幻想にすぎず、父はあり得ないことを言い出したのだった。
リオンの説得すら聞き入れなかったマリンは、王妃選定試験に行ってしまった。
しかしその試験が始まった翌日早々に、危惧していた事態は起きてしまった。
昼になる少し前に私は執務室に呼ばれてはいると、すでに中には父と母がいた。
父の机の上には、一通の手紙。
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「マリンから急ぎの手紙が届いた」
「……そうなのですね」
「中身が気にならないのか」
顔をしかめ、やや父は強い口調で言う。
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だけどそう口にすれば、父は激怒するだろう。
母が無言のまま、私に圧をかけていた。
「何が書かれていたんですか」
私のその言葉に、母の顔がほんの少し緩む。
「マリンから来たのよ」
「そうなのですね」
「今日から始まった選定試験なんだが、朝一に行われたお茶の試験でマリンだけが脱落し、このままだと帰されそうだと言うんだ」
父の言葉に、私は目を細めた。
母はそんな私の態度を見かねたのか、マリンの手紙を渡してくる。
目を通してもどうしようもないと分かりつつも、私はその手紙を読んだ。
手紙には、現在参加している令嬢は全部で七人。
しかし今朝の試験において、不合格をつけられたのは自分だけ。
このままでは自分が一番真っ先に脱落してしまう。
自分よりも身分が低い令嬢も数名いるのに、そんなことになったら我が家の恥だ。
この先笑いものになったら生きて行けない。
どうしたらいいか。
どこまでもそんなことが便箋いっぱいに書かれていた。
「だから言ったではないですか。あの子では無理だと」
「そんなことを今さら言っても仕方ないだろう!」
今さらって。
何度も忠告したじゃない。
結果など分かり切っていて、行かせた両親も、行ったマリンも悪いのはあなたたちでしょう。
私には何の関係もないじゃない。
「まったく困ったことになったものだ」
「下位の令嬢たちよりもマリンが劣っているなどと言われてしまえば、もう嫁ぎ先もなくなってしまうわ」
「それに何より、我が伯爵家の家門に傷がつく」
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なんの茶番なのかしら。
そんな風に言えば、私があの子に同情するとでも思ったの?
冗談じゃない。絶対に嫌よ。
「困りましたね」
「なんだその言いぐさは!」
「あなた……」
怒鳴れば私が言うことを聞くと思っているあたりが、本当に頭にくる。
私は操り人形じゃないのよ。
黙ってさえいれば、いつかその怒りは私の頭を通り過ぎ、諦めてくれるかと思った。
だけどそんなのは幻想にすぎず、父はあり得ないことを言い出したのだった。
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