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006 私の味方
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部屋に戻り少し落ち着くと、やはりどうしようもない怒りがこみ上げてきた。
それは枕を投げつけても、地団太を踏んでみても、消えることはない。
「いつでもこの家があの子中心で回っているのはわかっていたけど。でもそれでも、あんな言い方しなくてもいいのに」
さも私のことなどどうでもいいような発言。
何もかもマリン中心で、あの子が幸せになるためのコマみたいじゃない、私。
悔しさは涙となってあふれ出てくる。
いつまで我慢しなくちゃいけないの?
何もかもうんざりよ。
堪えきれなくなった私は、リオンに急ぎの文を書いた。
さすがに身代わりになれという話は書けなかったけど。
マリンが国王陛下の花嫁候補として選定試験を受けること。
そのためにうちの跡継ぎがいなくなってしまうかもしれないこと。
不安と不満。そして少しの悲しみを込め、朝一で届く様に侍女に手配してもらった。
ほぼ眠れぬまま朝を迎え、一人窓の外をボーっと眺めているとリオンの馬車が見えてくる。
「リオン? 急ぎの文を見て、心配になって会いにきてくれたのかしら」
いつもなら先触れを出して、約束をとりつけてからきちんと訪ねてきてくれるリオン。
そんな彼がこんな早朝に駆けつけてくれた。
そんなに私のことを心配してくれたなんて。うれしい。
私の味方はやはり彼しかいないわ。
いてもたってもいられなくなった私は一階に降り、玄関の扉を開けた。
すぐに横付けされた馬車からは、蒼白のリオンが下りてくる。
「リオン!」
すぐに抱きつけば、なぜか彼は私の両肩に手を置き、力強く私を引き離した。
「リオン?」
「あの手紙の内容は本当なのか? マリンが妃候補の選定試験に出るって」
「え、ええ。そうなの。止めたんだけど、あの子自分は条件にピッタリだから出るって聞かなくて」
私の話を聞くうちに、なぜかリオンは不機嫌さを隠そうとはしなかった。
こんな風に怒っているリオンを見るのは初めてな気がする。
彼と初めて会ったのは、私がまだ五歳の頃。
その頃からずっとリオンは私の傍で微笑んでくれていたのに。
「いくら条件がピッタリとはいえ、病弱なマリンでは無理だろう」
「私もそう言ったのだけど、大丈夫だって言いきっていて。だから父も母もそれに賛成してしまって……」
「ありえないだろう! ぼくが説得してくる」
私の肩から手を離すと、その脇をすり抜ける様に一人リオンはマリンの部屋へと向かっていった。
何が起こったのか理解できない私は、ただその場で一人立ち尽くす。
「リオン……」
リオンが説得するのは、私のためよね。
そうじゃなくとも、自分の義妹となるマリンの体を心配してのことよね。
「そうよね……きっとそうよ。だって……」
そうじゃなければ、唯一の味方も失ってしまうじゃない。
そんなことなど、考えたくもなかった。
それは枕を投げつけても、地団太を踏んでみても、消えることはない。
「いつでもこの家があの子中心で回っているのはわかっていたけど。でもそれでも、あんな言い方しなくてもいいのに」
さも私のことなどどうでもいいような発言。
何もかもマリン中心で、あの子が幸せになるためのコマみたいじゃない、私。
悔しさは涙となってあふれ出てくる。
いつまで我慢しなくちゃいけないの?
何もかもうんざりよ。
堪えきれなくなった私は、リオンに急ぎの文を書いた。
さすがに身代わりになれという話は書けなかったけど。
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不安と不満。そして少しの悲しみを込め、朝一で届く様に侍女に手配してもらった。
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「リオン? 急ぎの文を見て、心配になって会いにきてくれたのかしら」
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そんな彼がこんな早朝に駆けつけてくれた。
そんなに私のことを心配してくれたなんて。うれしい。
私の味方はやはり彼しかいないわ。
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すぐに横付けされた馬車からは、蒼白のリオンが下りてくる。
「リオン!」
すぐに抱きつけば、なぜか彼は私の両肩に手を置き、力強く私を引き離した。
「リオン?」
「あの手紙の内容は本当なのか? マリンが妃候補の選定試験に出るって」
「え、ええ。そうなの。止めたんだけど、あの子自分は条件にピッタリだから出るって聞かなくて」
私の話を聞くうちに、なぜかリオンは不機嫌さを隠そうとはしなかった。
こんな風に怒っているリオンを見るのは初めてな気がする。
彼と初めて会ったのは、私がまだ五歳の頃。
その頃からずっとリオンは私の傍で微笑んでくれていたのに。
「いくら条件がピッタリとはいえ、病弱なマリンでは無理だろう」
「私もそう言ったのだけど、大丈夫だって言いきっていて。だから父も母もそれに賛成してしまって……」
「ありえないだろう! ぼくが説得してくる」
私の肩から手を離すと、その脇をすり抜ける様に一人リオンはマリンの部屋へと向かっていった。
何が起こったのか理解できない私は、ただその場で一人立ち尽くす。
「リオン……」
リオンが説得するのは、私のためよね。
そうじゃなくとも、自分の義妹となるマリンの体を心配してのことよね。
「そうよね……きっとそうよ。だって……」
そうじゃなければ、唯一の味方も失ってしまうじゃない。
そんなことなど、考えたくもなかった。
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