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015 生きる意味
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ほどなく面会の許可を得たと言いい、リオンが私に会いに来てくれた。
リオンならば、どちらに転んでも私を助けてくれるはずだと思った。
だって彼は、私よりもマリンを選んだのだから。
そう思ったのに……。
「マリン!」
リオンは部屋に入ってくるなり、そう叫びベッドで寝たままの私の足もとにすがりついた。
そして今まで一度だって見たこともない、大粒の涙を流している。
「リ、オン?」
私は彼の行動の意味が分からず、身じろぎしながら声を上げた。
「マリン、マリン、マリン」
ただずっと泣くリオン。
一つだけ分かるのは、その涙は私へのものではない。
「やめて、リオン。私は……ちがう」
アイラだと言いかけた私を睨みつけ、リオンが先に声を上げた。
「何も違わないさ。ああマリン、君が生きていてくれてよかった」
「聞いて、待って、私は……」
「ぼくにとってマリンが全てなんだ。初めて君を失うかもしれないと思った時、もう生きた心地がしなかった。だからあの時、君は王妃選定試験に出たいと言った時、もっと強く止めていればよかったんだ」
私がマリンではないと分かっていて、あなたもマリンだと言うのね。
自分にとっては、私よりもマリンが大事だから。
マリンがいないと生きていけないから。
「いつから、そんな」
「ずっとさ。前にも何度も言っただろう? マリン、君を愛しているって」
私にはくれなかった言葉を、こんなにも簡単にあなたは言うのね。
聞きたくなかった。
一番聞きたくなかった言葉だわ。
身体よりも、心が黒く染まり死んでいくような感覚だった。
ああ、身体なんかより、心の方がずっと重いのね。
こんなことなら、本当に私が死んでしまえばよかったのに。
私が生き残った意味はなに?
なんで私なの?
こんなにも、こんなにもみじめで。
何一つ私のものなんて、この世界には存在していなかったのに。
「親には君と婚約を結びなおすようにお願いするさ。だからあと少しの辛抱だ。怪我が良くなったら、ぼくの家に行こう。もう二度と君を離さないよ」
傍からみれば、きっとそれは素敵な愛の囁きなのだろう。
だけど私にはそれは、絶望の言葉でしかなかった。
「ぼくの愛しいマリン。どうか泣かないでくれ」
リオンは立ち上がり、私の枕元へ近づくと、その手で涙を拭おうとする。
しかし私はその手を払いのけ、ただ彼を睨みつけた。
彼が再び声を上げようとしたその時、大きな音を立てて扉が開く。
あの時のことを思い出す体が、震えるのが自分でもすぐに分かった。
リオンならば、どちらに転んでも私を助けてくれるはずだと思った。
だって彼は、私よりもマリンを選んだのだから。
そう思ったのに……。
「マリン!」
リオンは部屋に入ってくるなり、そう叫びベッドで寝たままの私の足もとにすがりついた。
そして今まで一度だって見たこともない、大粒の涙を流している。
「リ、オン?」
私は彼の行動の意味が分からず、身じろぎしながら声を上げた。
「マリン、マリン、マリン」
ただずっと泣くリオン。
一つだけ分かるのは、その涙は私へのものではない。
「やめて、リオン。私は……ちがう」
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「何も違わないさ。ああマリン、君が生きていてくれてよかった」
「聞いて、待って、私は……」
「ぼくにとってマリンが全てなんだ。初めて君を失うかもしれないと思った時、もう生きた心地がしなかった。だからあの時、君は王妃選定試験に出たいと言った時、もっと強く止めていればよかったんだ」
私がマリンではないと分かっていて、あなたもマリンだと言うのね。
自分にとっては、私よりもマリンが大事だから。
マリンがいないと生きていけないから。
「いつから、そんな」
「ずっとさ。前にも何度も言っただろう? マリン、君を愛しているって」
私にはくれなかった言葉を、こんなにも簡単にあなたは言うのね。
聞きたくなかった。
一番聞きたくなかった言葉だわ。
身体よりも、心が黒く染まり死んでいくような感覚だった。
ああ、身体なんかより、心の方がずっと重いのね。
こんなことなら、本当に私が死んでしまえばよかったのに。
私が生き残った意味はなに?
なんで私なの?
こんなにも、こんなにもみじめで。
何一つ私のものなんて、この世界には存在していなかったのに。
「親には君と婚約を結びなおすようにお願いするさ。だからあと少しの辛抱だ。怪我が良くなったら、ぼくの家に行こう。もう二度と君を離さないよ」
傍からみれば、きっとそれは素敵な愛の囁きなのだろう。
だけど私にはそれは、絶望の言葉でしかなかった。
「ぼくの愛しいマリン。どうか泣かないでくれ」
リオンは立ち上がり、私の枕元へ近づくと、その手で涙を拭おうとする。
しかし私はその手を払いのけ、ただ彼を睨みつけた。
彼が再び声を上げようとしたその時、大きな音を立てて扉が開く。
あの時のことを思い出す体が、震えるのが自分でもすぐに分かった。
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